終章

最終話

 俺はルミにお仕置きをするつもりだ!


 「ヒカ……ル……」


 俺はヒカルに話しかけようと振り返ると、頭を抱え屈み込んでいた。

 そうだった。俺の正体がバレないように、二人にも幻覚を掛けたんだった!


 「くそ!! うわ~!」


 ケンタは逃げ回っている?

 うん。まあ、大丈夫だろう!


 俺はヒカルだけ、幻覚を解除する。


 「ヒカル! 火の玉を二発撃って!」


 俺はルミを指差し言った。

 ヒカルは顔を上げてこっちをジッと見た。


 「え? 誰?」


 あ、やべ。俺、今、魔王の姿だった!


 「いいから! こいつに火の玉!」


 ハッとしたようにヒカルは立ち上がり頷いた。そして、ルミに手を向ける。


 「火の玉!」


 「やめろ!!」


 ルミが叫ぶも五秒後、火の玉はルミに向けて放たれた!


 「ぐわあ!」


 「火の玉!」


 「覚えていろよ! キソナ!」


 ルミは悔しそうに俺を見て言った!


 「噂は流すなよ? お前がヒカルだったて事は、二人に黙っているから。挑戦もいつでも受けて立つ!」


 ルミに火の玉がヒットする!


 「ちくしょう!!」


 ルミは叫び声を残し、彼はその場に倒れ消滅した。

 って、死亡して単に街にワープしただけだけどな。


 俺は人間の姿に戻った。正確には変身した事になるけど。

 ケンタの幻覚も解除する。


 「うわー! って、あれ? うん?」


 ケンタはキョロキョロしてから、こっちに向かって来る。


 「キソナ! お前がモンスターを倒したのか?」


 俺は首を横に振る。


 「ヒカルだよ」


 「え? ヒカル?」


 ケンタは驚くもヒカルを探す。


 「おーい!」


 ケンタが声を掛けると、ヒカルは怯えながらも俺達の方に向かってきた。


 そう言えばまだ、ケンタの事伝えていなかった……。俺もさっきまで、魔王の姿だったし近づきづらいよな。


 「えっと……。キソナだよね?」


 「あはは。そうだよ。な、何言ってんの? あ、そっか。幻覚で、俺が何かに見えていた?」


 ちょっと棒読み風になったが誤魔化す。


 「何か凄い綺麗な外人が立っていた様に見えて……」


 外人って。まあ外見は日本人じゃないけど。


 「いや、そんな人物いなかったよな?」


 ケンタはそう俺に話しかけて来た。俺はうんうんと頷く。ケンタは俺の本当の姿は見てないからな。


 「きっとそれ、幻覚だよ」


 「げ、幻覚って?」


 俺がそう言うと、ヒカルが聞き返してくる。


 「落ち込まないで聞いてくれな。ルミなんだけど、ヒカルの事をテスターの時のヒカルだと思っている。それで俺達がヒカルの味方をしたんで、俺達に幻覚を掛けてモンスターまで置いて行った!」


 「え!! ルミが! そうなんだ……」


 「あぁ!!」


 ケンタが大声を上げると、ヒカルがビクッとする。


 「ごめん! ヒカル! 俺、誤解していたみたいなんだ。お前はテスターの時のヒカルじゃないよな! 二人でルミを説得したんだけど、わかってもらえなかったみたいだ。本当にごめん! レベルまで下がったんだよな……。その、なんて言っていいか。もし、あれだったら俺を殺してもいいから許してくれ!」


 と、ケンタは早口で言うとガバッとヒカルに頭を下げた。

 ヒカルは、ケンタを凝視した後、俺を見た。

 俺は頷く。


 「ヒカル。レベル見てみよろ」


 「え? あ! 嘘! 上がってる! 一〇レベルに戻ってる!」


 「え? 戻ってる?」


 ヒカルの言葉に、ケンタは驚いて頭を上げた。


 「さっき、モンスターにとどめ刺しただろ? 確かパーティー組んでいない時は、とどめを刺したプレイヤーに経験値が入るはずだと思ったからさ。上がっていて……うわぁ!」


 「キソナ! ありがとう!!」


 俺の説明が終わらないうちに、ガバッとヒカルが抱きついて来た! 一瞬の出来事だったので避ける事が出来ず、胸に胸が当たって……。女性だってバレる――。


 うん。バレるかもしれないが、俺よりご立派な胸の感触が! 運営よ……リアリティーグッジョブだ!


