第33話 初めてのレイド
本日のダンジョン探索は、クラン《物見遊山》のメンバーにカレンを加えてのレイド。
その
第1班が、クリスタ、ラシャン、エリーゼ。
第2班が、アレンと
第3班が、カレンのみ。
それは、全員が、第1階層から
現在、
エリーゼが、今回、初ダンジョン。
カレンは、第1と第2階層が攻略済み、第3階層のボス部屋は未攻略。
アレン、リエル、レトは順当に攻略していて、現在到達している第7階層のボス部屋は未攻略。
クリスタは、第5階層から参加して、同じく第7階層のボス部屋未攻略。
ラシャンは、第6階層から参加して第7階層のボス部屋は未攻略だが、以前は攻略済みの仲間とパーティを組んでいたため、第22階層から第34階層まで攻略済み、現在の最高到達階層である第35階層のボス部屋未攻略。
現役復帰したカイトは、カレンの先輩――冒険者養成学校の卒業生で、第1~5階層と、第12~32階層まで攻略済み。
そんな訳で、第1階層のボス部屋を攻略している者、していない者、という分け方で、第3階層からカレンが、第1班に加わる予定。
一般的な冒険者達は、いちいち地上に戻って賢者の塔へ向かう時間と労力を
「ここが、ダンジョンの入口……~ッ!」
最近は、面倒を
屋根を6本の柱で
その中央にぽっかりと開いている綺麗に舗装された円形の大穴。
そこに
橋の上の中央、大穴の中心に存在する大きな
そして、一行は、ダンジョン前の大広間で
その階段を下り切った所で、エリーゼは初期形態の〔
エリーゼは、今日が初ダンジョンで、余程の事がない限り、今後も共に潜る事になる。
そこで、アレンは、自分が、着実に到達階層を更新して行き最下層に到達した時には、このダンジョンに通っていない道はない、と言えるぐらい探索し
しかし、エリーゼの望みは、あくまで『みんなと一緒に冒険する』事であって、特にそういうこだわりはないらしい。
ならば、とアレン達はボス部屋を目指す事にしたのだが、ボス部屋は、上下へ階層を移動する際に必ず通らなければならない場所であり、未攻略者のみがボス部屋に足を踏み入れると、自動的に下へ続く階段の前の扉が
要するに、未攻略者の挑戦中は、ボス部屋を通過する事ができない。
それ
なので、今の時間は、まだ転送屋を利用せず自分の足で下へ向かう冒険者達の姿があるので、少し回り道をして適当に時間を潰す事に。
そして、歩き始めてから程なくして、
「――――~っ!?」
アレン、レト、それにカレン――索敵能力に優れた三人は、すぐ接近してくるモンスターの存在を察知した。
素知らぬ顔をしている二人とは対照的に、カレンは、身構えてそれを仲間に
カレンは、困惑しつつも
そんな二人の視線を
「え? ――いやぁあああああああぁッ!?」
〔
それ
〔超魔導重甲冑〕の機能で自動的に増幅された雷速の矢がモンスターに直撃。パァーンッ、と派手な破裂音を響かせて跡形もなく消し飛んだ。
「はぁ~っ、びっくりした」
ほっ、と一息ついて胸を
その一方で、
「
「今後、整備は
「いやちょっと待て。モンスターって言ったらゴブリンだろ」
勝ち
「えぇ~と、これはいったいどういう……?」
カレンが問うと、アレンは苦笑しつつ、
そうしている間にも、モンスターは人の事情になど構わず接近してきて――
「次がきたぞ」
アレンがそう教えると、
「お先にっ!」
ラシャンが、言い争いを中断してモンスターのほうへ。
そして、巨大な
「――ふッ!」
飛び掛かってきた大きな
拳を繰り出す速さと引き戻す速さは、ほぼ等速。元々の身体能力の高さもあって、肩から先が一瞬消えたように見える程の速度で繰り出された左の〔巨殴拳〕は、ボッ、と空気を
「何これ……~ッ!? 初級スキルの威力じゃない……ッ!?」
想像を
効率的な技能の取得法に
その後も、単体で次々
「付き合わせちゃって、申し訳ない」
第3階層へ進出しているカレンは、早く
あっさりモンスターを仕留めるその手並みを見てそう考え、アレンが
「
「意識の高さ?」
カレンは、はい、と頷くと、武芸者の眼差しをクラン《物見遊山》のメンバー達に向け、
「ただモンスターを倒すのではなく、技を
そう言ってから一転、
「私が知っている冒険者達とは違います。彼らにとって、『強くなる』とは、『モンスターを倒して紋章に霊力を
おそらく、自分の話している内容が、ここにはいない誰かの陰口以外の何ものでもないとでも思ったのだろう。途中で言葉を
