第12話血の画家
血を絵の具に混ぜて、絵画を完成させる人物は何人か知っているが、
有名なのでは、呪いの絵画とも云われている( 苦悩に満ちた男)である。
そして、この日本でも、血を絵の具に混ぜて完成させた男の話がある。
平成三十年 七月
彼女は、とある出版社で働いている記者である。
特集で、世に広まらないで死んでいった画家達の記事を任されていた。
今週の取り上げる人物は、
ペンネーム戸鹿野(とがの) 燈(あかし)
本名、津田 武男
戦後に何作品か出して、その後は消息不明であった。
本人に会えないので、戸鹿野を研究している男性の場所に行くことにした。
藤巻 忍 ( 四十歳 ) は、業界でも有名な画家評論家で、無名の画家にスポットライトを当てて、有名人に登りあげるほどの人物であった。
あの、戸鹿野も彼が発掘して、有名にしようとしている人物であった。
「失礼します。藤巻さん」
扉の向こうには、優しげな男性が私の方を見てニッコリ笑って「よろしく」と握手をしてきた。
「こちらこそです」
私も精一杯の笑顔で返す。玄関を上り居間に通されるときであった。
綺麗な夕日の絵がそこには飾られてあり、「とても、美しいですね」と何気なく口に出していた。
「綺麗ですか、それ私が描いたんですよ。」
「藤巻さんがですか。すごい」
「いえ、いえ、」
ソフィアに座ると、仕事道具の手帳と録音機を取り出して、話を聞きいていった。
とある人里離れた村で、画家を目指していた男が暮らしていた。
三十代になっても芽は出ず、貧相な生活を余儀無くされていた。
絵の才能はあった。
しかし、描いた絵画を売るための能力にはかけていた。
三十代後半の時、病気で体が不自由になり、寝たきりになっていた。
医師からも死の宣告をうけ、死を待つだけであった。
手が震えが長くなり、絵にも支障が出始めていた。
彼は、自分の最期の作品を描きあげようとしていた。自分の部屋から見えたお向かいの家の風景を描いていたそうです。
ある日、青の絵の具がなくなり、大空を描けずにいた。
親は仕事で帰って来るのは遅く。絵の具をすぐに買ってきて貰うことさえ、不可能であった。
頭によぎったのは、・・・夕日・・・であった。赤と橙を加えて、真っ赤な夕日を描くことにした。橙を出し、赤を取り出すときであった。
不意に口から、真っ赤な血が出たそうでその血が橙と混じり、彼が望んだ色が偶然出来て、その絵の具をキャンパスに塗り込み、夕日の絵にしたそうなんです。
その絵を完成させて、一度自分が作り上げた作品を公民館に展示会として、飾ってもらえたとのことでした。
その中で、戸鹿野は車椅子で来ていたんだが、展示会が始りそして、終わる頃には体調が良いのか車椅子から立ち上り、ゆっくりだが、自分の絵を見つめていた。
ある日、一人の女性が消えた。
戸鹿野の絵を真剣に観つめて、終わる頃まで眺めていたのだが、その後の消息が分からないとのことであった。
観てたのは・・・あの夕日の絵だった。
それから、彼の体調は良くなっていた。死にかけていたとは、思えないほどにだ。
フッと戸鹿野の姿が見えなくなり、彼も消えてしまい、戸鹿野の捜索も始められた時だ。彼の家からいびつな物が出てきた。
失踪した女性の裸体であった。だが、目を見開き動かないことから、死んでいるのかとも思えたが、心臓は動いていた。
その女性は、よつん這いなって、テーブルの所に置かれていた。まるで椅子にでもされているかのようにだ。
脱け殻になって、何もかも停止しているようであった。
それから、六十年間、戸鹿野の姿もあの夕日の絵も発見されないまま、時効を迎えた。
多分、彼の夕日の絵には、生きたい気持ちが呪いのように混じりあり。
それを見た人物の魂を取り出す事が出来るのだろうね。
ただ、魂と人間の体の仕組みは別々であり、魂を取られたところで死ぬことはなく、永遠にそのままの姿で硬直しているんでしょうな。
そして彼は、女性の魂のおかげで、生き続けているのかもしれませんね?
オカルトの話になってしまい、記者が不気味がっていると、「どうですか?食事でも」と藤巻は、冗談を言って笑う。
「あっ、すいません、仕事に戻らないと」
「そうですか、残念」
部屋を出て玄関へ行くとき、あの夕日の絵が気になった。
「あれも、戸鹿野の夕日の絵に関心があり、描かれた物なんですか?」
「はい、現物はありませんが、白黒写真の絵から、真似たんですよ。」
「本当に、血の絵の具が使われてる見たいですね。写真いいですか?」
「構いませんよ、じっくり観ていってください、・・・じっくりとね」
その日、女性が姿を消した。
もしかすると、魂を抜かれて人形になっているのかも知れない。
完
怪奇 西田 正歩 @hotarunohaka
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