GW特別ショートストーリー『去年の今頃は何してた?』(本編より後の話)
「翔和くんは昨年のGWは何をしていましたか?」
GWの前日。
いつも通り俺の家に来ていた凛がそんなことを聞いてきた。
俺は勉強をする手を止めて、一年前の自分を思い出す。
学校生活を謳歌している学生だったら、思い出に浸る出来事も多いかもしれない。
笑顔になれるようなハッピーなイベントも起きるらしいし……。
だが俺の場合は、
「バイト先で笑顔を振りまいてたなぁ。短期のバイトもしてたし、いい稼ぎ時だったよ」
「……そういえば、翔和くんはそういう生活をしていたんですもんね」
「GWのGは俺にとってゴールドのGだったから。今思えば、よくあそこまでバイトできたなぁと思うよ」
肩を竦めてみせると凛は苦笑いを浮かべ、俺の隣に腰を下ろした。
慰めているつもりなのだろう。
頭を優しく撫でてくる。
……なんか子ども扱いされてるような?
妙に気恥ずかしいんだが……。
「よしよし~元気出してください」
「くすぐったいんだが……」
「ふふっ。嫌がらないならやめませんよー。大変だった翔和くんの労いますね。よく頑張りました!」
「頑張っていたというか……あの時は凛と会う前だったし、がむしゃらに金を稼いで現実逃避してたんだよ」
「翔和くん……」
「あの時って家のことで荒れてて、働けば働くほど嫌なことを忘れられたからさ。……まぁ…………今は違うけど」
「今は私がいますからね!」
「……まぁ」
俺がぶっきら棒にそう言うと、凛は猫みたいにじゃれついてくる。
肩に寄りかかるようにして「えへへ~」と、なんともだらしない声を出していた。
その表情がかわいくて、つられるようについクスリと笑ってしまう。
「そういえば、凛はこのGWの時ってどうしてたんだ?」
「私ですか?」
「うん。聞いたことなかったから気になって。いつも通り勉強とか、藤さんと遊んでいたとか?」
「えーっと……あまり楽しい話ではないかもですよ」
「うん?」
歯切れ悪い凛の態度に俺は首を傾げた。
凛がこんな態度をとるのは珍しいな。
普段は『何でも聞いてください!』って態度なのに。
言いづらいこととなると、何か失敗したとかかな?
凛の失敗とかは想像しにくいけど……。
まぁ、あるとしたら頑張りすぎとかか。
けど、GWで頑張りすぎっていうのもわからないな。
俺がそんなことを考えていると、凛はため息をつき渋々といった様子で話し始めた。
「翔和くんは1年生の最初の長期休みって何があると思いますか?」
「何って、学校生活の緊張から解き放たれた解放感とか?」
「違いますよっ! 人付き合い的なものですって」
「うーん? もしかして出会い厨的なやつか?? ところ構わず連絡先を聞きまくるっていう」
「言い方に棘がありますが……大体、そんな感じです……」
「あーなるほど。じゃあもしかして凛は、告白されまくって律儀に返事をしていた……みたいな感じ?」
「あはは……そういうことになりますね」
入学して最初に凛を見たら誰でも一度は拝みたくなるよなぁ。
あわよくば……なんて考えた人も少なからずいたことだろう。
クラスメイトにも、凛を見に行った奴は何人もいたみたいだしね。
「スルーって選択肢はなかったのか?」
「気持ちを伝えるのには少なからず勇気がいることですから。言われたことには誠意を持って対応していたんです。連絡先交換は断っていましたけど、最初の1ヶ月は本当に大変でした。他の子経由でいきなり連絡が来るなんてこともありましたし……」
「人気があると大変だな……」
「アハハ……だから、去年のGWは楽しんだとは言えないんです」
無視をしたくなる状況だっただろうけど、凛は真面目だから出来なかったのか。
そう考えると、俺とは違う状況で大変だったんだろうなぁ。
しつこい人間もいるだろうし、そんな相手に対応していたら休みを楽しむことが出来ないかもしれない。
断るのも大変だし、言い回しに気疲れしちゃうだろう。
それが続いていたら、GWの思い出も苦いものしか……。
よし。だったら――
「じゃあ、GWはどこかに行く?」
俺の提案に凛の表情がパーッと明るくなる。
そして、ぐいっと顔を寄せてきた。
「いいんですか!?!?」
「お、おう。店長にも連絡してバイトを減らしておく」
「嬉しいです~やった~! じゃあ翔和くん。どちらに旅行しますか?」
「うん……? 旅行確定なの? この時間ってどこも割も高いと思うけど……」
「任せて下さい! そこはどうにかしますよ! 大船に乗ったつもりでドシッと構えてた下さい」
どうにかって……。
まぁ目が輝いて自信たっぷりだし、何かしらツテがあるんだろう。
任せたら大変なことになりそうな気もするが……理性を保つって意味で……。
ま、楽しそうだからいいか。
「GWですから、楽しんでいきましょう! ラブラブデート楽しみですね~」
凛はウキウキとした様子で旅行雑誌を並べてゆく。
子供みたいに無邪気な彼女を見ていると、
なんで持ってきてるの!?
なんて、疑問はすぐに思考の外へと消えていったのだった。
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