「不満などありません。不謹慎かもしれませんが、とても楽しいですっ!」
そう言って
「不謹慎なもんか。〝好きこそものの上手なれ〟。何だって楽しんだ者勝ちだ」
にっ、と笑うアレンに言葉に、はいっ、と元気に頷いた。
〔
地下1階の円卓の間で、一度パーティを解散してから新たに登録し、1班にカレンが加わった。
そして、ダンジョンへ戻る前に、エリーゼは、カイトと一緒に塔の受付カウンターへ。職員に指示された2階の個室に入り、ここまでの冒険で紋章に溜まっていた霊力を
初級職【魔法使い】のエリーゼが取得したのは、初級魔術の【
それを聞いたアレンは、ぷっ、と吹き出し、教えてくれたエリーゼに謝ってから、
「ちょっと思い出しちゃって」
思わず笑ってしまった理由を説明する。
「子供の
アレンが思い出し笑いで目に涙を浮かべる一方で、
「そういう使い方する魔法じゃねぇだろ」
師匠のほうに感情移入したらしく、そう言って
ちなみに、【電撃波】とは、超高圧の弱電流で、接触している、または、半径約3メートルの扇型の範囲に存在する対象を無力化する初級魔術。【魔法の矢】同様、適性属性に関係なく取得する事ができ、主に護身用の魔術として知られているが、痴漢撃退の他に、拷問にも使用される。
「へぇ~っ、賞金首を生け捕りにするのに便利だとは聞いてたけど、そんな使い方もあるのね」
取得しているのか、それとも、取得しても良いと思っているのか、ラシャンが意味深な微笑みを浮かべながら言うと、カイトは盛大に顔を
「そう言えば、お父さんも何かスキルを取得してたよね?」
親離れしようとしている愛娘にまだ『パパ』と呼んでもらいたいカイトは、若干渋い表情を作りつつも頷いて、アレンの話を聞き、今日のラシャンや、ついこの間まで
「
そして、この【騎士】系統のジョブは、大きく二つのタイプに分ける事ができる。
それは、利き手に、剣を持つ攻撃型か、盾を持つ防御型か。
器用なカイトは、状況によって左右を持ち替え、攻める時は利き手に剣を、後衛を護る時には利き手に盾を装備していた。
しかし、愛娘とダンジョンに潜るため現役復帰するにあたり、
「じゃあ、そろそろ探索に戻ろうか」
アレンの声に、一同が
クラン《物見遊山》の第1パーティ――クリスタ、ラシャン、エリーゼ、カレンは、あっさり第3、第4階層のボス部屋を攻略し、そのまま第5階層のボス部屋へ。
「本当に良いのか?」
実は卒業生であり、先輩にあたるカイトの確認に、はい、と
冒険者養成学校では、第5階層のボス部屋攻略が卒業試験になっている。それ
「学校は、
では卒業できないのかというと、そうでもないらしい。
「冒険者養成学校とは、冒険者として生きて行くために必要な知識と技術を身に付けさせるための場所。その二つが身に付いている者を、本人の意思を無視してまで留年させたりはしません」
だから大丈夫ですっ! と自信満々に言うカレン。
当人がそう言うなら、やめる理由はない。
既に第5階層のボス部屋攻略済みのクリスタがパーティから抜けて、エリーゼ、ラシャン、カレン、三人での挑戦となるが、ここまでの戦いぶりを見ている上、人数が少なくなれば出現するモンスターの数も減る。
当人達がやると言うなら、とめる理由はない。
「モンスターが出現すると同時に思いっきりやって良い。その後は、ラシャンとカレンに任せておけば問題ないから」
〔はいっ!〕
「言う事は…………特にないかな」
「へぇ~、信頼してくれてるんだ」
「武運を
「ありがとうございますッ! 行って参りますッ!」
アレンだけではなく、他の仲間達からの声援も受けて、三人はボス部屋へ。
第6階層へ続く階段がある奥の
だが、一種の裏技で、第5階層の迷宮へ続くほう、アレン達がいるほうは、閉まる前に扉を思いっきり押さえておく事で、開けっ放しにしておく事ができる。
そして、そこから観戦していたのだが…………結果から言ってしまうと、完勝だった。
まだ取得したて故に【
あとに残ったのは、ゴブリンのキング、ジェネラル、チャンピオン。
チャンピオンと対峙したのは、ラシャン。
ここまで構えを
ジェネラルとキングを
柄を3メートル程に
先に対峙したジェネラルは、戦意を
キングは、その緩急自在の動きで距離感を
今日は卒業試験ではない。だが、冒険者養成学校の生徒にとっては一つの区切りになるから、と
