第22話

 落ち着け俺。今から考えればいい。きっと向こうだって俺の攻撃を受ければ、かなりのダメージを受けるんだ!


 今のでHPが八〇%になった!


 「回復魔法」


 俺は小声で唱えた。


 相手は俺の様に回復魔法持ってないし、回復しつつ攻撃してダメを入れるしかないな。


 「回復か。魔法使われるとやっかいだな」


 一瞬、俺が光につつまれたのを見て気づいたのかそう言うと、何故か武器をしまった。


 何を考えている? 体術に徹するつもりなのか?

 ケンタは、ニヤッとすると俺に突進してきた。

 そうか! 押さえ込みをするつもりか!


 俺は、ケンタを近づけさせない為に刀を振るうもサッとどけられる。

 俺の隙をついて、蹴りを入れて来る。それを何とか交わす。修行の成果は出ているようだ。


 「ふーん。情報より出来るじゃん」


 情報? やっぱり俺の情報を持っているのか!


 「誰から聞いた? ヒカルか?」


 「さあな」


 ヒカルからなら別に隔す事ないよな? じゃ一体誰からだ! 俺が戦闘が下手って言うのを知っているのは、一緒にパーティを組んだ、ルミさん、ガイさん、それにモモさんの三人だけだ!


 「聞きたい?」


 そう言いながら近づき懐に入って来た! やばいと思い後ろに下がろうとした途端、足払いをされ仰向けにすっ転んだ! 気が付けば、右手首を押さえつけられ、口も塞がれていた!


 げ! しまった! くっそ!

 なんだこれ! びくともしない!


 右手を動かせないどころか、左手で相手の体を押してもびくともしない。これが押さえ込みのスキルの効果なのか!

 ケンタは、俺を押さえ込みながら馬乗りになっている。


 『キソナ様! 口を塞がれていては、魔法は使えません! 何か対策を!』


 対策って! さっきから自由な左手でケンタを叩くも攻撃を与えてる様子はない。素手攻撃にはなってないようだ。後はもう一瞬の隙を見つけて、この押さえ込みから逃れるしかない!


 「いい事を教えてやろうか? 首も急所でさ。しかもここを絞められると声を出せないんだよ!」


 そう言って、口を押えていた右手で俺の首をギュッと掴んだ!


 「!」


 首にピリッという痛みが走り、HPが一〇%減った!

 げ! これ、やばいだろう!


 ――回復魔法!


 そう言おうとしたが、ケンタの言う通り言葉は発せられなく、魔法は唱えられず回復できない!

 どうしたら……。俺は気が焦るばかりだ!

 ケンタは、ニタニタしながら首を絞め続けている。


 『キソナ様! 何とか回避して下さい! 一二秒に一回ダメが入ります! このままでは危ういです! 死ぬ前に変身が解けます!』


 そうだった! 死ぬ依然の問題だ! やばい! どんどんHPが減って行く! 俺としては、死ぬことよりそっちの方がやばい! ってもうHPが五三%になった!


 「へえ。一分持つんだな! 情報通りHPも桁違いってか」


 何? HPの情報を知っているのは、ガイさんかルミさんだ。どっちかがケンタとメル友なのか? って、そこまでどうして俺の情報を? いや今はそんなことより、この状況をどうにかしないと……そうだ! あまりこういう手は使いたくないけど!


 ザクッ!


 「うわー!!」


 俺は、ナイフをケンタの右肩に突き刺した!

 そのナイフを抜いてもう一度刺そうとするが、ケンタは俺の上から降り逃げた!


 何とかなった!

 俺はアイテムボックスの中に入れてあったナイフを左手に装備して攻撃をした。刀を二本持っていたし、ナイフなどとっくに手元にないと思っていたのだろう。

 ケンタは、俺を睨み付けている。


 「回復魔法!」


 HPは七三%まで回復した。一先ず安心だ。


 焦ったが何とかなった! 彼にとっては、かなりの痛手だろう。ナイフの攻撃力を入れて一一五あるのだから!


 「ははは。聞いた通り化け物だな!」


 「いやいや。攻撃力はそっちの方が上だろう?」


 俺は起き上がり、そう返した。

 ナイフがなかったらかなりやばかった!


 「だな。まあ、いいさ。もう攻撃を受けなければいいだけだからな!」


 ケンタは、刀を装備して切りかかって来た! それを俺は左手のナイフで受け止めた!

 自然と出来ていた。そして、これまた自然に右手を横に振っていた! ザッとケンタの腹を切りさいた!

 俺も自分で驚いたが、ケンタは凄く驚いていた!


 「なんだよ、それ! 情報と違うじゃないか! 戦闘はめちゃくちゃ下手だって!」


 叫びながらケンタは後ろに下がる。彼のHPは半分切っているはずだ!


 「くっそ!」


 「もうやめないか?」


 俺はため息をしつつ、そう提案した。


 「怖気付いたのかよ」


 「俺は、殺し合いがしたい訳じゃない! 約束をしてほしいだけだ! わかっただろう? その情報は古いから! それにもういいだろう。あんたは何がしたいんだよ。ヒカルに復讐か? それ、もう済んでるよな? 本当は人違いだけど」


 「何なんだよ、お前。どうしてヒカルをそこまで信じられるんだ!」


 「ヒカルの友達だからだ! 勿論、テスターのヒカルじゃなくて、今この世界にいるヒカルのな! よく考えてみれよ。一度殺されてるのにのこのこと現れて、反撃もなしに殺されたんだろう? あのヒカルだったらそこでお前は逆に殺されているだろう!」


 「……そうだな。のこのこ殺されにこないな」


 やっとヒカル違いだと、わかってくれたようだ。後は情報提供者を聞きださなくては。そいつもヒカルに恨みを持っているに違いない。

 その者にもヒカル違いだと納得させて、噂を流すのをやめさせなくては!


