第19話
俺達は、ワープ先に設定した白いタイルに戻って来た。
俺とガイさんは、一レベル上がって一一レベルになった。
「あぁ。死ぬかと思った!」
「いやぁ、今回はキソナさんと一緒に行って正解だったぜ!」
だろう? もっと褒めて!
「まあ、敵はあれだけど、色々塔の事を知れて俺もよかったよ」
俺がそう言ってニヤニヤしていると、ピピも声を掛けて来た。
『キソナ様。お疲れ様でした』
『大変な目に遭って赤魔法手に入れたけど、凄い役に立った!』
『本当によかったです』
「うんじゃ鑑定して帰るか!」
「だね」
「鑑定ってここで出来るのか?」
「まあな。鑑定師という職業もあるようだけど、今はまだいないしな。あのごちゃっとした人達の中にいる。テスターの時はそうだった」
ガイさんは俺の質問に答え、あのエルフの女性がいる場所を指差した。ルミさんも、うんうんと頷いている。
その場所には、他の扉の番人と塔に関連した人たちがいるのだろう。
「で、どの人?」
「あのローブの人。あの人色んな鑑定してくれるんだよね~」
まあ、鑑定師なんだからそうなんだろうけど。何だかか楽しそうに言って、ルミさんは黒いローブの鑑定師に近づいて行く。それに続きガイさんも歩き出し、俺もその後をついて行く。
塔から少し離れた木陰にいる鑑定師の男にルミさんは、話しかける。
「あのペンダント鑑定してほしんですけど……」
「……一回、二〇〇Tだ」
一回二〇〇T! 高! 俺、今鑑定したらスッカラカンだ! それに鑑定する物が二つもあるし!
ルミさんは、流石にクエストこなしているだけあってお金持ちだな。
彼女は、ためらいもなくペンダントとお金をテーブルの上に置いた。
「確かに。では……」
鑑定師はお金をしまうと、ペンダントに手をかざす。手には黒い手袋をしているようだ。全身真っ黒だな。
「これは普通のペンダントです」
一分ほど待つとそう答えが返ってきた。俺、この間、いらないと思うんだけどな。
「残念」
ルミさんは、鑑定師からペンダントを返してもらうとしまった。
「うんじゃ、俺も頼む」
ガイさんも鑑定してもらうようで、お金も一緒にテーブルに置いた。
「では……」
鑑定師は先ほどと同じく、ペンダントに手をかざす。
「これも普通のペンダントです」
「やっぱりそうか。サンキュ」
ガイさんは、ペンダントを受け取ると、俺に振り向いた。
「お前はしないのか?」
いや二人が普通だったんだから、俺のもそうだろう? お金ないし……。
「俺はいい。お金あまりないし、どうせ普通だろうからお金に余裕がある時にする」
「そうか」
邪魔になるわけでもないし、お金に余裕が出来てからでもいいさ。
「じゃさ、あれやってもらいなよ。勇者鑑定!」
「え? 勇者鑑定?!」
ルミさんの言葉に俺は驚いて復唱した。そんなのがあったのか! それやったらヒカルに勇者じゃないと、今すぐにバレるじゃないか! って、こういうのあるならピピが立てた作戦が意味ないじゃないか?!
『ピピ! 聞いてないぞ! 勇者鑑定があるなんて!』
『私も知りませんでした!』
知らないって! そんな事があるのか? いやこれ、この世界では重要な役割ないか?
「鑑定と言ってもやりたい職業を聞くと、どうしたらいいか簡単に教えてくれるんだが、勇者の場合は全員がなれるワケじゃないから適正はありませんって言われるんだ。で、勇者鑑定って呼ばれるようになったワケさ」
驚いた顔をしている俺に、ガイさんは説明をしてくれた。
あ、そういう訳か。本来は鑑定じゃないけど、鑑定のようなものだからか。
『なるほど。面白い言い回しをするものですね』
ピピも感心している。
「やりなよ! テスターの時は流行ったんだよ。みんなが人間だったからね!」
あ、そうか。人間しか勇者になれないんだっけ……。
二人は、ジッと俺を見つめる。聞いてほしいらしい。
答えは決まっているんだけどな。俺、魔王だし。いやその前に、人間じゃなくて魔族だし。でもまあ、いっか。お遊びだし。
「俺、勇者になりたいんだけど、どうしたらいいですか?」
「一〇T頂く」
「は? 金いるの?」
俺は二人を見るも二人も驚いていた。テスターの時はかからなかったようだ。仕方ない払うか。
俺は、一〇T支払った。
鑑定師は、俺に手をかざした。
「………」
一分経ったが何も言わない。ちょっと長くないか? 何となく嫌な予感がする。
「まずは、四つの証を探すといいだろう」
「……え? はぁ?!」
おいおい。それってなれるって事だろう? あり得ないだろう。俺、魔王だぞ!
「すげぇ!」
「勇者様だ!」
「ち、違うから!」
横で喜ぶ二人に、速攻否定する。
『ピピ、どうなってるんだ?』
『私にもよくわかりませんが、キソナ様の魔王の力を勇者の力と読んだのかもしれません。強い力ですので』
『そんな……。面倒な事になった! どうしたらいいんだ!』
ため息しかでないな、これ。勇者と対等の力って知れれば、必然的に魔王じゃないか! やばいだろう!
