藤を見る人
まきや
第1話
おや、雨が……あがりましたね。
見てください。
私たちを
私の
自分の事を話すお約束でしたね。
私たち二人は、製薬会社の研究部で出会いました。生涯を通して、薬学を学ぶ者同士でした。
ふふ、その
あまり近い職種の結婚って、どうなの? そんな顔をしていますね。
私たちは職場の誰もが認める、強烈なライバルでした。
妻の素晴らしい評価が、化粧品の開発部門から聞こえてくれば、私は博士論文の発表で名声を得て、なるべく早く肩を並べようと努力しました。
そうして仕事場では互いに
子はありませんでしたが、幸せでした。
喧嘩はありました。でも仕事の争いを家に持ち込むことは、むろんしませんでしたよ。
けれどひとつだけ、私たちが家庭内でも
それが【寿命】でした。
「君が死ぬ前に、僕が死にたい」
「私が先に
「ひとりでは生きていけないから」
「あなたの
そんな会話、どんな夫婦でもするでしょう?
死に関する会話は、私たちにも当然ありました。
けれど極端も極端。真逆も正反対。
「僕は君より絶対に長く生きてみせる」
「あなたに私の骨を拾わせると思う?」
そう、私たちの争いは変わっていました。まるで子供の
競って食事に気をつかい、
時には
「
わざと好物の
いま思えば負けたくも、勝ちたくもない勝負でした。
でも最後はあっけないもの。
妻は職場で
永い間、眠れませんでした。疲れ果てて目をつむった夜、夢を見ました。妻の夢でした。彼女は座っていました。
「私、まだ負けていないわよ」
言われたのは、それだけでした。
次の日、庭に出てみると、このノダフジの若木が生えていました。
ああ、そうか。妻の魂はこの藤となって生きているんだと、信じました。
だから
え? これは祖父の話なのか、ですって?
言いませんでしたか? 私のですよ。
ああ、驚かれるのは無理もない。私にとって不利な勝負になったのは、間違いないですからね。
でも幸運が味方しました。
それはあくまで、
細胞レベルでの分裂ミスを無くすとか、そういうやり方を
けれど時間が少なすぎて
やけになっていた私は、ならば壮大なパフォーマンスを見せてやると、思ったのですが……まさか
これが答えです。おかけで私と妻の勝負は終わらず、寿命に関する決着は、まだしばらく付きそうにありません。
でもちょうど良かった。あの時、妻を失ったと
私には終わらせる勇気も、始める力も無かったですから。
夢を見る事と、この花を見つける事。
できたのは、それだけでした。
……うつむいて、どうされたのですか?
もうお帰りになりますか。
濡れた藤の花びらは、踏むと滑るから。
また近くに来たときは、寄ってみてください。
私は多分、ここにいます。
それでは、ご
(藤を見る人 おわり)
藤を見る人 まきや @t_makiya
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