第21話

 俺は、ケンタを探し彷徨っていた。白い冒険者の服で深緑の長い髪を束ねた鬼人の男。白というのは珍しい。だからまず、それで探している。


 『キソナ様。ケンタという者と対戦するおつもりですか?』


 『いや、そういう訳じゃない。俺は誤解を解きたいだけだ』


 俺はそうピピに返した。


 いた! リリンの森の出入り口付近に立っている。特徴もヒカルが言っていた人物と一緒だ。後は名前を確認するのみ!

 ――裏ステータス!



 名前:ケンタ

 種族:鬼人

 性別:男性

 年齢:二九歳

 職業:冒険者

 レベル:一一

 HP:一九〇

 MP:三〇

 攻撃:六〇+六〇

 防御:三〇

 補正:攻撃力二倍 魔法効果二倍

 所得スキル:押さえ込み 神の手

 取得魔法:白魔法

 貢献:なし

 二つ名:なし

 経験値:五一、二一〇

 その他:素早さUP



 『なあ、ピピは、俺以外のステータスって見れるの?』


 『私が拝見できるのは、キソナ様だけです』


 やっぱりそうなのか。


 『じゃさ、押さえ込みっていうスキルってどんなの?』


 まあ、名前どうりだと思うけど。


 『押さえ込みは、その名の通り押さえ込む事が出来るスキルです。押えこまれれば、身動きが取れなくなります。これは、キソナ様にも有効なスキルですのでお気を付け下さい』


 俺も押さえ込まれるって事か。やばいなそれ。


 『押さえ込むだけでスキルが発動するバシップスキルに近い物です。空腹度を消費し、半分以下ですと使用できなくなります』


 それって、掴まれたらアウトじゃん! 格闘系のスキルだな。


 『じゃ、神の手は?』


 『それもお持ちなのですか? 攻撃力二倍、魔法効果二倍にするスキルです』


 補正の正体はこれだな。


 『白魔法ってどんなのだ?』


 『白は、最初に覚えるのは攻撃力を一.五倍にする魔法です。次は防御、最後は魔法を一.五倍にするのを覚えます。神の手がありますので、二倍になっておりますね』


 『え? じゃ、白魔法使われたら攻撃力四倍?!』


 『いえ、三倍です。元の数に掛けるので三倍になります。また、白魔法を初めから取得していた場合は、三つとも魔法が使えます』


 やべぇ相手じゃないか。全然余裕じゃないなこれ。MPが三〇しかないから、魔法は最大六回しか使えないかもしれないが、一回の効果時間にもよるけど、一、二回使えれば十分なのかもしれない。


 ヒカルだったら武器装備で攻撃を受ければ、一発で死亡だっただろうな。

 これは、話し合いでケリをつけないといけないな。

 俺は意を決してケンタに話しかけた。


 「すみません。ケンタさんですか?」


 「あんた、誰?」


 ケンタは、俺に振り返り言った。


 「俺、キソナって言います。ヒカルの知り合いで……。少しお話いいですか?」


 それを聞くと腕を組み、俺を睨み付けて来た。


 「あいつは、テスターの時に酷い事していた奴だぜ。それにPvPは禁止されてないよな?」


 俺は頷く。


 「ヒカルの事は知っています。俺もテスターの時に被害に遭っていますので。ですが、あなたが殺したヒカルとテスターのヒカルは別人です。あなたも違和感を感じていたはずです!」


 「何それ? 証拠は?」


 やっぱりそう来るよな。お願いだからこれで納得してくれよ!


 「性別が違います! 性別が違うと同じ名前は使えないんです。どうして名前が重複しているかはわかりませんが、恨まれる事をしておいて同じ名前で作らないでしょう? 別に謝れとはいいません。噂を流すのを止めてほしいんです」


 ケンタは、ムッとした顔で近づいて来る。


 「性別が違うと同じ名前が使えない? どうしてそんな事がわかるんだよ! それ言うなら、名前を変えずに性別を変えたんだろう? 被害に遭ったのにあいつの味方するのかよ!」


 やっぱり信じてもらえないか。俺がそうだと言っても、それも証拠がないから証明にならないしな……。仕方がない。噂だけでも止めてもらえるように、もう一度お願いするしかない!


