12-4

 遂にバトルは始まった。楽曲は四人とも共通の課題曲なので、スタートのタイミングは一斉である。注目を受けているのは間違いなくレッドダイバーだ。そして、ブラックダイバーだろう。


【本命はレッドダイバーだな】


【しかし、ブラックダイバーもレベルを踏まえるとそこそこのプレイヤーでは?】


【だが、他の上位プレイヤーも油断は出来ない。このバトルだけで変化するとは思えない】


【あのプレイだと、明らかに二人の一騎打ちになる。スコア的な意味でも】


【リズムゲームプラスパルクールは片方のパートが上手くてもスコアは出ない。両方がバランスをとれてこそ、真価を発揮する】


【他にも便乗勢力がいそうで、いなかったな】


【そこまでやっていたら、それこそ週刊誌の漫画みたいになるだろう】


【人気作であればある程、終わる事が出来ないジレンマか】


【そう言った話は、今の段階では必要ない。重要なのは――】


 SNS上でもライブ中継を見て実況をする者もいるが、この状況を見て冷静にコメントする人物もいる。


 確かに片方が優秀でも、リズムゲームプラスパルクールではスコアがあっさり逆転されるだろう。


 実際、パルクールパートでハイスコアを叩き出しても、リズムゲームパートでスコアが出なければ、上位に入るのは難しい。


「やはり、このスコアを上回るには――」


 コンビニでライブ中継の映像をタブレット経由で見ていたのは、既にプレイを終えて帰宅する所だった真田さなだシオンである。


 スコアの方もある程度は高めのスコアを叩き出し、上位百位以内も視野に入っていた。しかし、レッドダイバーとブラックダイバーのバトルとなると、ハイスコアは必至だ。


(あの二人だけは次元が違う――?)


 表情には見せていないが、二人のバトルを見て焦り出しているのは言うまでもない。


 他のプレイヤーも、プレイの順番待ち時間を確認し、再エントリーをしようと言う状態の人物もいるほどだ。


 こうした状況を生み出したレッドダイバーとブラックダイバー、この二人は間違いなく上位ランカーに近づくだろうと考える。



 偽ガーディアンを駆逐し、その正体がSNS炎上勢力と知ってため息をついていたのはガラハッドである。


 この人物はARメットにARアーマーと完全に正体を隠しているのだが、あまりにも疲れていたのか、メットに関してはバイザー部分をオープンにしていた。


 それを見ている人物はいないし、ドローン等も上空を飛んでいない。SNSに晒すような人物がいるかは、可能性として否定できないが、通りかかった形性もないだろう。


「他の勢力の動きは特にない。つまり、これで炎上勢力とのバトルは終わったという事か」


 しかし、その素顔を目撃した者はなく、すぐに彼はバイザーを展開して周囲の様子を見始めた。


 男性であるのは確定したが、それ以上でもそれ以下でもないという事なのかもしれない。


【どうやら、全ての決着がついたようだな】


 バイザーに表示されたショートメッセージを確認し、ガラハッドは別の場所へと向かう。


 何処へ向かうのかは分からないが、炎上勢力が活動する所にはガラハッドあり、と言う事なのかもしれない。


 他の三人とは別行動をしていたのは、もしかすると炎上勢力の注目を自分に集めて目的のかく乱を行っていた可能性もあるだろう。しかし、それを知るのは本人だけと言う事か。



 ガラハッドや他の有志によるメンバーが炎上勢力を含めた元凶を通報、ガラハッドの場合は自らが手を下したが、何とか対応した事で、妨害が計画されていたバトルの妨害は阻止された。


 そのバトルの中には、レッドダイバーとブラックダイバーのフィールドも含まれている。


 もちろんだが、マッチングに加わっている二名が炎上勢力と無関係なのは周囲の証言で証明されていた。


『こちらとしても、全力で挑む!』


 レッドダイバーはネオ・レッドダイバーの力を手にして、バトルに挑んでいた。二次創作とも受け取られかねないレッドダイバーよりも、公式のアーマーの方が、と言った判断だろう。