「補正が凄いと思ったら!」
「裏に勇者ってあるんだよね?」
「ないから!」
否定しても二人は俺を勇者だと決めつけている。確証めいた物があるので仕方はないが。
『ピピ、このままでも大丈夫なのか?』
『そうですね。少し何か対策を立てた方が宜しいかもしれません。王の耳に届けば、露呈する可能性があります。まだこの世には勇者は召喚されていないのですから。まずは、二人に口止めを!』
『なんて口止めするんだよ!』
ピピは少し考え込んだ。あぁ、まさかこんな事になるなんて!
『こうしましょう! ランダムで種族を選んだが、勇者の職業はもらっていませんと。もしかしたら人間になった者全員にその資格を与えたのかもと。不確定にしておくのです』
『そんなんで誤魔化せるか?』
『大丈夫だと思われます! これは、グッドラックランダムの特権という事にしておけばいいのです。今のところ確認のしようがありませんので!』
『わかったそうしてみる……』
と言ってもなぁ。他の人間が勇者鑑定したらバレバレだよなぁ……。でも、一緒に二人がこなければ大丈夫か。
「おーい。戻ってこーい」
「あ、わりぃ……」
二人は俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、あのさ。本当に勇者は引き当ててないんだ」
「やっぱり~! 種族ランダムにしたんだ!」
俺はルミさんの言葉に頷く。そして、ワザと小さな声で話す。
「ここだけの話しな! 絶対内緒にしてくれるなら話す」
「俺は口は堅いぞ!」
「私も! 秘密大好き!」
秘密大好きって……。まあ、いいか。
「じゃ、こっち」
俺は誰もいない場所へ二人と連れて行く。そして、ワザとらしく辺りを見渡した。
「あのな。グッドラックランダムの特権として、勇者にもれた人間にもチャンスを与えますって言われたんだ。でも、それだけだったから意味わかんないでいたんだよ。で、さっき考えてたんだ」
さっきトリップしていたのを思い出していた事にした。二人共凄く驚き、顔を見合わせる。
「マジか! じゃ、お前勇者になれるぜ!」
「すっご~い! それならランダムしてみるんだった!」
こいつら簡単に信じるんだな。他の人間で確かめようという発想はないのか? いや、試されたら困るんだけどさ。
「でも、俺はならいぞ!」
「なんでだ? 勇者だぜ!」
「いやいや。思い出せよ。この世界の設定! 俺が勇者になったらおかしいだろ?」
二人は暫く黙り込む。
「あぁ、俺達勇者を召喚しようとして失敗した召喚されし者か……」
「そうそう」
「え~。でもなれるならなればいいじゃん! もったいない」
ルミさんが言うと、ガイさんも頷く。
「面倒くさそうだし。それに俺、錬金術師になりたいんだよな」
「あぁ、それで魔法を覚えたのか」
ガイさんの言葉に俺は頷く。
「でも、たぶんその資格持ってるのキソナさんだけだと思うよ」
「え!」
俺はドキッとして、ルミさんを見据えた。
なんでそう思うんだ? 嘘がバレたか?
「そうだな。少なくともこの国ではそうかもな」
「え? どういう事?」
ガイさんまでそう言いだした。
「気づいてないのか? この国ではたぶん、人間はキソナさんだけだぜ」
「私もそう思う。見かけた事ないよ」
「へ?」
そう言われれば、人間にお目にかかった事ないな。なんでだ?
『人間って俺だけなのか?』
『それはわかりませんが、私も二人と同じ意見です。予測ですが、選んで人間になるメリットはございませんので、人間としてこの世界にいる者は、ランダムで選ばれた者でしょう。そして、ランダムを種族に使うものは、勇者になりたい者のみだと思われます』
いや俺、勇者希望じゃなかったんだけど使いましたが……。
『ランダムを使ったとしても、人間になる確率は九%。そうなると、今現在キソナ様しか見当たらないのは、当然の結果と言えます』
いや俺、人間の姿しているけど、人間じゃないから。魔族だから。って、じゃこの国には、人間がいない事にならないか?
まあ最初からなりたい職業あるなら、その職業に適した種族選ぶよな。勇者になる為にランダムにしたとしても人間になる確率も低く、しかも人間になっても勇者になる確率は限りなく低いし。
変な話、魔王になる確率と同じぐらいなのかもしれない。
そう言えば、普通のランダムでは、勇者の資格が与えられるだけだっけ? じゃ、あの鑑定師は俺がそれだと思ったって事か……。
「取りあえず、俺には荷が重いから無理!」
「荷が重いって、勇者になりたくてランダムにしたんだろう?」
ガイさんの言葉に俺は首を横に振った。
「実はさ、テスターの時、のほほんと過ごしていたから、種族の事何も知らないでいて、適当に種族にグッドラックランダムを使ってしまったんだ。そうしたら運悪く、人間になったみたいだ。人に聞くまで、人間に有利な職業がないと知らなくて、聞いて驚いたぐらいなんだ……」
流石にこれには、二人共呆れ顔だった。
「あり得ないな。何の為にテスターしたんだよ。変だと思ったんだ。塔にも行ってないって言っていたから。……勇者はやめとけ! キソナさんじゃ無理だわ」
ありがとう。そう言ってくれて! 普通はムッとするかもしれないが、今の俺には嬉しい言葉だ。
「あぁ、宝の持ち腐れ! でも、気が変わったら言ってね!」
「わかった。だから誰にも内緒な!」
俺がそうもう一度お願いすると、二人はわかったと頷いだ。
二人を信じるしかないが、俺が目立つ事しなければ大丈夫だろう……。人間ってだけで目立ちそうだけどな。
こうして俺達は、タード街に戻りパーティーを解散した。
そして、俺は今日はログアウトしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます