12-3

 予選最終ラウンドに迫っていた、六月のある日、遂にあの二人が直接対決と言わんばかりのマッチングを行う。


 それは、レッドダイバーとブラックダイバーだ。レッドダイバーとしては、ブラックの正体に気付いていないように――?


(ブラックダイバーがギャラホルンだとすれば、もしかすると)


 レッドダイバーは、そのプレイスタイルからブラックダイバーをギャラホルンと仮定していた。


 しかし、微妙な挙動や動画サイトでは伝わらないような細かい動作、それらは明らかにギャラホルンとは異なるだろう。


 では、あの人物は何者なのか? その答えは思いもしない所から出される事になった。レッドダイバーは視線をふとギャラリーの方へと向ける。


「あのブラックダイバー、もしかするとアークロイヤルでは?」


「WEB小説では聞いた事のある名前だが、ゲーマーなのか?」


「プレイヤーネームで使っている人物は数人いる。それに、あの人物がギャラホルンとしても矛盾が生じる」


「矛盾? なりすましプレイヤーが完コピ出来ていないとか、ではなくて?」


「リスペクト等を踏まえたプレイから微妙に挙動を変えているでも、ある程度は納得出来るだろう」


「そこまで変更して、何が目的なのだ」


「そこまではこちらでは予測できない。あくまでも、そこから先はプレイヤー自身が決める事だろう?」


 周囲のギャラリーの声は明らかに聞こえるような言い方ではない。それを踏まえると、おそらくは向こうも――それが事実とは受け入れがたいのだろうか。



 マッチングプレイヤーはレッドダイバー、ブラックダイバー、それにその他のプレイヤー。


 その他のプレイヤーも重装備ではなく、レッドダイバーと同じく軽量タイプ+ガジェット類という具合だ。


 ガジェット類はチートや不正ツールの部類ではない。大型ガジェットは基本的にコンテナユニットに収納されており、そこから取り出すケースが多いだろう。


 実際、大型ガジェットを購入するプレイヤーはいなかった。カート系やバイク系といったARレースであれば、ガレージがあって自力の整備環境も存在する可能性は高い。


 こうしたコンテナの移動施設も実は地下に存在するのだが、それらの施設は下水道施設や地下駐車場、洪水対策の施設等に偽装して隠されているケースが多いだろう。


 今まで、この事実が判明しなかったのも――。


 他のARゲームの場合、運営本部がガジェットのメンテナンスを行う事が多い。リズムゲームやRPGで比較的に多いらしいが。


 リズムゲームプラスパルクールはアクション要素もあるが、どちらかと言うとリズムゲームなのでコンテナに収納して運営本部へ転送し、メンテナンスセンターへ、と言うケースがほとんどだろう。


『レッドダイバー、君の疑問ももっともな物だ』


 ブラックダイバーの一言を聞き、――と感じる。


 レッドダイバーはヤルダバオトの一件以降、ARゲームを取り巻く環境の変化に疑問を持っていたからだ。


 ブラックダイバーの方は、自分のいるスタートラインから動いておらず――おそらく、この声はARメットに搭載された通話アプリといった具合か?


『しかし、これだけは伝えておく。ヤルダバオトは一連の事件を演出していたにすぎない。いわゆる炎上商法的な意味合いだ』


 案の定というか、この辺りはまとめサイトでもいくつかで言及されていた物である。


 彼の口から出たという事は、真実の可能性も否定できない。しかし、本当にソレを信じていい物だろうか?


『更に言えば、ヤルダバオトの計画した物、それはメーカー側も従わざるを得なかったらしい』


 途中からブラックダイバーの声が変わったような気配がした。ボイスチェンジャーなのは何となく予想はしていたのだが。


『全ては終わっていない。それは、全国大会で明らかになるだろう』


『ブラックダイバー、お前は誰なんだ? ギャラリーも気付き始めている。お前がアークロイヤルだと』


 レッドダイバーは声を振り絞って疑問をぶつける。ボイスチェンジャーに異常が発生し始め、途中からは既に女性の声が――。


 それを踏まえれば、ギャラホルンもボイスチェンジャーで性別も隠していた人物と言う事になるだろう。


 その人物の正体がアークロイヤルなのかは定かではない。それをぶつけるのは、おそらく今しかない。


『気付き始めている? それこそ、SNS上のまとめサイトやつぶやきサイトの話ではないのか? 自分で真相に気付かなければ、いずれは――SNSに日本はつぶされる』


 彼女の一言は、明らかにレッドダイバーへ向けられていた。他人の意見ばかりを鵜呑みにして、自分ではどういう結果になるのか考えていない。


 それこそ、特撮版レッドダイバーで伝えようとしていたメッセージではないのだろうか? どのタイミングから、自分は他人に踊らされていたのか?


 レッドダイバーとして活躍し、SNS上で有名になってからなのか? それとも、SNS関係なしに注目され始めてからなのか?



 ここから先はレッドダイバーとして語るのではない。バーチャルアバターを通じてではなく、自分の言葉で彼女に応えるべきなのだ。


「SNS炎上ビジネスを破綻させ、全てを終わらせる事。それが、自分がレッドダイバーから学んだ事だ!」


 レッドダイバーとしてではなく、あくまでも暮無くれないヒビキとして彼女に向けてメッセージをぶつけた。


 それに対し、彼女は何も答えようとはしなかった。今は、予選に集中したいという事なのかもしれない。


(レッドダイバーから学んだ、か。今でもあの作品を愛する物がいるとは聞いていた。ピンポイントで支持されているとは予想外だが)


 アークロイヤルは、ヒビキとしてのメッセージを聞き、ソレに納得をしているようでもあった。


 しかし、今はアークロイヤルとしてではなく、あくまでもブラックダイバーとしてレッドダイバーに挑む。


 遂に――SNSの未来を左右するであろうバトルが始まるのだ。

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