第2話 人は見かけによらない(後編)
昼休みは、例のオタクグループで席をくっつけて昼食を食べることになった。
「やったー、昼休みのボッチ回避成功!」
そう言って俺の正面に座った赤髪のパリピ女子は
「媛花の苗字って淀川だろ? 淀川って、確か大阪に流れてる川だよな?」
「合ってるよ。ウチ、生まれてから中学2年の夏まで大阪で生活してたし」
「その割には標準語完璧だね」
「ありがとう、亮。こっちにくるまでに、ひたすら標準語の発音を練習して矯正したんだよ」
そんなこと言ったら、ヤツが悲しむぞ。
「……もったいない」
「え? 博人も大阪出身じゃないの?」
誤解されてらっしゃる。こっそりと媛花に教えてあげることにした。
「こいつ、生まれも育ちも札幌だ。大阪弁を喋ってる理由は、多分好きだから」
「え、そうなの!? ウチってば勝手に誤解してた!」
「いや、気にすることはない。ここは個人の自由が尊重される国だ」
そう呟いて、紙パックのカフェオレにストローをぶっ刺して飲み始めた。博人の手元には焼きそばパンが二つ置いてあった。
「なんで焼きそばパンを二つ持ってる? 他のパンを買えばよかった──」
「何もわかってない……何もわかってないよ颯くんは!」
「なぜ二回言ったんだ
「焼きそばパンだからこそ意味があるんだよ! ラブコメの王道、購買といえば焼きそばパンの争奪戦──!」
「甘い……甘いで玲華! 焼きそばパン争奪戦はもう時代遅れや!」
「そんなことない!いつの世も焼きそばパンは深く愛され──」
「その辺にしとけ。周りの目が痛い」
「「……はい」」
とても周りの好奇の目に耐えられずに静止してしまった。個人的には深く愛されてどうなったのか聞きたかったが、またヒートアップしたら面倒なだけだからやめた。
一方の亮はクスクス笑ってるし、媛花に至っては抱腹絶倒してる。
「そう、これこれ、これこそがオタク(笑)」
「同類を笑うのは止した方がいいぞ。ブーメラン帰ってきても知らんからな」
「オタ、オタクwww」
──ダメだこりゃ。
※ ※ ※
高校に通って痛感したことがある。
それは、「人は見かけによらない」。これに尽きる。
若い、優しそうな先生はかなりのネット厨でネットスラングの数々をしれっと会話に混ぜてくる。
オタ友は全員、第一印象とほぼ真逆の性格だった。紹介できなかったが、媛花はパリピっぽいが、人前で発表するとなると高温で溶かしているガラスなみに顔が赤くなる。髪が赤いから、どこまでが髪で、どこからが顔なのかわからなくなるほどだ(流石に嘘である)。
ただ、地元と比べたら何十倍も刺激がある。普通でありたくなかった俺は、特別な何かになろうとしてこの高校に入った。
蓋を開けてみれば、周りは変人しかいなかった。それでいてオタクに優しく、それでいて頭がいいから話が弾む。
今日の6時間目に一つだけ授業があった。科目は化学基礎。オリエンテーションだけで、さらっとどのようなことを勉強するのか紹介された。
授業が終わって、隣にいる亮とこんな会話をしたのだ。
「中学と雰囲気が全然違うね」
「そうだな。確かに、これが基礎なのかって感じだよな」
「ところで、颯は理科が好きなのかい?」
「子供の頃から理系少年だった。亮はどうなんだ?」
「僕はここ最近好きになった。きっかけは、デーモンコアだったよ」
「……知ってんのか!?」
「驚き過ぎだよ。よくゲームに出てくるデーモンについてネットを漁ってたら、偶然それを見つけて、気になって調べたらハマったっていうだけの話だよ」
「……そこで気になって調べるのがすげぇよ」
まさか、化学の話が出来るなんて思いもしなかった。やはり、これがレベルの違いなのだろうか。中学の頃なんて、
『なんで救急車のサイレンって、遠ざかっていくほど音が低くなるんだろうね』
『それをドップラー効果って言う──』
『あんたには聞いてない』
『……ハイ』
やめたやめた。もう思い出すのはやめよう。虚しくなるだけだ。
とにかく、高校は自分の好きなことについて話せる友達がどこかに必ずいることの喜びが大きい。
もちろん、毎日が楽しいわけではないだろう。いつか、誰かと喧嘩をするかもしれないだろうし、成績が伸び悩んで腹が立つこともあるかもしれない。でも、あの中学時代と比べたら痛くはない。痒いかもしれないが。
明日からは部活の仮入部週間が始まる。そこでもっとコミュニティを広げて、悔いのない三年間にしてやる。
そう決意して、家の帰路につくのだった。
※ ※ ※
家の鍵を開けて中に入る。「ただいま」と口にはしたが、もちろん返事はない。
リビングのソファの上にダイブしそうになったが、制服にシワがついたら困るから、諦めて部屋に向かった。
部屋のドアを開ければ、そこにあるのはベッドや机、数々のアニメのポスターとフィギュア、そして死体。
────死体!?
目の前には、天井から吊るされたロープを首に巻きつけてぐったりとしている女子がいた。
見るからに、首吊り自殺をしたのだろう。
そして、その女子は見たことがある……いや、つい先ほどまでずって見ていた、俺と同じ高校のセーラー服を着ていた。
もう、何が何だかわからない。パニックになった俺はトンチンカンなことを言い出した。
「えぇっと、まずは、110番! いや、警察? 違う、じゃあ、ひゃ、119番──」
「落ち着いてください、颯くん」
目の前にいる死体だったはずの人が突如として口を開いた。
──この声、ついさっき聞いたはず。
その違和感は、女子が顔を上げたことで払拭された。
「玲華……なのか?」
「はい、そうです」
ダークブラウンのポニーテール、委員長っぽい、凛々しくも優しそうな顔。間違いなく、古珠玲華だった。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「言ってる場合か! えっと、まずは救急車から呼んだ方が──」
「安心してください、颯くん」
彼女は、口から血を垂らしながら言った。
「──私、何をしても死なないから」
死ねない霊の玲華さん 山波アヤノ @yokkoo
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