その4
一行は赤霧の来ない高台にある公園へと避難する。ちょうどサーバルの意識も回復したようだ。
「ん……あれ、かばんちゃん、ここは? わたしどうしてたの?」
「よかった、今まで赤霧の中で倒れてたんだよ」
サーバルを介抱しているとイエイヌに傷の手当てをして貰っていたともえがやって来た。
「あっ、目覚ましたのサーバルちゃん! 大丈夫? お耳溶けてない?」
能天気に絆創膏だらけの笑顔を振りまく。
それを見たかばんは立ち上がり詰め寄った。
「ともえさん……どうしてあんな危険なことしたんですか!?」
バスの中に怒声が響いた。初めて彼女の怒る姿を見たともえは肩をすくませる。
「確かにあなたはフレンズとは身体の造りが違うので赤霧の中でも多少動けますが、赤霧は普通の生き物にとっても猛毒なんですよ? もし、あのまま引き上げられなかったらどうなっていたか……!」
蛮勇を咎められ、バツが悪そうに謝罪する。
「心配かけてゴメンなさいっ! でも……」
バスの外のベンチで救急箱を抱えて待っているイエイヌをちらりと見ながら言葉を返した。
「でもね、君たちのことまだよく知らないけど、大事な友達なんでしょ? あたしにも大事な友達がいるからよくわかるの……だから放っておけないよ」
それを聞いたかばんは少し困った感じに表情を和らげた。
「……ありがとうございます、サーバルちゃんを助けていただいて。でもこれからはあまり危険なことしないでくださいね、あなたの大事な友達も心配しますから」
「すっごーい! ともえちゃんが助けてくれたの? ありがとう!」
サーバルも起き上がってお礼を言う。そうだ! と何か思ったのか、バスの座席に設置していたボックスを開けた、じゃぱりまんを取り出す。
「お腹へっちゃたよー、みんなで晩ごはんにしようよ」
◇
日が沈みかけ星々が空に見え始める、四人はじゃぱりまんを頬張りながら探索の結果を報告し合った。
「こちらは生きてる端末を見つけましたが、メインサーバーとの接続はされていませんでした」
「『はっきんぐ』? はできないんでしょうか?」
「物理的に遮断されてるみたいで……直接サーバーを操作しないと」
「昔使われてたものなのに繋がってないっておかしくない?」
「誰かがかじっちゃったとか?」
収穫はほとんどなし。都会の探索は大変だ。
「ともえさんの方は何かありましたか?」
「描けるところまで地図描いたよ! あと……」
ともえはスケッチブックを開く、セルリアンに襲われる前に描いた風景画だった。
「えへー、めっちゃ絵になるところがあったから描いてみたの!」
「えっと、はい、いつも素敵な絵だと思います」
「赤いし黒いね!」
『ともえ ソレヲ チカヅケテ ヨク見セテ』
かばんの手首の腕時計のようなものから声がする。機体を失ったラッキービーストだサーバルと共に、かばんと冒険してきたもう一人の相棒だ。
「ボス!? 喋るの久しぶりだね!」
「ラッキーちゃん、ほら、こうでいい?」
『ケンサクチュウ……ケンサクチュウ……』
絵を近づけて十秒ほどして回答が来た。
『コノ絵ノ イチバン高イビルハ メインサーバーガ オカレテル場所ニ似テルネ』
偶然で予想外な成果、一行の次の目的地が決定した。
「お手柄ですよともえさん!」
「わぁぁ、あたしの好きが役に立ってうれしいよ! 早速……」
おうちが見つかるかも、ともえの細足に急に元気がみなぎった。
『夜間ハ動カナイ方ガ イイヨ』
「ですね……消耗がひどいのでちゃんと休みましょう」
さすがに浮足立ち過ぎである。
こうして明日に備え一行はバスで休眠を取る。
一番ダメージが大きいサーバルを寝かせて、かばんとイエイヌが交代で見張りをする。ともえはセルリアン対策のお札を描くことにした。
メインサーバーが見つかれば、かばんちゃんの目的の”ヒトの縄張り”が見つかる、そうすればあたしのおうちだって、今はもう記憶の彼方の家族に会えるかもしれない……!
翼もツメもキバも持っていないあたしだけど、イエイヌちゃんやみんなに助けられてここまで来れたんだ、諦めるなんてできないよ。
だから
どうか、明日も……。
◆
「
真夜中にオオミチバシリが叫ぶ、息を切らしてる彼女が牽いていたリヤカーからアライグマのフレンズが降りる。
「お前は足は速いのに体力ないのだ!」
「いちおう鳥だから重い物運ぶの向いてねーんだよ!」
アライグマは素直に交代すると前進を再開した。向かう先に見えるのは高層ビルを奇怪な赤い霧が照らす、噂に聞いた恐ろしい『都会』だ。
リヤカーに積載されている奇妙な岩石を睨みながらオオミチバシリは呟く。
「かばん? とかいう奴にともえ様が付いて行ったからお前らに手を貸しているんだぜ~? 何でこんな重いものを、あの絶対やべーところに運ぶんだよ」
「『せっしょうせき』をかばんさんにお届けするのだ! パークの危機なのだ!」
「チクショーわかんねぇ! アムールトラは先にどっか行っちまうし……」
ぎゃあぎゃあ騒いでいるとリヤカーの上で咳き込む音がした。
「大丈夫かフェネックぅ!?」
「けほっ……へーきだよアライさーん」
アライグマの腐れ縁であるフェネックだ、遠くの赤い都会を眺めて言う。
「いやーわたしもゴマさんと同じで不安かなー? 『都会』はセルリアンも強いし誰も近づかないらしいじゃないか。かばんさんを助けたいのは山々だけど、あの変な霧は毒だって聞くし……」
珍しくフェネックは弱気だった。それを見たアライグマは力強く答える。
「安心するのだ! アライさんは『とかい』は得意だから大活躍なのだ!」
その発言に反応したのはオオミチバシリだ。
「まさかお前『都会』に行ったことあるのか!?」
アライグマは不敵な笑みを浮かべる。
「…………ないのだー!」
「ねーのかよ!!」
「アライさんは頼りになるねぇ、わたしはアライさんに付いていくよ~」
フェネックの顔が、いつもの飄々とした表情に戻った。
【END】
けものフレンズR 第XXX話『とかい』 福士梟 @fukushifukurou
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