第2話 人は見かけによらない(前編)
人生で初めてLINEのグループに入った。
中学の頃にも学級グループは存在した。しかし、皆さんお察しの通り、ハブられて
いたから入っていない。
初のLINEグループ、しかもオタク仲間。まさか入学初日で5人も友達ができるとは思いもしなかった。
高校生活は順調に楽しめそうだ。
※ ※ ※
次の日、朝のラッシュに遭遇したくなかったという理由で早めに家を出た。
流石に30分も早く出たら人は少なかった。余裕な心持ちでホームに滑り込んできた地下鉄に乗る。ここから5駅先が高校の最寄駅だ。
この次の3駅は街の中心部にあたる駅だから、大勢の人が乗ってきた。しかし、立っている人が昨日と比べてかなり少なかったから楽な気持ちで登校できた。
改札を出ると、見知った人物が前を歩いていた。
「おーい、
「あ、颯や。おはよー」
博人と呼んだ人物は、今日も今日とて坊ちゃ
んのような整った髪に黒縁メガネをかけていた。
「ところで颯、昨日の深夜アニメ見たか?」
「いや、見てない。てか、俺ん家テレビない」
「ダニィ!?」
「なんという驚き方してんだ」
「いや、いやいやいや、テレビなしでどうやって生活するんや!?」
「オンデマンド配信をパッドで見てる」
「そういう手段もあったか」
一旦会話が途切れる。
ここでふと、博人の視線が気になった。
「どこ見てんの?」
「いや、自分のカバン、今日はアスナやないんやなって」
「ん?自分?」
「あー、その、大阪弁で二人称を自分って言うんや」
「お前、ほんとに札幌出身なのか?」
むしろ「大阪出身でした」と言われた方がしっくりくる。
「……そういえば質問に答えてなかったな。今日はシノンだ」
「毎日変えてるん?」
「いや、気まぐれだ。家にあらストラップとかキーホルダーが150個だから、大体2、3日に一回取り替えるかどうかだ」
「ど田舎に住んでたんやろ? そんな量、どうやって揃えたんや」
「主に通販で買った。あと、夏と冬に東京の実家に帰るから、そのときに秋葉原寄って爆買いする」
「飛行機に乗るとき、荷物の重量オーバーにならんか?」
「ならないように計算してる」
「無駄に頭ええな」
入学2日目にして、早速オタク会話に花を咲かせて喜びに満ちた状態で登校することができた。目の前には高校の校門が見える。楽しいと時間の経過が早く感じる。
そこにまた、見知った頭が一つ見えた。
「こみりょー発見や!」
「え、もうあだ名呼びかよ」
「お、颯と博人か。おはよう」
朝っぱらから爽やかスマイル見せつけやがって、このイケメンめ。惚れてまうやろ。
心の中で軽く毒突く。笑顔が眩しいのは事実だが、同じ男として自分が悲しくなってくる。
『あれー、柳田クン。顔引きつってない?キモいんですけど』
『ほんとだー、キモーい』
やめろ、思い出すな俺。中学時代、修学旅行の集合写真で笑顔ができなくて1人だけ顔がひきつってたおかげで、女子からいじられた思い出なんて。今はそれを知る人なんていないんだから。
「おーい、颯。大丈夫か? 丸焼きにされた魚みたいな目をしてるぞ」
「なんて例えだよ」
昨日話してわかったことがある。亮は外見とは違って中身は変人だった。「殺せんせーが巨乳の女性をスルーするくらいヤバイ」とか、「演歌歌手がデスボイスを出すくらいシビれる」とか。もう、訳がわからない例えをしてくるほどに変人だった。あと、かなりのサディスティックな性格で、昨日は結構な頻度で博人をいじってた。
「……ほんと、第一印象って役に立たないな」
「どうしたんや突然」
※ ※ ※
高校生初の朝のホームルームは意外とあっさりしていた。
中学の頃は、日直が司会進行をして昨日の清掃点検だの朝のニュース発表だのと、いろいろとやることがあったのだが、高校は先生が連絡事項を話して終わり。あっさりしているが合理的で楽だった。
なんて評価してたら、ホームルームが終わってすぐに、今後の命運を分ける例のアレが始まった。
「んじゃあ、自己紹介やりますか」
あ、俺、何も考えてない。ゆっくり考えることもできなさそうだった。
この学級の生徒は40人で、男子15人、女子25人。俺は出席番号14番で、自己紹介は1番からスタート。割と早めに回ってくる。
どうしよう。「どうもー、ガチオタでーす」なんてぶっちゃけていいのだろうか。それても穏便に「趣味は音楽鑑賞です(アニソンをよく聞くから嘘ではない)」と言うべきだろうか。
迷ってるうちに、となりのイケメンが立ち上がった。俺の自己紹介まで、あと6ターン。
「小宮亮です。出身中学は
小宮亮は、イケメンだった。しかも、宮浦中学校というエリートだった。俺も中学受験でそこを受けたが、玉砕した。凡人が通うところではないというのが全員の共通認識だった。
それから、オタクであることをカミングアウトしながら周囲が退かないように話をオブラートに包む。そしてイケメンスマイルである。女子の何人かが今ので落ちたのではないだろうか。
まあ、オタク友達がこれで通ったなら、俺もいけるだろう。自己紹介は包み隠さず話すことにした。
結論から言うと、教室の気温が3度くらい下がった。
話す言葉は問題なかった(はず)だが、笑顔が引きつってしまった。おかげ様で教室にいる人間の6割は退いてた。
──終わったな。女子と会話できる日はいつくるのだろうか。
「そうか。お前もオタクだったか。やりますねぇ」
……。
…………おい担任。しれっとホモビ男優の口調で言うなよ。男子の何人かが下を向いて肩を震わせてるじゃねーか。
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