第5話 幼き日々のあるある

その頃、食品や日常品は少し離れた公園近くにあるストアに行っていた。


母とヒロくんのママと私。

時々、ヒロくんとマミちゃん。


毎日夕方3時頃に成ると買い物に歩いて行く。

買い物している間、私はよくストアの前の公園で遊んでいた。

幼い私はあまりしゃべらないが活発な子だったように思う。


その公園にはちょっと変わった男の子がいた。

何が変わっているのかよく覚えてないのだが、その男の子はいつも1人ぼっちで居るのだ。

ぽつーんと公園の真ん中に1人突っ立って居るその男の子は、私が公園に行くと目敏く見つけては、駆け寄ってくる。

砂場で遊ぶと横に来ては同じように砂で遊んだり、私がジャングルジムに上ると上ってくし、ブランコに乗ると横のブランコに乗ったりとなぜか同じような事をするのだ。

記憶では一度も言葉を交わしたことが無い。

だが、ひょっとしたら一言二言は交わしたのかもしれないが、友達になるとか仲良くなるとかの表現からはかけ離れた。

“一緒に居る”とか“付いてくる”とか言うより、私の感覚としては“付きまとう”って表現が正しい。

そんな感じの子だった。

繰り返すが仲良くなった記憶は無い。


そんな子がある日、私の住んでいる家の前にある広場に居た。

朝、広場に出るとヒロくんとマミちゃんと一緒に立っていたのだ。

遊んでいると言うより、ただ立っている。

ヒロくんもマミちゃんも困惑しているような顔だった。

ヒロくんは男の子としては割とおっとりめでおとなしい、だが人見知りとかすることも無く穏やかに誰とでも仲良く成れるような性格の子だった。

妹のマミちゃんはハキハキ物を言うキュートな美人さんだ。チャーミングだし、人懐っこく、おしゃまさんだったが、負けず嫌いでおてんばさん。

その2人が男の子に対してどう対処して良いのかわからないって顔をしていた。

私が出て行くと2人はホッとしたような顔をして私のそばに寄ってきた。


その後どんな展開が在ったのかは記憶が定かでは無いのだが、当時、この広場にヤクルトの人が品物を売りに来ていた。

私はその人が持ってくる瓶入りのヨーグルトが大好物で、母にせがんで買って貰うのが日常だった。

その日もいつものようにヤクルトの販売員さんが現れた。

いつものように母が買い、私は貰ったヨーグルトにパクつき、ヒロくんとマミちゃんはマミーとヤクルトを買って貰っていたように思う。


何気ない日常。


だが、事件が起きた。

当たり前のことなのだが、男の子は1人でこの広場に来ている。

親が居ないしお金も持っていないのだから、ヤクルトの販売員さんから何かを買うことは出来ない。

でも、その子はヤクルトを欲しいって駄々を捏ねた。

ヒロくんのママは男の子にヤクルトを買い与えようとした。

当時は今と違い、他人の子供に何かを買い与えると言うことに対してゆるかったように思う。

もしくは地域性なのかもしれない。

ひょっとしたら、その男の子がどこの子か知っているから見かねて買ってあげようとしたのかもしれない。


しかしタイミングが悪かった。


販売員さんのボックスの中にはヤクルトが残ってなかったのだ。

残念そうにクーラーボックスの中を見せる販売員さんと横に立つヒロくんのママ。

そして男の子は目を見開き、中を確認すると悔しそうな顔をした。

項垂れた男の子を残し、ヤクルトの販売員さんは帰っていった。

その場に居た大人達は、男の子が諦めたのだろうと思っていたと思う。

しかし男の子は諦めていなかった。

ツカツカツカっと最後の1本であったヤクルトを、ちっさな三輪車にまたがり美味しそうに飲んでいるマミちゃんに近寄っていったのだ。

そして、男の子はマミちゃんのほっぺたをつねった。

何でそんなことをされるのかわからないマミちゃんは、ギャーーーァと泣き出した。

当然だ。

ヒロくんは慌てて購入した商品とお財布等を仕舞いに行ったであろうヒロくんのママを呼びに自宅へ走って行った。

男の子はその隙を突くように、マミちゃんのヤクルトを取ろうとする。

しかし、マミちゃんも根性が入っているのか、泣きながらも「これはマミのーーー」っと言って離さない。

2人が小さなヤクルトの容器を握り合い、引っ張り合いを始めたのだ。


私は許せなかった。

ヨーグルトをちょうど食べ終わったと言うタイミングも在って、私はヨーグルトの瓶を置き、2人目掛けてトコトコっと走った。

子供の足だ。

絶対にそんなに速くは無い。と思う。

トコトコトコっと走り、助走をつけた状態で私はその男の子の頬をパチーン!!!っと叩いたのだ。気持ち上的には殴ったのだが、幼いためグーで殴るのが難しかったのだろう。パーで叩いていた。

