第5話連れていかれるかも

鶏の唐揚げを豪快に頬張りながら、係長はそれをぐいぐいと麦酒で流し込んだ。

「なあ、知ってるか。真夜中に山羊の角を生やした女に出会ったら気をつけろ。奴の目を見たらいっかんの終わりだ。気にいられれば犬にされ、気にいらなければ食われる」

酒臭い息を吐きながら、係長は言った。

面倒見のいい人だが、酒を飲むと訳のわからない話をするのがたまに傷だった。


飲み会が終わり、僕は一人道を歩いていた。

切れかけた街灯がチカチカとついたり消えたりしていた。

その街灯の下に一人の女がたっていた。


体のラインがはっきりとわかるほどぴったりとした白いドレスを着ていた。

こんなところで何をしているのだろう。僕は何気なくちらりと彼女を見た。

視線が交差する。

吸い寄せられるように僕は彼女に近づいた。

彼女の頭には、山羊の角が生えていた。

白い冷たい手で彼女は僕の頬をさわる。

暖かい吐息がかかるほど顔が近づく。

「あなた、好きなものあるの」

耳元でささやく。

「アメコミとかかな」

僕は言った。

「面白いわね。その話聞かせてくれるかしら」

僕は彼女に好きなキャラや映画の話をした。

好きなものについて語るとき、つい早口になってしまう。

うんうんと頷き、彼女は僕の話を聞く。

「気にいったわ。あなた、私についてこない」

そう問いかける。

問いかけであったが、それは拘束力のもった命令に近かった。

決して逆らえるものではない。

「わかったよ」

そう答えた瞬間、僕の体は変化していた。

犬になっていた。

どうやら犬種はフォックスハウンドのようだ。

山羊の角を生やした女は夜道を歩きだす。

右横にはシェパードが付き従う。

僕は左横を歩く。

「あと、三人」

赤いくちびるから山羊の角を生やした女はその言葉を吐き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢食み 五匹の犬 白鷺雨月 @sirasagiugethu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説