ギックリ腰日記

桑原賢五郎丸

2019.4.21〜4.24

 4.21(日)

 45歳になってから、足腰の衰えを実感するようになった。

 階段の上り下りが億劫になるとか、起き上がる時に「よっこいせ」と掛け声を上げるといったところからもそれが現れている。

 日がなパソコンの前に座って唸っている時間が長いのが原因の一つにある。

 もちろん加齢による筋肉の衰えもあるのだが、何よりも立っている時間が短い。これは良くないですよ。

 休日も趣味で小説を書くようになり、コメントを頂いた時など嬉しくて身悶えるが、基本的にたいへん苦しい。うなっている。


 そんなわけで実感した。20年以上デスクワーク一筋で生きてきたツケを払うときが来たのだと。

 わし、一念発起。大枚はたいてスタンディングデスクを買った。買ってしまいました!

 重たいそれを組み立てている最中に悲しい出来事が起きた。


 失笑を禁じ得ないタイトルを見ていただければおわかりであろう、ギックリ腰である。


 順番としては。

 1、少しだけ離れたところに2本の軽い支柱がありました。

 2、近づくのがめんどいというバカ丸出しの理由から、膝を曲げずに、横から見ればホチキスの針みたいな感じになりました。

 3、くしゃみしました。

 4、nice gikkuri-goshi.


 ホチキスの針のまま、キャンと一声か細い断末魔を上げたおれは、横に転がるべきかソファに腰を乗せるべきか迷った挙げ句、そのままの体勢を維持した。

 痛みで思考が停止したせいもあるが、どうすればいいのか分からなかったのである。


 実はギックリ腰、2度目でありまして。前回は10年ほど前の夏。

 ジムで重たいダンベルを持ち上げるごっこ(筋トレともいう)に汗を流し、シャワーを浴びた。帰宅したら暑くてまた汗をかいたので、冷水シャワーを浴びながら風呂掃除をした。

 風呂桶の縁に腹を乗せて底面を掃除していたのであるが、思い返してみればこの時もホチキスの針だな。バカだな。まるで学習しねえな。

 なんにせよその時はお腹は支えられていたので、比較的楽な姿勢でキャンキャン鳴き続けることができた。マッパという問題を除けば。パンツを履くまでに10分くらいかかったんじゃないかなあ。


 そこいくと今回のギックリは、体重を支えてくれるものがなにもない。地べたに膝をついたら起き上がれる気がしなかったので、ソファに不時着することを選んだ。

 そろりそろりと膝を曲げ、少しずつ少しずつ歩を進め、ソファに上体を預け、事なきを得ていない。全く得ていない。痛みは得た。ワハハめっちゃおもろいやんとおれは真顔で思考した。

 痛い痛いまんまである。しかも本日、日曜日。整形外科とか全部お休み。そのままソファに上半身を預け、湿布を貼って一日を無為に過ごした。


 4.22(月)

 スマートフォンのメモにはひとことだけ。「シャワー浴びたい」。おっさん切実だな。

 食事は片手で食べられるパンとか買ってきてもらった。

 ここで一言、ギックリおじさんの教え。

「うつぶせになるな。横向いて寝ろ」


 4.23(火)

 病院に行きたいけど歩いていく自信がない。400メートルくらいだと思うけど自信がない。信号コワイ。

 なので、父親の車椅子を押していくことにした。

 結果的にこれはナイスアイデアであった。なんと、無事、病院に到着することができたのである。

 もちろん汗だくですが。もちろん表情は攻め続けられるプロレスラーみたいになってますが。当然スピードはそこらへんのおばあちゃんよりも遥かに遅いが。


 しかし空の車椅子を押すというのはなかなかにジロジロ見られるものでありますな。

 病院の中であまりに無遠慮に見てくる若造がいたので、空っぽの車椅子に笑顔で話しかけたあと、ゆっくりとそいつの方に向かってやろうかと思った。


 診察室に通される。


 医者「どうしました」

 おれ「ギックリ腰です」

 医者「それは私が決めます」

 おれ「どうでもいい。実にどうでもいい」


 痛みでタガが外れているので、思った言葉が素直に大声で出てきた。しかも続いた。


「そんなくだらねえ押し問答、ど〜でもいいっすわ」

「いや、私はどうしました、と訊ねたのです」

「遠目にあった膝下のものを取ろうとした時にくしゃみをしました」

「ああ、ギックリ腰ですね」


 眼の前でため息ついてやったわ。

 痛みの強い腰の右側に、ごっついヒアルロン酸注射をぶち込んでもらうが、あの医者め、思い出したら腹が立ってきた。いや、おれが悪いのかもしれないし、多分おれが悪いんだろうけど、それでもギックリ腰やってから痛風になりやがれ、と願っている。


 4.24(水)←イマココ!

 比較的楽になってきたので、スタンディングデスクの高さを調整し、膝立ちして書いてる最中。

 なお、スタンディングデスクの完成は兄に託しました。ありがとう兄。

 そして私のお腰様の現時点での限界が近づいてきております。素直に横向きに寝転がってます。

 しかしなあ、痛風日記、腰痛日記ときて、次は何になるんだろうなあ。何もなければいいなあ。

 というかですね、しばらく書けない! 無理! タンマ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギックリ腰日記 桑原賢五郎丸 @coffee_oic

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