男の子の頬には真っ赤に私の手跡が残っているのを今も覚えている。

男の子は瞬間ボー然とした顔をし、何をされたのか気がついたのか「なんで殴るんだよ!!」って怒鳴って私を突き飛ばしてきた。

「あんたがマミちゃんのヤクルト取ろうとするからでしょう!!!」子供の私は言い返し突き飛ばし返した。

「あいつが最後の1本飲んでるからだろ!!」っと男の子が言い返しながら私の両肩を押した。

「女の子の頬つねるなんてあんたが悪い!!!」と私は言い返し、男の子の手を撥ね除け、返す手で男の子の片腕をひねり上げつつ顔に肘鉄を食らわせた。

典型的な子供の喧嘩の始まりだ。

その後、取っ組み合いの喧嘩になったらしいのだが、私はあまりその後の事は明確には覚えていない。

怒りが行動を全て支配していたのかもしれない。


夜になって大家さんが私の家を訪ねてきた。

何か文句を言っている。

私は寝ていたので最初どんな風に入ってきたのかは覚えてないのだが、起こされ大家さんのいる玄関に連れていかれた。

大家さんはなんか怒鳴っていたが、私の視線は大家さんの後ろに居る男の子に向いていた。

「謝ってちょうだい」

大家さんが、威丈高に放った言葉を覚えている。

私は「謝る理由がないので謝りません」って言い返した。

「子供のくせに生意気だわ。うちの子のほっぺた殴ったのあんたでしょう!!!」と大家が後ろに隠れていた男の子を横に引っ張り出し般若のような形相をした。

私はそれでも「マミちゃんのぽっぺたつねるからでしょう!!」と言い返すと大家は「じゃぁ、うちの子の腕を見てごらん。真っ紫に成っちゃって」と言う大家の言葉を遮るように「そいつが殴るから殴り返したのよ。正当防衛ってテレビが言っていた。殴ったのはそいつが先だよ。私の腕だって殴られたもん!!!」といい年した大人と2歳か3歳かの幼児の私とバトルが始まり、横で母はただただ平謝りしていた。

私はその横で家賃納めに行く時、いつもニコニコしてお菓子をくれる、明るくおしゃべりで当時白雪姫と言われていた天地真理似の美人の大家さんの息子が、お世辞にも全く整っていない顔立ちで悪ガキとしか言い様がない、コミュ力の低いあんなヤツなのかと言うことにショックを受け、脳内からアイツと大家さんが親子だと言うことを抹消するためにどうしたら良いのか幼心に悩んだのを覚えている。


事をどうやって納めたのか全く記憶は無いが、当時建設会社で現場監督の仕事をしていた父が仕事から帰ってきて、事の顛末を母が説明する横で、私が「悪くないもん。人のヤツ横取りしようとしたり殴るヤツが悪いんだもん」つて繰り返すと、父は私を褒めた。

母は父のその行動に「女の子なんだから喧嘩しちゃダメだって怒ってやって」と言ったが、父は「正しいことをしてダメだった怒ったらダメだろう」と言い喧嘩になっていた。


余談だが、白雪姫姿の天地真理の写真の入ったピンクの自転車が大好きだった。

三輪車からハマ付自転車に乗り換えた時、嬉しくってずーっと日がな一日乗っていたような記憶がある。

この日もヨーグルトを食べたのは自転車のサドルに座って食べていたと記憶している。

補助輪であるハマを片方外し、ハマ無しで乗る訓練を、毎日のように母か父に後ろを持って貰ってしていた。

だが、気がつくと私は自転車に乗らなくなっていた。

なかなか巧くいかなくって興味が無くなってしまったのかもしれない。

自転車が大好きだったハズなのに。

私のお気に入りだった自転車は、片方のハマを外したまま庭に放置され、錆びていった。

天地真理も大好きだった。

でも、白雪姫姿じゃ無くなった天地真理からも同じように興味が無くなったのを覚えている。

芸能人なのだから当然のことなのかもしれないが、子供の心では白雪姫が白雪姫じゃ無くなるって事を理解できなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る