第4話 首輪
まずは藤花の試験をこちらに回して貰おう。時間が惜しい。平日は仕事とかもあるためだ。
今まで気にしてなかったが藤花って何歳なんだ。
「藤花、失礼な質問だし答えたくなければ良いんだが何歳だ?」
「17歳です。」
「ん?」
「17歳です。」
「高校は?」
「飛ばしました。高校三年生までの範囲は高校一年生の時に網羅しましたので。」
流石は政治家の娘だ。私も祖父に様々なことを仕込まれたが高校は三年間通い続けた。大学は中退したが。
「大学に行くつもりはあるか? あるならそれ相応の対応をするが。」
大学に行く場合も入隊は必須だが、藤花に一人ぐらい付き人を付けておきたい。
「聡様が行けと言われる場合以外行く気はありません。」
「そうか。」
ただそれだけしか言えない。今、自分には藤花のすべてを独占する覚悟も器もない。互いに異質すぎるのだろう。そうとしか言い表すことが出来ない。そもそも私にとって異質であることが普通であり、彼女もそうなのだろう。誰しも自分を基準に物事を考えるのだろう。であるなら私が普通、彼女が普通なのだ。といっても彼女のことはほとんど知らないわけだが。
「試験は私の方に回して貰う。うちで使う人間だ、それくらいの融通は利かせるから安心してくれ。船上では私に付いていればいい。陸上では殺って貰わなければいけないだろうが。」
「私はこの刀さえあれば敵は何人でも殺しますし殺せます。」
と、藤花は違和感なく腰に差していた打ち刀を撫でた。あの日、ホテルに置いてあった物だ。
先の受付まで戻ってきた。ここで用事を済ませたらすぐに島へ向かおう。仕事もあるが島でも出来るし、皆が来る前に船を見ておきたい。4年ぶりくらいだからな。
ちなみに受付の男性は
「この子の試験はこちらで行う。採用後すぐに私が引き抜く。後、私のスペツナズを呼集、島へ、私も島へ行く。」
「相変わらず人の扱いが荒いですね。えぇ、了解しました。ですが凉音さんにこってり絞られるんでしょうね。」
「凉音」も島に来るだろう。藤花に説明するのはその後でいいか。
「まぁ、わかって貰うよ。彼女は心配してくれてるだけだから。」
そういい、駐車場に足を向ける。藤花は私の一歩後ろを付いてくる。いつかはちゃんと真横を共に歩いて欲しい。
「先ほど話題に出た凉音さんのこと、教えていただけるのですよね?」
そう思った矢先、藤花は私の一歩前に出て私を見上げ、問いを投げてくる。
「あぁ、島に行けば嫌でもわかる。すぐに会えるかはわからないが。」
彼女が島に着くのが先か、我々が着くのが先か。恐らく彼女の方が早いのだろうな。いつもそうだった。私が呼べばいつでも来てくれる。スペツナズの中で一番、初めに私に忠誠を誓った女性。そして私のスペツナズの隊長。藤花の試験は彼女に任せようと思う。そうしなければ凉音は納得しないと思う。藤花の試験は入隊のためだけではないのだ。凉音は藤花を信用に足る存在だと判断しなけれ藤花を一瞬にして消し去るだろう。私のために。
――
また聡様の車に乗り、移動する。
「凉音」。彼の心の奥に住み着いてるであろう女性。私は彼女を消したい。彼女のことを話す彼が美しいから。私はそれを許容できない。歪んでいることは重々承知。でも、私は彼を愛して、彼に恋して、彼の所有物になった。そして彼も私のモノになった。なら縛らせて。私の鎖であなたのココロを。
そんな緋色の感情を私は胸の内に抱いていると聡様が私を見た。少し呆れた目で、また寂しそうな目で。
「……どうか、しましたか?」
私は不安になった。今の感情を彼が知って、そして理解できなかったらどうなる。気持ち悪いでしょう、私が。
まだ聡様の心に根付いていないのに、捨てられたくない。
「いや、なんでもない。島に行けば買えないからチョーカー、買っておくか。」
「はい!」
私の不安は一気に消え去った。
聡様が私の感情に気づいたかはわからない。もしかしたら気づいて認めてくれたのかもしれない。今の私を。
でもそんなことよりも私は彼に首輪を付けられたい。別に私はマゾヒストではない。首輪は、蛆どもが私に付かないように、そのために他でもない聡様の首輪が欲しい。
そして彼も私の首輪で縛りたい。でもそれは良いかなと思う。あくまで直接的には、だが。間接的に、そう、心を私の鎖で縛る。これだけは譲れない。不安だもの。仕方ないですよね。
私は聡様に連れられ空港の近くのアウトレットへやってきた。
チョーカーのことで頭がいっぱいだったけどこれって、デートだな、と今更思った。聡様はそんなこと思っていないのか平然とした顔つきで私の前を歩いている。
少し大胆なことをしてみようか。聡様に淫乱とは思われたくないけど、私をちゃんと女性として認識して貰いたい。もしかしたら平然を装っているだけかもしれないけど。
そして私は彼の空いた右手に抱きついた。少しだけ胸を押しつけながら。
「藤花。歯止めがきかなくなるからいきなりはやめてくれ。」
聡様の顔を見ると少し赤みがかっていた。
かわいくてつい、私は胸を押しつける力を強くしてしまった。
「んっ。」
気がつくと私の唇は聡様に奪われていた。
自分の頬がだんだん熱くなっていくのがわかる。
「んんっ!」
聡様の舌が私の口内に入ろうとしてくる。
そこでここがアウトレット内であったことを思い出した。
すぐに聡様から距離をとる。私の痴態は聡様だけのモノ。そこら辺の蛆どもに見せたくない。そして聡様のも。
「すみません。意地悪をしました。」
「こちらこそ悪い。理性が保てなかった。私の方が年上なのにな。」
「嫌々、私は求めていただけて嬉しいですよ。ただ二人だけの時に私のすべてを求めてください。そうすればあなたのすべてを触媒に応えましょう。」
「さ、店はすぐそこだ。好きな物を選んでもらって構わない。」
「わかりました。ですが最後は聡様がお選びください。あなたのモノの証となるのですから。」
私は店の中に入り商品を一通り見て、シンプルな黒いチョーカーとリボン付きの白いチョーカー、赤い宝石が付いたチョーカーをピックアップした。どれも同じくらいの金額でそろえた。理由はデザインで決めて欲しいから。デザインのピックアップには特に意味はないけれど。
「黒、かな。構わないか?」
「えぇ、聡様がそれでよろしいなら。」
聡様は黒いチョーカーをとるとレジに向かっていった。
私も早く聡様の心を私の鎖で縛りたいな。狂気的かもしれないがこれが私だ。私が定め、私が貫く私という存在だ。
いつか、必ず。
二人の「コドモ」 如月 凉 @kisaragi_suzu
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