 「もし彼女が復讐相手だとしてももう十分だろう? テスターの時は二週間しかなく上がっても三〇レベル。こっちに何も持ち込めない! 二度も倒して経験値奪ったんだからこれ以上いいだろう? だから噂をなが……」


 「なんだよ。結局認めてるじゃん」


 「違う! あなたが認められないならって話だ!」


 ケンタは、少し黙り込んだ。そして、口を開く。


 「いいぜ。噂広めるのやめてやっても。ただし……」


 ケンタはニヤッとする。


 「俺と勝負しろ! そうしたら勝っても負けてもやめてやるよ。ヒカルを信じているなら受けるよな?」


 こいつ、挑発的だな。絶対負けないと思っているんだろうけど……。これしか方法ないのか? 仕方がない。乗ってやるよ! 


 「あぁ、わかった。受けて立つよ!」


 「じゃ、外出ようぜ」


 親指を立て、クイッとリリンの森の方を指す。俺は頷いた。絶対負けねぇ!

 押さえ込みにさえ気を付ければ、きっと何とかなる!! ――そう思っていたけど少し考えが甘かったかもしれない。



 ×× × ××



 俺達は、街を出て少しの所で対戦する事にする。だが街からは見えない場所だ。


 「約束は守れよ」


 「あぁ、守ってやるよ!」


 ケンタは、右手に刀を装備した。

 俺も装備する。両手にだ!


 「二刀流? 使いこなせるのかよ!」


 使いこなせるかは俺にもわかんない! だって二刀流で戦うのは初めてだからな!


 俺もケンタも走り、俺は右手の刀を振り下ろす。二人の刀はカキンといって、ぶつかり合う!

 今だ!

 俺は、左手を振り下ろす! だがケンタの蹴りで、俺は後ろに吹き飛ばされた!


 「ぐわー!!」


 俺は腹を抑えつつ、驚愕していた! 痛かったんだけど!! え? 何で?


 『ピピ! 蹴られると痛みってあるのか? それともスキルなのか?』


 痛みが伴うスキルは聞いた事がない。修行で蹴られたりしたけど痛みなんてなかった! 痛みがあるのとないのとでは、恐怖心が違うんだが!!


 『PVPには、静電気程の痛みが伴う事になっております』


 はあ? 聞いてないそんなの……。賊との戦闘は、PVPって事だったけどイベントだから痛みはなかったんだ……。いやあれに痛みがあったら、心折れてたな。

 ってこいつ、戦い慣れしているよな。


 フッと見れば、HPは九〇%だ。七〇ほど受けている。俺の防御は本来六〇で魔王補正があって一一〇だ。

 という事は――ケンタは、俺が一〇〇以上HPが減ったと思っているはずだ!

 俺は、スッと立ち上がる。


 「ふ~ん。余裕そうだな」


 何? どうしてそう思う? もしかしてこいつ、俺の情報仕入れていたのか? ヒカルが何か話していたんだろうか?


 『キソナ様きます!』


 「随分余裕だな! 考え事かよ!」


 ケンタは走り込んで来てもう目の前だ!

 右手の刀で攻撃するも避けられ、ケンタの蹴りが繰り出される! それを左手に食らい、刀が吹き飛んだ!


 「な!」


 腕がピリピリと痛い。


 「別にスキルがなくたって、リアリティーを持たせてるからこんな事も出来るんだぜ。まあ、あんたには無理だろうけどな!」


 そう言って、ケンタは後ろに下がりは間合いを取った。


 くそ! スキル以前に戦闘技術に差がある! これヤバくないか? 今更だけど死んだら経験値が相手に入らなくて、変に思われるよな……。


 自分が死亡するかもしれないという考えが浮かぶと、急に焦りが出て来る。

 ヒカルが云々の話だけではなくなってきた!

 もう少し作戦を考えるべきだったと、今更思っても遅かった――。

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