第23話
ヒカルが俺達の目の前に姿を現した……。
何故ここにいる? 俺をつけていた? ち、違うよな?
俺が驚いていると、振り向いたルミさんがヒカルに近づいた。
「来た来た……」
「ル、ルミさんが呼んだのか!?」
俺の問いに頷くと、ルミさんはヒカルを俺達の方へ引っ張って来る。
攻撃する様子もないし、なんの為に呼んだ? って、ヒカルも何も知らないとは言え、どうして街の外に出ちゃうかな……。
「ちょ……ルミ!」
ヒカルは、何がなんだかわからない様子で、青ざめた顔つきだ。ケンタの方もバツが悪そうだ。
「一体何を……」
「うわ!」
「きゃー!」
俺がルミさんに話しかけようとすると、二人が悲鳴を上げた!
そして二人は、俺達から遠ざかる。
なんだ? 今一瞬空気が変わったような感覚だあった……。
「っち。本当に勇者なのかよ? これも効かないってか!」
ルミさんが舌打ちをして、俺を睨み付けて言った。
それどういう意味だ?
「何をした!」
『キソナ様。これは幻覚の
ピピがルミさんの代わりに答えた。
そういえば、まやかしだったかルミさんは持っていたな。それか!
そこまでするのかよ!
「ヒカル! 動きを封じて!」
ルミさんは俺の質問には答えず、俺を指差し叫んだ。
「え? ちょマジ!?」
言われたヒカルはツル縛りを俺に仕掛けて来た!
それは俺にも有効らしく、膝のあたりまでツルがギュッと巻き付く!!
『キソナ様! 後ろです!』
「え?」
そう言われ振り向こうとするも足が動かない!
ザンッ!
「うわー!!」
『キソナ様!』
後ろから痛みと衝撃を受けた! 今度はケンタが攻撃をしてきた!
俺は刀を地面に突き立て、それをギュッと握る。
マジかよ! どうなってる?
まさかと思うけど……。
『なぁ、ピピ。まやかしって幻覚を見せたりするのか?』
『そうですね。今キソナ様は、二人からは敵に見ているようです。それを解除するのには、術師を死亡か気絶をさせるか、効果が切れるまで一〇分待つしかありません』
やっぱりそうなのか……。くそ!
HPが一気に四六%になった! 二〇〇近く受けた事になる。後ろからまともに食らったからクリティカルになったようだ! クリティカルは総攻撃の一.五倍だ!
「回復魔法!」
俺は高みの見物をしているルミさん……いや、もうルミでいいだろう! 彼女をチラッと見た。
ここまでするぐらいヒカルを恨んでいたのかよ……。
うん? いや待てよ。今の状況変じゃないか? 何故俺が攻撃を受けている? 確かに邪魔だとは言っていた。でも今目の間に、にっくきヒカルがいる。しかも自分で呼び出して来た。
俺を倒したい? ヒカルの味方をしているから? それにしたってこの状況はおかしいだろう。
俺を倒しても復讐にはならない。それともヒカルに味方する俺を倒させて、精神的ダメージを与えたい? そして引退させる?
あぁ、そうか。ヒカルを引退させたいのか! そこまで憎んでる?
何故そこまで! ケンタだってわかってくれたのに……。
うん? 何か違和感があるな。そうだ! ケンタは俺の情報を持っていた! 戦闘をする時に聞いた? いや、ルミがケンタに俺を倒す様に言った?
「回復魔法! 回復魔法!」
俺が考えを巡らせている間に、ケンタから二度攻撃を受けていた。向こうもまだ様子みだけど、こっちが反撃しないとわかれば、本格的に攻撃を仕掛けてくるかもしれない!
その前にこの状況を何とかしなくては!
「ルミ! ケンタに俺を倒せって言ったのか? それで俺の情報を教えた」
「そりゃそうでしょう。ヒカルの味方をしてるんですもの」
胸の前で腕を組みニッコリ微笑んで答えた。ルミは満足げだ。まるで今の状況を楽しんでいるみたいだ。
そう言えば、俺が誰から聞いたかと問いかけた時に、ルミが現れケンタは驚いていた。ルミは、俺とケンタが戦っている所も見ていたんだよな?
