俺と魔女。

茨薔薇

第1話


転校生が来た。名前は五木志乃。3年生の6月というとても中途半端な季節だった。

「神奈川県の川崎から越して来た、五木志乃です。卒業までの間お願いします。」

とてもシンプルかつ、素っ気ない印象。長くて黒い髪の毛のせいでクールな雰囲気が増している。規定のブラウスに付けているリボンも、スカートの丈も極一般的と男の俺でもわかる位置をキープしていて特に目立った姿はしていないものの、とてつもなく顔が綺麗だった。化粧も男の目からだと薄くしているのかあるいはしていないのか判断できなかったが、伏せた目の先の睫毛が他の人よりも長い気がしてバレないよう一生懸命顔を下に向けて上目でちらちら見ていた。

「この列、一つ後ろにずらして五木を一番前にしてやれ。小田、そこの空いている机と椅子前まで運べ。五木、お前の席だ。」

担任に言われるままに列の人間は各自の机を持ち後ろに下げり、学級委員の小田君は空いたスペースに机と椅子を運んできた。そう、俺の隣の席だ。

「小田君、えっと、ありがとう」

教壇から降りると周りに会釈をして、運んだ机から椅子を下ろしている小田君に話しかけた。

「俺と、そこの眼鏡の飯塚が学級委員だ。俺でも、飯塚でも、勿論クラスの誰でも、不都合とかわからない事があればなんでも言ってくれ。」

さわやか系スポーツ男子、と俺は小田君を勝手に呼んでいる。

「飯塚です。教室移動とか、一緒に行こうね」

飯塚が立ち上がり、五木に手を振る。それに答えるように五木がほほ笑む。

五木が椅子に腰を下ろすのを見計らって、口を開いてみた。

「俺、江藤真行。よろしく。」

胃液が逆流して口に溜まっているような気がした。とにかく不振に見られたくなくて必死に感情を殺した。

「江藤君。まだ教科書が全部揃ってないの。見せてもらう事があるかもだけど、よろしくね。」

鞄を机の横にかけながら、髪を耳にかける仕草まで見入ってしまいそうになった。五木さんの席は窓際なので隣は俺だけ。隣の席を奇跡的にゲットした。

五木さんの後ろの席の女子(名前が思い出せない)が、話かけていたが声がもう入ってこないくらい心臓と思われる音が俺の体中に響いていた。


五木志乃、彼女は魔女なのかもしれない。




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俺と魔女。 茨薔薇 @ibara_panda

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