こうして第5階層ボス部屋をあっさり攻略した一行は、第6階層へ進む前に昼食休憩を
ギルドがある浮遊市街の外縁部、
それは、パーティを解散して再編成するため。
今度は、第6階層ボス部屋攻略済みのラシャンが
当初の予定では、第5階層へとつながる階段の前から探索を開始するつもりだったのだが……
「みゅぅ――~っ!」
それは、《物見遊山》の女性メンバーから強い要望があったからであり、カイトとカレンは
「ゾンビ共が集まってくる前に早くッ!」
「速攻で終わらせてッ! 速攻ッ!」
ラシャンとクリスタに
そして、出現した
自分達は何もしていないからと譲られて、
こうしてアレン達は、ギルドに報告しているクラン《物見遊山》の公式到達階層である第7階層に
ここまでは、第1階層を
この階層に出現するのもアンデットだが、ゾンビとは違って、完全に肉が落ち切った白骨死体――
アレンやレト、〔
先陣を切るのは、クリスタとエリーゼ。
クリスタは、
〔まず、【
そう宣言したエリーゼは、今日、繰り返し使う中でもう術理を理解してしまったらしく、【
残りの前衛型スケルトンを倒すのは、他のメンバーの仕事。
戦うとなれば全力、だが、争いを好まない
そんな前衛メンバーは、一斉にかかるのではなく、ローテーションを組んで一人ずつ、動きが遅いスケルトンを相手に多対一の練習を積み重ねていく。
その戦いぶりは、大きく二つのタイプに分けられ、絶えず移動して一対一を繰り返し、頭部の魔石だけを的確に狙って仕留めるのは、ラシャンとカレン。
その一方で、カイトとリエルは、位置取りに気を付けつつ数体をまとめて薙ぎ払い、少ない手数でスケルトン共をバラバラにしてから、転がっている頭蓋骨を踏み潰したり、武器を振り下ろして
豪快なカイトは、横に振り抜くバスタードソードの【斬撃】や、大盾の
そんな仲間達の戦闘を見ていて、アレンは、ふと思った。
「『剣みたいな盾』か、『盾みたいな剣』があれば良いのにな」
「はぁ? 何だって?」
モンスターを倒した後の移動中、自分の番を終えて交代し、
「カイトは昔、前衛
「あぁ」
「で、今後は、後衛寄りの遊撃として、装備を『右手に大盾、左手に剣』に固定して、上級職【
「そうだ」
「でも、今は、前に出て攻撃してる。――それを見てて思ったんだ。剣と大盾、片手でその両方を装備できないなら、剣と盾を兼ねる武器を一つずつ左右の手に装備すれば良いんじゃないか、って」
「ガキの発想だな」と呆れたように言ってから「……要するに、作れ、って言うのか? 俺に、その『剣と盾を兼ねる武器』を」
そう質問されたアレンは、束の間きょとんとしてから、
「あぁ~、いや、ふと思っただけで他意はなかったんだけど…………そうだよ、カイトは作れるんだよな。――じゃあ作れば良い。カイトの、攻撃力、防御力、どちらの手でも剣と盾を
そのあと、今のスタイルが悪いって訳じゃないんだけどな、と付け加えたが、カイトはもう聞いていなかった。
「俺の攻撃力、防御力、器用さを最大限発揮できる、俺だけの武器、か……」
考え込み、自分の世界に没入してしまうカイト。
約1名、戦闘どころではなくなってしまったものの、問題はない。
他のメンバーでモンスター共を蹴散らし、エリーゼが、おいていっちゃうよっ、と声をかけて、生返事を繰り返す
途中、アレンは、仲間達から相談されたなら、アドバイスしたり、手本を見せたりしながら、《物見遊山》のメンバー全員が、
「さて、どうしようか?」
訊くまでもない事と思いつつ、アレンが意見を求めると、満場一致で今からボス部屋を攻略する事に。
ただ、アレンは、せっかくのレイドなのだから全員で
それは、上層のボス部屋に複数のパーティが同時に入るのは危険だから。
何故なら、ダンジョンは、
つまり、上層のボス部屋に大人数で踏み込むと、狭い部屋に大量のモンスターが出現する。そうなれば、前衛は行動を制限され、後衛は味方の巻き
我に返ったカイトやカレン
ならば、
二つのパーティは別々に挑戦する事にして、まずは第2パーティ――アレン、リエル、レト、クリスタ、ラシャンの5名で
第2パーティがボス部屋の中ほどまで進むと、奥の扉が閉じ、床に無数の魔法陣が出現して――そこから姿を現したのは、ボロボロの全身甲冑、剣、盾を装備した『スケルトン・ナイト』2体と、スケルトン12体。
ナイト率いる2個スケルトン分隊とアレン率いるクラン《物見遊山》の戦いは、クリスタがばら撒いた【魔法の矢】によって