今の様に見物をしていた? ――自分の手は汚さずに……。って、まさか……。
「お前! まさかヒカルか! テスターの時のヒカルだろう!」
ルミは答えず、ニヤっとするだけだ!
さっきからの違和感はこれか!
くっそ! 騙された! ヒカルに近づいたのは復讐の為じゃない! テスターの時と同じ名前の奴を偶然見つけたからだ! 全責任を関係ないヒカルに押し付ける為に!
だからその邪魔をする俺が邪魔になった! ……いや違うな。ヒカルがテスターのヒカルじゃないと見破った俺が邪魔になっただ!
「回復魔法!」
それならもうルミを倒してかまないよな!
『キソナ様! 召喚をお使い下さい! このままだとルミの目の前で、女性の姿を晒す事になります!』
そんなのわかってる! でも、手の内をこいつに見せたくないな!
いや、晒すか……。
『ピピ、俺が変身を解いて魔王の姿になれば、ツル縛りは解除出来るか?』
『魔王になったキソナ様には効きません』
『そうか』
『とうとう君臨なさるのですね! どうせなら幻覚返しをしてはいかがでしょう?』
俺はピピの提案に頷いた。
「変身解除!」
俺は自ら正体を明かした!
ルミは驚いた顔を俺に向けていた――。
「幻覚!」
「な、なんだ? 体が……。お前誰だ! キソナなのか?」
幻覚は効いているようだ。ルミは体を動かせないでいる!
「何を言っているんだか。俺に決まっているだろう? 幻覚返しをしてやったんだ! どうだ。受ける気分は!」
俺はルミを睨み付け、怒鳴った!
それでもルミは、ニヤッとするだけだ!
「お前がテスターの時のヒカルだよな? 答えろ!」
「そうだ。でもそれ、どう証明するんだ? 目の前にヒカルがいると言うのに!」
そう余裕な顔で返して来た。
本当にムカつく! 騙していた事も! 騙されていた自分の事も!
「まあヒカルがテスターのヒカルじゃないという事は、証明するさ! でだ、どうやってヒカルと名乗れた? 性別が違っても同じ名前は使えなかった!」
「さあな?」
答える気はないみたいだな。まあ、正直に言うはずないか……。
『ピピ。火の玉の二段階目の威力っていくらだ?』
『はい。五〇になります』
『そうか。ありがとう』
「大人しく答える事をお薦めする!」
俺はそうルミに言って手を向けた。
「火の玉!」
「ぐわぁ!!」
外れない位置から撃ったので勿論ヒットする!
やはり魔法でも痛みはあるようだ!
「ルミに回復魔法」
「な、何のつもりだ!」
俺はルミの裏のステータスを確認して攻撃した。ルミは一一レベルになってHPが一九〇あった。俺の火の玉は、二段階目の三倍。つまり一五〇。死亡しない。
回復魔法をかければ全快する。吐くまで生き地獄を味わわせてやる!
うん? 今の俺って魔王っぽい?
俺もニヤッとして見せる。
「火の玉」
「っぐ……。貴様……」
その見た目で、その台詞はやめてほしい。そう言えば主婦だと思っていたけど、ただのおっさんだったのか!
俺は何故かため息が出た。
「……ルミに回復魔法」
ルミは光に包まれる。
彼女いや、彼は俺を睨み付けた。
「話す気になったか?」
「そんなに知りたいのなら教えてやるよ! 簡単なことさ。俺はヒカルじゃなくて、ヒカノレって名前だったんだ! 誰一人気づかなかったけどな!」
俺は目が点になった! なんだそれ! 『ル』じゃなくて半角カタカナの『ノレ』だったのかよ! 気付ける訳がない! 半角カタカナが使えると知らないのだから!
そんな簡単な事だったなんて!
「火の玉!」
「え! ぐわー! 話しただろう!!」
「だな。でも俺は別に攻撃しないとは言ってない」
「何だと!!」
俺を睨み付けるが、別にその可愛い顔で睨まれても怖くもなんともない。
これからだよ、ルミ!!
俺はルミに、ニッコリ微笑んだ。
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