その2

 無機質な黒い瞳、スライム状の身体……セルリアンだ!

 ほかのちほーでは見られない血のような赤色を持つそいつは、大きなムカデのような姿を伸ばして見下ろす。


「「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁ!!??」」


 不意を突かれた二人は同時に絶叫した。


「逃げましょう!!」

「うん!」


 一目散に逃げだす。イエイヌは特別戦いが得意なわけではないし、ともえに至ってはフレンズですらないただの生身の人間ヒトだ。ただでさえこのサイズだとハンターでもない限り戦うべきではない。

 ともえは自身が描いた地図を取り出して見て、ある通路を指さす。


「こっち行こう! 狭い路地があるから逃げ切れるかもっ!!」


 大型セルリアンを相手にした良い提案だったが、イエイヌは冷静に却下する。


「ダメ! そっちは赤霧の臭いが濃いです……!」


 仕方なしに反対方向の通りへ向かう、開けた大通りだった。

 少し距離を取れたが、相手も迫ってきてる。体力のないともえが息を切らした。


「はぁ……はぁ……めっちゃヤバいよ~」

「大丈夫ですか!? このままじゃ追い付かれて……そうだ、オイナリサマから教えてもらったアレは使えないでしょうか?」

「!! やってみる!」


 助言を受けサイドパックから不思議な模様の書かれたお札と方位磁針取り出す。方角を確認すると足元にあかいお札を張り付けた。


「『くろ』があっちで、『白』がそっち!!」


 イエイヌに二枚渡してそれぞれ指定した場所に配置させる。セルリアンがそろそろやってくるだろう、それまでに四枚のお札を四角形に配置しなければならない。


「ともえさん! 最後に『青』を」

「………」

「ともえさん?」


 サイドパックをまさぐりながら気まずそうに笑う。


「……なくしちゃった☆」

「ともえさあああああああああん!!!!」


平気へーき平気へーき、ちょっと待っててね」


 青い絵の具と毛筆を取り出すと、ともえは直接アスファルトの地面に模様を書いていく。絵の具にはサンドスターが含まれているようだ。


「出来た!」


 素早く完成させ、ちょうどやって来たセルリアンを迎え撃つ。陣の中に侵入した瞬間、三枚のお札と青い絵が輝き、結界フィルターが展開される!


『———————————!?』


 セルリアンを閉じ込めることに成功した。


「やったー!!」


 ともえはイエイヌに勢いよく抱き着く。少し遅れて緊張が解けたイエイヌも抱き返した。


「いやーイエイヌちゃんのおかげで助かったよぉ」

「私は何もしてませんが……」

「ううん、あたしそそっかしいから、君がいなかったらすぐに死んじゃってたよ」


 頭を撫でると、照れながらそれを受け入れた。尻尾を嬉しそうに振っている。

 封じ込めたセルリアンを眺める。こちらを睨みながら恨めしそうに蠢く。


「こうして見ると結構カッコいいデザインしてるよね、スケッチしようかな」

「えぇー……この結界フィルターすぐ解けちゃうから早く逃げましょう」


 あまり時間もない、この場から立ち去ろうとする二人。


 しかし……。


「?」


 セルリアンの様子がおかしい、感情のなさそうな漆黒の瞳が段々と変色している。

 赤く、赤く、次第に真紅に……。


「危ないッ!!」


 異変に気づいたともえがイエイヌを押し倒す。瞬間、頭上を赤い閃光が通り過ぎた!

 セルリアンから放たれたレーザービームのごときそれは強力な赤霧ジェットだ。着弾したところの地面を抉り、溶解させている。こんなものが直撃していたら、ひとたまりもなかっただろう。


「……しまった!」


 そして赤霧ジェットは同時に結界フィルターも破壊していた。抜け出したセルリアンは二人へ向けて太い尻尾を振り回す。


「きゃああっ!!」

「うわああああああ!!」


 衝撃で吹っ飛ばされ、橋梁の柱に叩きつけられた。

 形勢逆転だった、動けなくなった二人を捕食しようとゆっくりと近づいてくる。


「…………食べ……ないで……」









「————食べさせないよ!!」


 喰うモノと喰われる者の間に、黄色い猫のような少女が立ち塞がった。

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