 実際、ブラックダイバーがネオ・レッドダイバーをベースにカスタマイズしているので、そう言う事かもしれないが。


『この楽曲は、こちらとしても初挑戦ではないが――ある程度のパターンは掴んでいる』


 ブラックダイバーの方は、挑戦する曲を研究済みかのような発言をする。挑発や煽りと言う意味合いではなく、自信なのだろう。


 実際にプレイの様子を見れば明らかに、初挑戦ではないのは分かる。これで初挑戦だったら、かなりのプレイヤーと言う事にもなるからだ。


『初見フルコンボや理論値でも出されたら、それこそ予選の意味はない。明らかにシード権があるのに使わないのと同じだ』


『それは褒め言葉かな? それとも――』


 お互いに一歩も譲らない譜面捌き、細かな挙動を含めて譲るという文字がない位のテクニックを見せつけた。


 もしかすると、ブラックダイバーはレッドダイバーのゴーストプレイヤーなのではないか。それ位の考えが周囲から浮かぶほどには、実力が僅差すぎるのである。


『どちらと受け取るつもりだ?』


『この場合は、褒め言葉として受け取っておこう。しかし、いつまでこちらを気にしていられるかな?』


 ブラックダイバーの言葉にも一理ある。譜面に集中し、上手く捌く事こそがリズムゲームプラスパルクールで重要な事だ。


 道路上のタッチパネルの配置を見ると、かなり複雑なロングパネルもあるだろう。ロングパネルは下手にコースを外れると失敗扱いになる。


 これを含めて、二人の挙動はリズムゲームを知っている者から見ても異次元という言葉が例えで出てしまう。



 最終コース、ここは目の前が百メートルの直線と言った所だ。しかし、パネルはいたるところに配置されている。


 これを上手く捌けるのか? レッドダイバーもブラックダイバーも諦めるという気配がない。


『これが、自分の可能性だ!』


 レッドダイバーは、今までの経験を――それまでのマッチングを踏まえて突っ走る。


『私は負けるわけにはいかない! 負ければ――』


 一方のブラックダイバーは疲労がたまっているようにも思える。しかし、足は止める事はしなかった。リズムゲームで手を止めてしまえば、捨てゲーとして炎上しかねないだろう。


 だからこそ、お互いに限界が来たとしても、足を止める事は絶対にしない。



 その結果は、周囲の歓声で分からずじまいになっていた。スコアリザルトも、お互いに互角と言えるかもしれない。


 歓声でかき消されたのは、もしかすると勝利者を告げるコールだった可能性は高いだろう。


 しばらくして、ブラックダイバーはARアーマーを解除してフィールドから去っている事が判明した。


 アークロイヤルだったかどうかは、この際どうでもよかったのかもしれない。決着は、予選の最終日を過ぎての集計で分かるのだから。



 予選のバトルは全て終了し、上位百人の中にレッドダイバーは入っていた。しかし、その順位はシオンより上という程度でありながらも、トップテン入りを果たしたのである。


 一位の人物は、アークロイヤルと表示されているのだが、それがブラックダイバーと知ったのは本選が始まってからだ。


 その他にもガレス、ユーウェイン、パーシヴァルのゲーマー同盟、上級ランカーと言った面々が顔を見せる上位百人となったのである。


『これからが全ての始まりだろう。トップランカーを目指す為にも』


 レッドダイバーは固い意思を持って、このスコアを誇る事にした。これだけのスコアが出せれば、今後の本選にも、と。


 しかし、これでヤルダバオトの目的が阻止されたとは考えづらい。全ては、まだ始まったばかりなのだ、と。



《この世界で起こった出来事は、フィクションである。しかし、これらの事件が全てフィクションとして片づけられるかどうかは定かではない》


 自分の部屋の大型テレビである作品を視聴していたのは、クー・フー・リンだった。


 彼女は常にマスクをしている様な気配もするが、今はマスクをしていない。テーブルに置かれたコーヒーの入ったタンブラーを手に、テレビを今まで見ていたのだ。


「まさか、今までの事が――」


 終了後のテロップもフィクションとは言及しているが、その記述には何かを連想させるような物がある。


 今回のヤルダバオトが起こした一連の事件、それが公になっていない理由は特撮の撮影だったのだ。これには彼女も言葉を失っている。


 これが分かっていれば、余計な事に首を突っ込むような事はなかったのに、と。


 しかし、リズムゲームプラスパルクールを知るきっかけになった事には感謝していた。


(これがだとしたら――)


 今は様子を見ることしかできないが、全ては草加市が最初から決めていたシナリオだったのか、と。


 もしかすると、本来はもう少し続くはずが打ち切りエンドになったのかもしれない。資金的に持たなかったのか、タイムリーな案件に配慮したのか、それは分からない。


(敢えて伏線を残して終わったのは、もしかすると)


 思う所はありつつも、クー・フー・リンはレッドダイバーのまとめサイトをネットサーフィンで探す事になった。


 全ては、新たな始まりを告げる伏線を見つける為に。

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