 「なあ、誰から俺の事を聞いていたんだ? その人の誤解も解きたいんだ。だから教えてくれないか?」


 「あ……」


 俺が言うと、ケンタは俺を見るも驚いた顔つきになる。いや、俺の後ろだ!

 俺は後ろを振り返った。そこには見知った人物が立っていた――。


 「私からだよ」


 ルミさんだ!

 彼女はニッコリ微笑み、ゆっくりと俺に近づいて来る。


 「ルミさん……。ヒカルは、テスターのヒカルじゃないんだ。どうして名前が重複しているかわからないけど別人だから!」


 「別人ねぇ……。そうかしら? 自分じゃケンタを倒せないからあなたを寄こしたんじゃない? あなた強いものね」


 「俺は別に争う為に来たんじゃない」


 「あらでも、争ってたじゃない」


 両手を後ろに回し、俺の顔を覗き込む様に言った。ポーズは可愛いが目が笑っていない。


 「それはそういう条件を出して来たから……。それにヒカルだって上手くやれば、ケンタに勝てる。ヒカルが相手の動きを奪うスキルを持っているのを知っているだろう? 相手の動きを封じ、魔法で攻撃すれば出来る。ヒカルは俺より魔法のコントロールはいい!」


 「あのさ、ルミ。俺もそう思う。この人が言った通り、森に呼びだした時にそれ出来たと思う。仲良くは無理なのかもしれないけど、もうやめないか?」


 俺の熱弁でケンタはわかってくれたみたいだ。後はルミさんだけど……。


 「さすがヒカルが寄こして来ただけあるわね。口がうまい事」


 「ルミさん……」


 ここまで言ってもダメか……。どうやったらわかってくれるんだ。


 「ルミ。俺はやめるよ。確かに名前は一緒だけど、中身は全然違うと思うんだ。嫌ならさ。接点持たなければ……」


 カキン!!


 突然ルミさんが斧を装備して襲い掛かって来た! 俺にではなくケンタに!

 俺は咄嗟にそれに気付き、ケンタの前に出て刀で斧を受け止めた!


 「な、なんで……」


 驚いてケンタは、ルミさんに問う。


 「なんで? それはこっちの台詞よ! 寝返るなんてね!」


 「別に寝返ってないだろう!?」


 「じゃ、自分は復讐が出来たし満足だからって事?」


 「………」


 ルミさんの言葉にケンタは何も返せない。彼女から見たらそう捉える事も出来るからだと思うけど、何かルミさんイメージが全然違う。


 何故、俺じゃなくケンタを狙う? どう考えても殺す気だった!

 今彼はHP半分切っている。魔法の効果も切れて防御力も普通に戻っていただろう。俺が間に入らなかったら死亡していたかもしれない!


 「ケンタに回復魔法」


 俺は小さな声で唱えた。

 一応回復しておこう。そうすれば、一発では死なない。


 「本当にお前、邪魔!」


 ルミさんが俺をギロリと睨む。

 俺がケンタを回復したのに気付いたんだろう。


 「邪魔って……」


 ブンと今度は俺に向けて斧を振り上げて来た!

 つい咄嗟に今度は左手のナイフで受け止めるも、ナイフは叩き落とされ俺はダメを食らう!

 ビリッと痛みが走り怯んでいる内に、今度は右から振った斧で吹き飛ばされた!


 「うわー!」


 『キソナ様!!』


 ドサッ!


 「いった……」


 「おい、大丈夫かよ」


 驚いてケンタが俺の側に来て、俺を起こす。


 「ルミ待てって! 少し落ち着け!」


 ケンタが叫ぶ。

 ルミさんには笑顔はない。


 HPを確認すると、二撃食らったが一二%しか減っていない。九〇程のダメージだ。


 『キソナ様……』


 『大丈夫だ。それよりルミさんを何とか説得しないと……』


 『かなり難しそうですが……』


 『あぁ。そうだな』


 俺はチラッとピピを見て会話した。


 「大丈夫だ。ケンタさん。ありがとう」


 俺はそう言って立ち上がる。


 「ルミさん、ヒカルは二度殺されてやめると言っている。もしテスターの時のヒカルならそれはないだろう? こうなる事態はわかっているし、あいつならやめるぐらいなら仕返しにくるだろう? 重複の原因はちゃんと究明するからさ。噂流すのはやめてくれないか」


 「え……やめるって言ってるのか?」


 驚いて返して来たのは、俺の後ろに立つケンタだけだった。

 だけどルミさんは、斧をしまってくれた。ホッと一安心だ。


 「まあ噂を流すのは勘弁してあげるわ」


 「ルミ……」


 ルミさんが言った台詞と被るように、彼女を呼ぶ声がかかった。その人物はルミさんの後ろに近づいて来た。


 「「ヒカル!!」」


 俺とケンタは声を揃えて名を呼んだ!

 何故ここに!?


 ルミさんがゆっくりと彼女に振り返った――。

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