その3

「うみゃみゃあぁ!!」


 サーバルキャットは跳びかかり、鋭い爪で血色のセルリアンを少し抉った。倒せるわけではなかったが怯ませることはできたようだ。

 再びあの赤い閃光で反撃してきた、だが得意のジャンプでひらりと躱す。


「サーバルちゃんカッコいい!」

「た、助かりました……」

「ともえちゃん、イエイヌちゃん、早く逃げて!」


 頭上から丈夫そうなワイヤーロープが垂れ下がる、これを使って避難しろということだろう。

 イエイヌはともえを背負い力いっぱいにロープをよじ登る、そして橋梁の上の道路へ退避できた。そこにはジャパリバスが一台と帽子をかぶった中性的なヒトがいた。

 そう、ともえと同族であるかばんだ。

 しかし厳密にはヒト(Homo sapiens sapiens)のフレンズである。


「よかった無事で、怪我はしてますが……」

「ありがとう! 急にセルリアンに襲われて……」

「はい、あとは僕たちに任せてください」


 かばんは下の方で戦っているサーバルの方に目を向ける、苦戦してるようだ。


「かばんちゃん! 石、石はどこー??」

「待っててサーバルちゃん!」


 かばんはヒビの入った眼鏡を掛ける。昔パークの誰かが使っていた道具らしい、セルリアンの強さや弱点を解析することができるのだ。

 弱点の石はどうやら首のあたり、しかし直接は見えない部分にあった。


「殻のようなもので覆われてる……それなら」


 かばんの瞳が輝いた、手のひらにサンドスターを集める。

 フレンズは角や牙といったその種にとっての力を武器として具現化できるのだ、呼び出すのはヒトの力の象徴だ。

 筒のようなそれを構え、狙いを定め……。


「今だ!」


 引き金を引くと大きな音とともに火を噴き、弾丸が射出された!


『————————ッ!!!!!』


 石を覆っていた殻に見事命中、ひび割れて弱点が露わになる。


「……そこだあ――ッ!!」


 すかさずサーバルは自慢の爪を叩き込む。


 ぱっかぁーん!


 石を砕くとともに、セルリアンの身体も粉々に吹き飛んだ。


「やったぁ! 勝ったよー!」


 嬉しそうに橋の上の三人に手を振るサーバル。

 しかし上から見ていたかばん達は異変に気づいていた、倒したはずのセルリアンの頭部が消えずに残っているのだ。


「サーバルちゃん、気を付けて!」

「え」


 その瞬間、それは脈動し

 真っ赤に爆ぜた。


「??!!」


 高濃度の赤霧が地上を満たす。あっという間にサーバルの姿は見えなくなった。


「げほっ……げほっ……サーバルちゃん!?」


 このくらいの高さなら彼女のジャンプ力でこちらに来れるかもしれない、しかしその様子はない、赤霧の底は静かなままだ。

 友達の危機にとっさに身を乗り出すかばんだったが、自身の疼痛に気づく。

 さっき飛び散った赤霧に触れた部分からサンドスターが漏れ出ていた。


(どうすれば……!)


 このまま飛び込んでも、フレンズであるかばんはサンドスターを失い動けなくなってしまうだろう。きっとサーバルも地上でそのような状況になっている、共倒れでは何の意味もない、しかしこのまま時間が経てばサーバルは……。

 必死に思案する、その時だった。


「あたしが行けば良い感じだねっ!」


「「ともえさん!!??」」


 ともえは赤霧へ飛び込んだ!


 受け身を取って着地し、見当をつけて見えない霧の中を進む。濃い赤霧の中ではジリジリと皮膚が焼かれる感覚がした。


「めっちゃ熱い……熱いというか、痛い!」


 我慢して探していくと、ぐったりと倒れているサーバルを発見した。やはりサンドスターを流出して動けなくなっているようだ。抱きかかえて橋梁の方へ戻る。

 だが、どうやって橋の上へ戻ろう? イエイヌみたいに人を抱えたままロープを登るなんてできるわけがない。

 肺も痛みだし、挫けそうになる。


「ともえさんっ!」


 よく知った声、イエイヌが飛び降りてきた。胴体にはさっきのワイヤーロープが結び付けられている、さながらバンジージャンプだ。


「私につかまってください!」

「うん!」


 ともえとサーバルをしっかり掴まえると上へ合図を出した。


「かばんさん! お願いします!」


 返事はなかったが、代わりに自動車の音が返ってきた。

 かばんはワイヤーを繋いだジャパリバスを運転する、機械動力でイエイヌが赤霧に蝕まれる前に三人をまとめてサルベージしたのだった。

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