26話 彼女と過ごす時間 

 加奈の家に着いて、僕達は車から降りた。先に加奈が玄関の前に行き開錠した。ガチャリとドアが開き、

「さあ、どうぞ!」

 と、中に促してくれた。

「どうもね」

 言ってから入った。後ろから、加奈が入って来たのが分かる。二人っきりだ。何が起きるのか気になる。

「シャワー浴びよ? 二人で」

 二人で!? マジか! 僕は、

「うん、いいよ」

 軽いノリで返事をした。二人とも裸で、シャワーを浴びるのは今までに無かったことで、初体験だ。でも、僕の局部は反応しない。こんなに加奈のことが好きなのに。呆れられてしまうのではないかと心配だ。加奈は、僕が病気だということを把握してくれているから、ある程度は理解してくれているだろう。でも、いつまでも性行為がないのはいくら理解してくれていると言っても、限度があるだろう。


 彼女は寝室から、下着とジャージのズボンを持って来て脱衣所に設置されている籠に置いた。その下にはバスタオルが数枚重ねてある。そして、僕の目線など気にしていないようで、服を脱ぎ出した。

「ちょっ……!」

「どした? 剛輝も服脱ぎなよ。一緒に入ろ」

「恥ずかしいよ」

 僕は赤面していることを自覚した。

「男なら、女の前で堂々と脱いでよ。その方がカッコいいじゃん!」

 そうなのか、と思い半ば納得せずに服や下着を脱いだ。その頃には加奈は既に、裸だった。僕は動揺している。若い女性の裸は、暫く見ていないから尚更だ。それでも、僕の中央部分は反応しない。トランクスを脱いですぐにタオルを当てた。

「あたしも見せるから、剛輝の大事な部分も見せてよ」

 凄い積極的な人だな、と思った。かなりエッチな加奈さん。でも、こういうのも嫌いじゃない。刺激的だ。


 浴室に加奈から入り、次いで僕が入った。お互い、細身なのでそんなに狭くは感じない。加奈はシャワーヘッドを握り、お湯を出した。丁度いい湯加減に調整しているようだ。そして、僕にかけた。温かい。加奈は僕の全身にかけ、僕は加奈の全身にお湯を掛けた。彼女はスポンジを風呂に備え付けの棚から取り、ボディソープを三回くらいプッシュし泡立てた。加奈は、

「洗ってあげる」

 笑顔で言う。僕は、

「いや、自分で洗うよ」

 言うと、

「いいから、洗ってあげるってば」

 半ば強引に僕の身体を洗い出した。何だかくすぐったい。しかも念入りに。

 洗い終わって、

「あたしの身体も洗って」

 そう言われ、僕も念入りに洗ってあげた。

「なかなか上手じゃない。元カノにも洗ってあげてたの?」

 え? 元カノ?

「洗ってないよ。エッチだってしたことなかったから」

「そうなんだ。何でしなかったの?」

 答えにくい質問だ。何故かと言うと、これは、加奈にも当てはまることだから。でも、質問されたから答えた。

「そういう気分になれなかった」

 彼女は黙っていた。何かを察したのか。正直、今のところ加奈と体を交じり合わせたい気分ではない。それは言わないが。促されるまま、僕は加奈の体についた泡をシャワーで洗い流した。僕は自分の体についた泡を洗い流そうとしたら、

「あたしがやってあげるから」

 言われたので、シャワーを渡した。言われるがままにお湯を浴びて、泡を落としてもらった。

「ありがとう!」

 礼を言うと、何もだよ、と笑みを浮かべながら言った。正直、気持ち良かった。スッキリしたし。加奈はどう思っただろう。訊くのも恥ずかしい。

 だが、訊かずとも本人が言ってくれた。

「ありがとねー、嬉しい」と。

「それなら良かった」

 僕がそう言うと、うん、と本当に嬉しそうに頷いた。かわいい! 心底そう思った。


 手放したくない! 僕は強くそう思った。これほど好きになった女性は二十六年生きてきて初めてだ。きっと、加奈も僕と一緒にいたいと強く思っていることだろう。この女性なら、将来のことを考えてもいいかもしれない。

「結婚」という二文字。このことを考えた女性は加奈が初めてだ。そのようなことを考え出すと楽しくなってきた。


 大切な存在。


 貴重な存在。


 このようなことを思う女性はなかなかいない。僕も弱気なことばかり言ってないで、まず仕事に就くことを考えよう。明日にでも、ハローワークに行ってみるかな。


 そのようなことを考えていると、

「どうしたの?」

 と、僕の顏を覗いてきた。

「いや、何でもないよ。そろそろ上がろうか」

「そうね」


 先に上がった加奈は僕に一枚、バスタオルを手渡してくれた。

「ありがとう」

「なんもよー」

 相変わらず彼女は優しい。彼女と居たら完治しない病気と言われている僕の病気も完治しそうな気がする。癒しだ。


 僕が浴室で体を拭いてる間、加奈は脱衣所で自分の体を拭いている。

 何故だか分からないが、僕は突然、具合いが悪くなってきた。


 そのことを彼女に伝えると、

「え!! 大丈夫? なんでだろ……」

 意気消沈してしまった。

「ごめん、折角の楽しい時間を……」

「取り敢えず、服着よ」

 言われた通りにした。

「ゆっくり休んでね。自分の家だと思って。あたしのベッドで寝ていいから」

「ありがとう」

「て、言うか一緒に寝よ?」

 僕は、うん、と頷いた。それにしても、何で調子が悪くなったのだろう。仕方ない。ゆっくりさせてもらおう。加奈には本当に申し訳ないけれど。


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様々な性  遠藤良二 @endoryoji

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