第6話 幼き私の世界
埼玉県深谷市、私は4歳の誕生日を迎える直前までその街に住んでいた。
籠原駅からはそんなに遠くはなかったと思う。
駅前にはペコちゃんのお店があり、いつも祖父母の家に行く時はそこでお菓子を買って貰うのが楽しみだった。
真っ赤な四角い箱にはペロッと舌を出した女の子の絵が載っている。
幼児の私から見たら超可愛い。
スーパーご機嫌アイテム。
超絶宝物。
中身にはあまり興味が無かったような気がするが、一度だけパラソル型のチョコがとても可愛いのに開けないのが腑に落ちなかったのは覚えている。
その箱には紐が付いていたのか単なる取っ手が丁度良かったのか不明だが、幼い私はその真っ赤な箱から伸びた紐を片側の肩から斜め掛けにして、幼稚園バックよろしく脇にぶら下げながら歩くのが大好きだった。
ヨチヨチ歩きの子供が頑張って歩くご褒美だったのか、歩くのを嫌がって「抱っこ」って言わせないための母にとってのお役立ちアイテムだったのか、はたまた何の意図も無かったのか……今となってはわからないが、母はいつも駅に来ると買ってくれた。
だが、一度だけペコちゃんマークの箱が無い日があった。
祖父母の家に行くのはいつも決まって昼前。
お昼ご飯を祖父母達と一緒に食べるというのがゆるーく決まっている程度で、その日の都合で出掛ける感じだったように思う。
だから、その日は誰かが朝から訪ねてきて出掛けるのがいつもより遅かったのを覚えている。
ペコちゃんのお店に着いたのはお昼になっていた。
いつものようにお店に入り、入り口近くに掛けて置いてある赤い箱をチョイスしようと私は漁った。
いつもはすぐ見つかるのに今日は無いのだ。
在るのは男の子バージョンの箱と文字だけの箱。
それしか置いてなかった。
私はただただおかしいなぁ~と思い、一つ一つ確認をするが何度探しても無いものは無い。
私が呆然と立っていると、母が「どうしたの?」と聞いてきた。
「なーい………」と答える。しかし、母は「ここに在るじゃない」と朗らかに言う。
そして、手近なのを会計に持って行こうとした。
「ちがうのー!!」私はそう言いながら母の手を引いた。
「これいつものだよ」母はそう言うが、私は「違うのー。違うのー。ペコちゃんじゃないのー」と言い訴えた。
お店の人は気がついたのか「ペコちゃんは今日は売り切れなんですよ~」と母に言う。母は「じゃぁ中身一緒なんでしょ。これで良いわ」っと言い、強引に買ってしまった。
大人にとってはパッケージなんて一緒だろうっと思うのかもしれないが、中身に興味が無い私にとっては重要なのはパッケージなのだ。
朝から無かったのか売り切れてしまったのかわからないが、無いという事実に私は納得が出来なかったし、違う物なのに同じ物だと押しつける母にも納得出来なかった。
それなのに納得しない事にアレコレ言われ詰られることと、納得すると言うことがよくわからないが必要だと言うことに一生分の絶望を味わったような気がする。
幼い子供の一生なのでたかがしれていると思うかもしれないが、幼子の絶望ってとんでもなく大ダメージだしトラウマに成る事も多い。
三つ子の魂百までと言うが、正にそう!!
欲しいものが手にできないかもしれないって思うと、今でもソワソワして恐怖を感じる。
そして他のモノでは相変わらず納得が出来ない。
ジェネリック〇〇〇と言うのが今でも嫌いだ。
昔語り 彩本珠莉 @ayamoto-juri
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