 『ごほん。キソナ様……鼻の下が伸びております!!』


 え? ピピがムッとして、凄い目で見ている! いや、俺が本来女性だって知っているよな? あ、リアルは男性だと知っているのか? いやしかし、それでなぜピピが怒るんだー!!


 「ヒカル、ちょっと離してやった方がいいかも。キソナが顔を真っ赤にしてるぜ」


 ニヤッとしてケンタは言った。


 「え? あ、ごめん!」


 やっと解放され、安堵するが残念な気もする。


 「キソナ。本当にありがとう。ケンタの誤解も解いてくれて、レベルまで戻してくれて……」


 「俺からも礼を言うぜ。モンスターのHPを削ってくれたんだろう? 流石だな!」


 「いやそれほどでも……あるかな?」


 二人は俺の言葉に笑う。よかった。ヒカルに笑顔が戻った。


 「まあ、冗談はさておき、ルミだけど、去り際に噂は流さない様に言っておいた。きっとそれはしないと思う。まあ、もし今後こんな事があっても、また俺が守ってやるからさ。これからも一緒にプレイしようぜ、ヒカル!」


 俺がそう言うと、ケンタは頷く。


 「俺も来た奴らに誤解だって教える。そでも聞かない奴は、俺達でわからせる! 俺達がタックを組めば、怖いモノなしだ! な、キソナ!」


 調子いいなこいつ。まあ、ルミに騙されていたところもあるし仕方ないか。ヒカルを守ってくれるようだし。


 「だな。宜しく頼むぜ相棒!」


 と、調子を合わせておく。

 ケンタが強いのは確かだ。一人より二人で守った方がいいしな。


 「ありがとう。これからも宜しくね二人共」


 ヒカルは、満面の笑みでそう言った。


 『本当の事を伝えず宜しいのですか?』


 『教えた所で、どうしようも出来ないし。それにヒカルの名前でルミを追及して裏目に出ても嫌だしな。もう一人のヒカルがいた事をわかってもらう事が出来ても、ルミがヒカルだった証拠はないからな。下手に突かない方がいい』


 ピピの質問にそう返した。


 ルミも今回でわかっただろう。俺には全く歯が立たない事が。それにケンタがこっち側についたとなれば、少なくとも暫くは何もしてこないだろう。

 ずる賢い奴だから仕返しをしてくる事もあるだろうけど、きっとヒカルじゃなくて俺にだ。


 自分の悪事が暴かれ、レベルも下がった。怒り狂ってだろうけど、今は何も出来ない。その内に俺も、レベルだけじゃなく腕前も上げておくさ。


 『それにしても、先ほどのキソナ様のお姿は、凛々しくカッコよかったです! やはり捨てがたいです!』


 おいおい。何が捨てがたいんだ? 今回は特別だったんだ! こんな事しょっちゅう出来ないからな!

 俺はピピの声が聞こえなかったフリをした。


 「さて、街に戻ろうか」


 俺がそう言うと、二人は揃って頷いた。

 ここに来た時とは逆に、晴れやかな気分だった――。



 ×× × ××



 あれから数日が経った。


 ルミはあれから俺達には近づいてこない。

 だがレベルは着実に上げている。俺は監視の為メル友は解除していない。向こうも解除してこなかったので、今でもメル友のままだ。


 ヒカルは残りのクエストも受け、魔法を覚えた。

 引退を撤回して、俺達と今日もこの世界を楽しんでいる。


 今回思ったけど、力は使い方しだい。魔王だろうと勇者だろうと関係ない。

 俺はキソナとして、このゲームを堪能する!


 『よしピピ! 今日も楽しもう!』


 『はい。お供します!』


 まだゲームは始まったばかりだ!

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大きな声では言えないが俺が魔王だ! すみ 小桜 @sumitan

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