GW特別ショートストーリー『懐かしの遊園地に』(本編より後の話)

「久しぶりのここですね!」

「ああ。そうだなぁ。随分と歳をとった気がするよ」

「まだ一年も経ってないですよ~」



 俺と凛はGWの休みを利用して、初めてデートをした遊園地に来ていた。

 あの頃と違い余裕の出てきた俺は、場所そのものを楽しむことが出来ている。


 凛も同じなのか、変な硬さもなくいつも以上にテンションが高い。

 あの時は俺が人酔いしたり、慣れてなくて見て回ることができなかった。

 だから、今回はその時のリベンジも兼ねている。


 ただ、凛は目新しい物を見つけたらフラフラと見に行ってしまうから……それは心配だった。

 案の定、



「次はあちらに行きましょう!」

「おい、走ると危ないって……」

「きゃっ!」



 凛は他の客にぶつかりそうになり、俺は咄嗟に彼女の手を引いた。

 転びそうになっている体を抱き留めると、「す、すいません」と申し訳なさそうな声が聞こえてくる。



「はしゃぎたいのは分かるけど、人が多いんだから気をつけないと」

「そうでしたね……」

「いいよ。気を付けておくのも俺の役目だしさ」

「ありがとう……ございます」



 凛はお礼を言うと、俺の手をじーっと見つめてくる。

 そして、急に顔を赤らめもじもじとし始めた。



「お手洗いなら、あっちだぞー」



 俺は、トイレの方を指さす。

 生理現状は仕方のないことだからな。



「ち、違います! って、わざと言ってますよね!?」

「うん?」

「もうっ」



 恍けてみせると凛は不機嫌そうに頬を膨らました。

 それから、俺の服を掴みぐいぐいと引っ張ってくる。


 凛の要求は分かるけど……。

 恥ずかしいものは恥ずかしいんだよな……。


 俺は頬を掻き、彼女を見ないようにして手を差し出した。



「……凛は直にどっか行きそうになるから、迷子にならないように手をだして」

「ふふっ。もちろんです!」



 元気よく返事をすると、凄く嬉しそうに手を握る。

 嬉しそうにはにかむ彼女を見て、俺の表情も緩むのを感じた。



「翔和くん。目の前にあるあれに乗りませんか?」



 凛が指をさしたのは、遊園地のアトラクション内で最も怖いと言われている『スクリーム・デッド』である。

 巨大なマンション型の建造物で、お化け屋敷とジェットコースターの融合したアトラクションという感じだ。

 俺は乗ったことはなく、あくまで健一からの伝聞である。


 健一が言うには『乗るなら死んだ方がまし』とのこと。

 どんだけ怖いんだよ……。



「凛、あれは相当怖いらしいけど……。怖いの大丈夫か?」

「問題ありません」

「それならいいけど……」

「世の中で1番怖いのは人間ですからね」

「リアクションに困るわ!」



 まぁ冗談のつもりなのか、舌をちょこんと出して笑っている。


 でも、凛が言うと笑えねぇ……。

 色々と面倒なこととか経験してそうだし……。



「翔和くんはこういう怖いのは大丈夫ですか?」

「作り物だしね」

「むぅ。夢がない発言です」

「いやいや。そういうけど、凛も同じ理由で大丈夫なんだろ??」

「それはそうですが……ここは怖がってる翔和くんを見て、萌えてみたかったです」

「なんだよ、それ」



 悔しがる凛を見て、俺は肩をすくめた。

 目で見たものしか信じないから、基本的に怖がることがないんだよなぁ

『どうせ、ここで来るんだろ?』って予想して、当てるゲームにしかならないし。


 まぁそれに、男がビビりまくるって言うのは情けないし、カッコ悪くて凛には見せられないしな。



「あ、でもさ凛」

「何ですか??」

「女の子は、わりと怖がりな人が多くて、その方が男も喜ぶらしいぞ? なんか保護欲を掻き立てられるだとさ」

「……あ……それは」

「どうした凛……?」

「き、急に怖くて……フルエテキマシター」



 ワザとらしく体を震わせる凛。

 俺の腕にしがみつき上目遣いで見つめてくる。



「……翔和くん。これでは私……歩くことができません」

「いや、もう遅いだろ」

「あー、き、急にめまいがー。怖くて怖くてたまりませんー」



 出てくる言葉1つ1つが棒読みで緊迫感も何もない。



「凛」

「……はい」

「もう少し演技頑張ろうな」

「……はい」 



 残念ながら、凛の演技はガバガバだった。


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俺の家に何故か学園の女神さまが入り浸っている件 紫ユウ @inuko

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