第六章 ヒカルの正体
第20話
俺がINすると辺りは、いつもより少し賑やかになっていた。名前を表示してるプレーヤーがちらほら。テスターをしてないプレイヤーがINし始めたようだ。
さて、今日は何しようかな。修行かそれとも、双子の丘の向こう側に行ってみるとか……。
食堂で食事を終え、そんな事を考えながら噴水の広場に向かっていた。
ポン。
from ヒカル
《今、いいですか?》
おっと、ヒカルからだ。またクエストか? まあ、やる事決まってないしいいか。
《大丈夫だ。クエストか?》
ポン。
俺は返信を返した。
ポン。
from ヒカル
《いえ、お話です。今どこですか?》
話ってなんだ? 相談事? 俺にゲームの事相談されてもなぁ。まあ、聞くだけ聞くか。
《噴水のとこ》
ポン。
俺は軽い気持ちで返答したが、暫くして来たヒカルの表情は浮かない顔だ。
結構深刻みたいだな。一体何があったんだ?
「どうした? 何かあったのか?」
俺がそう声を掛けると、ヒカルが珍しく泣きそうな顔で作り笑顔をして頷いた。
「お別れを言いに……。キソナには、お世話になったから……」
「ちょっと待て! それって引退するって事じゃないだろうな」
「うん。辞める」
俺は耳を疑った。賢者になると言って少し無理をして、クエストを受けたりしていたのに一体何があったんだ? そこまでやる気をなくす事って!
「理由は? 始まってまだ三日目だぞ?」
驚いて言うと、ヒカルは俯く。
「同じ人に二度、PvPを受けた。それもよくわかんない理由で。それで、噂流すって言われて……。なんか、やる気なくしたというより、怖くなって……」
「噂? 待て待て。俺にわかるように話せって! 力になるから!」
顔を上げたヒカルの目は潤んでいた。相当まいっているみたいだな。
まあ、テスターの仕返しをされたんだとは思うけど。自業自得だと思うが、まずは聞こう。数日だが一緒に居て、テスターの時とは明らかに違う様に感じた。もしかしたら心を入れ替えていたのかもしれない。
それに万が一にも人違いって事もあるかもしれない……。同じ名前は作成出来ない。だからこれはあり得ないとは思うけど……。
俺はヒカルを噴水の縁に座らせると、自分も隣に座った。
「で、攻撃された理由は何だって言っていたんだ?」
ヒカルは、ぼぞぼそと経緯を話し始める。
「一緒にパーティー組んでオオカミンを狩っていて、私一〇レベルになったの。そうしたら急にパーティー解除して、前世の恨みとか言われて突然襲われた……。レベル下がるし意味わかんないし。で、連絡入れたら説明するから近くの森に来いって言われて行ったら、今度は忘れたのかよってまた攻撃受けて死んだ……」
まあ一回目は不意打ちだったとして、そんな目にあって、何故街で話さないかな……。うん? 待てよ。連絡を入れてって……。
「そいつ、メル友だったのか?」
俺の質問に小さく頷いた。
だったらやっぱりテスターの時にヒカルに嵌められた奴だな。メル友になってチャンスを伺っていたってところだろうな。でもなぁ、テスターだし、二度も殺す事ないだろうに。そう言えば、噂流すって言われてるんだっけ? よほど恨んでるんだな。
「噂って、どんな内容なんだ?」
「よくわかんないけど、卑怯者だって……」
ボソッとヒカルは、呟いて答えた。
これで確実だな。テスターの復讐だ。間違いない。
「多分テスターの時に何かあったんじゃないかな? そいつに限らす何かした覚えないか?」
俺の質問にヒカルは首を横に振った。
「あのさ。例えば穴に落とすとか……」
「穴?」
不思議そうな顔つきでヒカルは俺を見た。
なんだろうか? テスターの時のヒカルとの印象とかけ離れている。あり得ないけどテスターのヒカルとは別人なのか?
話し方も違うし人との接し方も違う。ワザと変えてるいるのかと思ったけど……。
――そうだ。よく考えれば、こういう目に遭うのはわかりきっている。だったら普通、名前を変える。俺だったらそうする! 同じ名前を選べるだけで、変えられないわけじゃないんだから。
態度を変えるぐらいなら名前ごと変えるよな!
ってちょっと待てよ! テスターの時のヒカルは、男だった! そうだ。忘れていた! 性別変えると同じ名前は使えない! それは俺が体験済みだ! 何でもっと早く気づかなかった!
目の前にいるヒカルは、テスターのヒカルじゃない!!
「いいか。落ち着いて聞いてくれよ。実はテスターでヒカルって奴が、モンスターがいる穴にプレイヤーを誘い出して落とし、レアモンスターになった敵を倒して経験値とアイテムを手に入れるという事をしていたんだ。たぶんそいつとお前を間違えているんだ」
ヒカルは、驚いた顔をして俺を見ている。
目は潤み、今にも泣きそうだ!
「そんなはずないよ! 私、テスターもヒカルだった! 同じ名前って重複出来ないよね? それに私、そんな事していない! もしかして、キソナも復讐する為にメル友になったの?」
ヒカルは、信じられないという顔つきで、とうとう涙が零れ落ちた!
俺は慌てて弁解する。
「違う! 落ち着けって! 確かに初めは疑っていたさ。メル友になったのも半分は監視の意味もあった。でもここ数日一緒にクエストとかして、テスターで出会ったヒカルとは別人だとわかった。それにテスターの時のヒカルは、男だった! どうして名前が重複していたのかは謎だけど」
ヒカルは、俯いたまま何も返さない。
あぁ、しまった! 引退するって言っていたんだっけ。こんな事聞いたら引退思いとどまらせるどころか、引退を煽っているじゃないか!?
「お、俺がそいつと話をしてくるから! お前がテスターのヒカルじゃないって! で、噂を流さないようにさせるから。な! だから引退するなんて言うな!」
「どうやって? テスターのヒカルと違うってどうやって納得させるの?」
俯いたままヒカルは聞く。
俺もそれはわからない。性別の件を話して納得してくれればいいけど。兎に角話すしかない。せめて、噂だけでも止めないと、テスターでひどい目にあった奴らが復讐しにくるだろう。
「話してみる。性別も違うし、お前と狩りしたりしていたんだったら少しは違和感抱いているはずだ! そいつの名前と特徴を教えて!」
顔を上げヒカルは、ジッと俺の顔を見つめる。その顔は不安げだ。
「俺が信用できないか?」
ヒカルは、フルフルと首を横に振る。そうすると、涙がキラキラと飛び散った。
「私の味方をして、キソナが攻撃されるかもしれないよ……」
「この俺が倒されると思うか?」
ヒカルは驚いた顔をした後、ほほ笑んだ。
「倒されないね……。本当にいいの? 私と一緒に変な噂流されるかもよ」
「別に構わないって。攻撃してくる奴は、皆、返り討ちにしてやる」
実際に相当レベル差がなきゃ、そうなるだろうし。でもまあ、目立つのは避けたいよな。しかし噂は止めないとな。
「……名前は、ケンタ。鬼人だよ。本当に大丈夫?」
「大丈夫だ。俺に任せろって!」
そう言って俺は、不安げに見るヒカルに笑顔を返して立ち上がった。
「ありがとう。でも無理しないでね」
「あぁ。任せておけって!」
ヒカルは、涙を拭いた。
兎に角、ケンタって言う奴を説得させないとな。テスターのヒカルと違うのは確実なんだから!
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