あとがき(解説)
初めまして。ここでは僕とさせていただきます。いきなりですが、あとがきにいらしたのはカクさんでしょうか、ヨムさんでしょうか。
いらしたのがカクさんであれば、僕の小説を読んで、その構成に衝撃を受けたのではないかと思います。
夏雪は14万文字に満たない作品ですが、登場人物たちが複雑に絡みあっていて、芸術に関わる重いテーマを扱っていたり、第四の壁を壊す台詞があり、物語そのものがひっくり返ったり、作中作が入れ子構造になっていたり、最後にジャンルが変わったり……一言でどんな小説であるとは僕からも説明できません。
いうなれば、「無テーマ・無ジャンル」の小説です。伝えたいことが何も無いのではなく、色々な要素を含んでいる。
サブタイトル一つ終わるごとに小説が成長するので、ある意味では小説そのものが主人公といえますね。
ところで、皆さんはキャラクターたちの容姿をどんなふうに想像しましたか? ヒロインは可愛いですか? 主人公は冴えない顔立ちですか?
仮にどんな容姿を想像していたにせよ、それらはすべて間違っています。なぜなら僕は一度も、キャラクターの顔を描写してませんので。
髪型や服装、肌の色、表情は書きましたが、顔のパーツの整いようについては何も触れておらず、ヒロインが美女なのか
夏雪はライト文芸でありながら、「カオなし」の小説です。
これが後付けではないことの証明に、作中で〈荻原唯〉とタイトルがついた絵がありますよね。1話にも「あの絵」と強調されてるやつです。
わざわざ物語の中盤にあたる話を冒頭にもってきて、さらに傍点をつけるくらいですから、何かしらの意味があるのではないかと勘繰られたでしょうね。
まさにその通りで、これは二年も前から仕込んでいた僕からの最初の仕掛けです。
作中に「チッペンデールと青い猫 2」でこの絵を譲ってくれと主人公が沙耶さんに懇願するシーンを書いたのですが、そこに、
なかでも顔だけが不自然に描かれていない人間から目が離せなかった。
肝心な部分に穴が空いている、空っぽな人間。まるで俺のように。
とあります。
実のところそれは絵の説明をしていたのではなく、小説のキャラクターには顔がないことをほのめかす仕掛けで、僕が本当に気づいてほしかったものです。
もし感想欄でそのことを指摘されたら、その人にだけ返信をしようと決めていました。
夏雪が伏線まみれのすさまじく複雑な構成であるのは、キャラクターに顔がないことを気づかせないためのカモフラージュでした。
なので今日、僕はここに勝利宣言をしておきます。あなたがたは僕に勝てなかった!
冗談はさておきまして、もしもあなたが勝手にヒロインたちを想像していたとしたら、これほど作者冥利に尽きることはないでしょう。
顔がなくとも魅力的で、生きているキャラクターを書けるのかという、僕の試みが成功したことになりますから。
あとですね、夏雪のヒロインである沙耶さんにはモデルがいます。
ライトノベル作家に「
厳密には、彼の小説に出てくるサブキャラクターが好きです。
部屋が汚い美大生である沙耶さんのモデルは、彼の小説「いたいのいたいの、とんでゆけ」に登場する「
しかしそのまま借りてくると盗作になりそうなので、「心が読める」「ピアニスト」という要素を付け足してね。
あくまで動機です。
ですが実際に取材を進めていくと三枝さんにしたかったはずなのに、だんだんと取材対象である芸大生の女の子の影響を受け始めて、沙耶さんは実在する人物にかなり近い性格となりました。僕にはその子の心が読めないので、本当に沙耶さんと同じかどうかわからないですが……。
沙耶さんの名前は、同小説の冒頭に一文だけ名前のみで登場する「
唯さんは、彼の「電話をかけていた場所」シリーズのヒロインである「
スモークさんは、「三日間の幸福」の主人公であるクスノキが「余命を使って自動販売機を撮りまくる」あたりの会話で、ポール・オースターの「スモーク」について語るところから。「幽霊探し」は、電話をかけていたシリーズの「
窪田くんは…………該当なしです。可哀想に。ストーリーで虐待親を殺してしまうのは「
ハルさんも名前の該当なしです。強いていえば、僕の好きな「BEASTARS」のキャラクターがハルなこと(最近みたので関係なし)。事故で放火殺人犯になってしまうのは初鹿野さんから。
こんな感じで、三秋先生への愛が垣間見えたと思います。これほど借りているのに、まったく違うというか似てすらいない物語になってしまうのは、小説の面白いところですよね。
ちなみに「美術館に隣接する公園」ですが、モデルは「白川公園」と「名古屋市美術館」です。さすがに科学館は書けなかったよ。溝川と商店街は「大須観音駅」付近にあります。
何はともあれ、夏雪の初投稿から二年が経ち、やっと完結してあげられたことをとても嬉しく思います。
いつか続編を書くかもしれません。
web小説ならではの革命的な構成の小説として、名を馳せてくれると信じています。
ではまた、どこかで。
夏の雪解け スズムシ @suzumusi
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