続く、スケルトン・ナイト1体、スケルトン8体と、レイド第1パーティの戦いもほぼ同様。エリーゼが火蓋を切り、〔超魔導重甲冑【雷電】〕によって過剰に増幅された【電撃の矢】がスケルトンを
第8階層へ進出したところで本日の探索は終了。
やはり、今日が初ダンジョンであるエリーゼのために、【空間転位】ではなく、今下りてきた階段を戻り、歩いて上を目指し、転移門から地上へ。
そして、一行は、カイトお
カレンを
店主である初老の男性とその息子夫婦が
店に入ると、仲間達は隣り合う二つのテーブルに分かれて席に着き、アレンは、注文を任せ、留守番のサテラを迎えに【空間転位】で拠点へ。
自分は冒険に参加していないから、と遠慮していたが、
たいていの冒険者は『安くて早くて美味い』を好むが、この店は、手の込んだ品を提供するため料理が出てくるまでしばしの時を要する。
その間、先に運ばれてきた飲み物で乾杯し、サテラにカレンを紹介したり、今日の冒険や戦闘を振り返ったりして過ごし…………まず
精霊獣は食事を必要としないのだが、食べられないという訳ではなく、店主のご厚意で頂いた、
《物見遊山》のメンバーは、
だが、今日はカレンがいる。
そんな訳で、アレンが【異空間収納】で回収したものをテーブルの上に並べ、それぞれの意見を訊きつつ分配し――
「こ、こんなに
カレンが、自分の前に積まれた小粒の魔石や古代金貨の山、その上に乗っている数個の大きな宝石と一つのネックレスを見て悲鳴を上げた。
それに対して、アレンを始めとした《物見遊山》メンバーは
「なぁ、カレン。そうやってまとめて目の前に積まれたら多く見えるだろうけど、今日、カレンは、第3階層から第7階層まで、五つのボス部屋を攻略したんだぞ?」
「それは…………確かにそうですけど……」
「
アレンは、そう説明し、自分の取り分が少ないと言うなら増やしても良いが多過ぎるという事はない、という
それを聞いて、一応は納得した様子のカレン。
腰の後ろの
そして、そんなカレンの様子を見て、
「カレンは、養成学校を卒業したら《
既に決まっている事を確認するような口調で訊くラシャン。
唐突な発言に、当人を含む一同が、え? と声を
「違うの? そうなら、アレン君に
カレンは寝耳に水の話に戸惑っておろおろし、《物見遊山》メンバーは、物問たげな視線を
「試しに一緒に冒険してみて、カレンがそれを望み、みんなが反対しなければ、クランに入ってもらっても良い、とは思ってたよ」
そんなアレンの告白に対して、
「良いんじゃねぇか?」
そう声を上げたのはカイトで、
「アレンが問題ないと判断したなら大丈夫だろ」
それは、クラン《物見遊山》の総意。その証拠に、皆が頷いている。
アレンは、ありがたく思いつつ頷き返してから、降って湧いた話に
「まぁ、そう言う訳だから、考えてみてよ。返事は急がなくて良いから」
「え? あっ、その…………はい、分かりました」
「じゃあ、どうする?」
「えぇッ!? い、今、急がなくて良いって……~ッ!?」
「いや、返事じゃなくて、大金を抱えてるのが不安なら
「あ、あぁ~……、そっちですか……」
ほっ、と胸を
結局、カレンは、記念にもらう事にしたネックレスと魔石、生活費として十分な額を別にして、養成学校の生徒には分不相応な大金をアレンに預ける事に。
そして、この時、アレンとエリーゼを除く《物見遊山》メンバーは、自覚しているか無自覚かは
――何はともあれ。
その後、明日も一緒に
その日、クラン《物見遊山》の一行が入口からダンジョンに潜っていく姿を目撃した者は多く、〝攻勢防壁〟の現役復帰や〔超魔導重甲冑【雷電】〕の所有者はその娘、〝鉄拳鋼女〟の新装備、そして、そこにラビュリントス最大のクラン《アカデミア》が運営する冒険者養成学校の生徒が同行していた…………などなど、様々な
マグヌム・オプス ~思い付きで剣聖が大魔導師と弟子を育てたらこんなのができました~ 鎧 兜 @yoroi-kabuto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。マグヌム・オプス ~思い付きで剣聖が大魔導師と弟子を育てたらこんなのができました~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます