けものフレンズR 第XXX話『とかい』

福士梟

その1

 見渡す限りの廃墟を夕日が照らしている、そして得体の知れない真っ赤な霧が満ちる。生命の気配のない地獄のような風景だ。

 しかしある廃ビルでひとりの少女が上機嫌にスケッチブックに絵を描いていた。


「わぁぁ…めっちゃ絵になるー!」


 かわいらしいリボンで止めたポニーテールを揺らしながら、黒と赤のペンでコントラストの強い風景画を仕上げる。ある程度書き終えると、絵と実際のそれを見比べて満足したようだ。

 するとちょうど下の階から彼女の友達の足音が聞こえてくる。


「ともえさん! こんなところにいたんですか、探しましたよー」


 犬耳を生やしたフレンズがやって来た、イエイヌのフレンズだ。

 犬種は多分、雑種。


「あ、イエイヌちゃん! 見て見て~、ここから見た景色を描いてみたんだ」

「本当に絵が好きなんですねぇ、でもそんな場合じゃありません」

「だ、大丈夫だよ! ちゃんと周辺の地図も書いたんだから!」

「そっちじゃなくて、赤霧がここに近づいているんです」


 その報告を聞いてともえは嫌そうな顔をする。


「あれ見る分には悪くない色だけど触ると溶けちゃうんだよね……。わかった、ビルから出られなくなる前に合流しよっ、セルリアンも怖いし」


 二人は廃ビルを後にする。地上に降りると、薄っすらと周りが赤み掛かっていた。すでに赤霧が少し来てるようだ、目や鼻の粘膜の部分がヒリッとする。


「それにしても”メインサーバー”はどこにあるんだろう……」

「ラッキービーストたちに命令してる機械でしたよね? それで『ヒトの縄張り』が見つかるって言ってましたね」

「そう! ヒトの縄張りがあればそこにあたし達の本当のおうちがあるかも、ママだってきっと帰りを待ってるよ!」


 ともえとイエイヌはジャパリパークでおうちに帰るため旅をしてきた。いろんなフレンズ達と出会い、別れ、恐ろしいセルリアンに遭遇しては何度も危険な目に遭いながらも、力を合わせて冒険を続けてきた。

 今はここ、誰もいない都会でおうちの手がかりを探しているのであった。



『ガコン』



 異音。

 二人はとっさに互いを見合わせる、今ここには自分たちしかいないはずだ。


「……ともえさん、おなか減ってます……?」

「お腹の音じゃないでしょ!? ていうかどこから音したの?」


 すぐに行動に移せるよう構えながら周囲を見渡す、何かが落下したとかそういうことはないようだ。イエイヌの得意の嗅覚で探ってみるが赤霧の嫌な臭いしか感じない。


『ジャリッ』  『バタン』

  『ゴンッ』    『グチョ…』


 再び異音、今度は連続だ。

 ともえはイエイヌに身を寄せる。イエイヌはどこにいるかわからない何かを強い眼光で睨みつけ、小さく唸った。


 しかし次第に音はしなくなり、何事もなかったように静まり返った。

 たいしたことじゃないか……ほっと胸を撫で下ろしたその時、


 マンホールを打ち破り、巨大な影が二人を覆った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る