第18話

 中は思ったより狭いと思ったら、壁に穴が空いている。穴と言っても扉一枚分ほどだ。ここは部屋みたいになっていて、あそこが通路に出る出入り口なのかもしれない。

 壁はうっすらと緑っぽい。そして、何故か部屋の中は明るい。


 「もしかしてここって、迷路のようになっているとか?」


 俺は右手に刀を装備しながら聞いた。それに二人は頷く。


 「まず、この階で地図が入った宝箱を探す。毎回入るたびに迷路が変わるんだ。それさえあれば、上に行く場所はわかるからな」


 「まずはそれだよね。それ手に入れたら、上の階行っちゃっていいよね!」


 「だな」


 そうなのか。まずは地図探しか。

 なんかワクワクするな。


 「迷子になるなよ!」


 突然ガイさんは、俺に振り向き真顔でそう言った。ルミさんも頷いている。


 「あのなぁ。俺、子供じゃないんだけど……」


 「そうじゃなくて。俺達が困るあろうが! キソナさんはヤバくなればワープで逃げれるかもしれないが、俺達はそうはいかないからな!」


 「あ、そっか。了解! はぐれない様にする」


 二人は俺の返事に頷いた。

 敵がいるだけじゃなく、迷路になっているんだ。迷子になったら確かに大変だ。


「じゃ、行くぞ」


 ガイさんは走り出した。俺達はその後をついて行く。穴をくぐると、左右に道が分かれていた。それを右に進む。突き当たると左にしか道が無いので道なりに行くと行き止まりだった。


 「行き止まりか。戻るか」


 来た道を戻り、残りの左側の道に進むと十字路になっている。


 「じゃ、キソナさんは、ここに立っていてくれ。俺は真っすぐ、ルミちゃんは左をお願いする」


 「OK]


 「あ、いや、ちょっと……。えー」


 俺が説明を求めようとするも二人は走り出した。

 ここは明るいので、遠くまで見渡せる。だが、曲がってしまえば、見えない。

 数分でルミさんとガイさんは戻って来た。


 「俺のところは右に折れて行き止まり」


 「私は、左は行き止まり。右は少し行ったら右手に部屋みたいなところがあったけど、何もなかった」


 「じゃ、右か」


 「だね」


 「あの……」


 俺が言葉を発すると、二人は俺の顔を見た。


 「あ、そっか。一階はこうやって探すのが早いんだ。十字の真ん中に一人が立って目印にする。地図を発見すればそれを見て進むけど、それまでは迷わない様にこうするんだ」


 「複雑そうだったら先に進まず目印の人まで戻ってくるの」


 「そうなんだ……」


 そういう事は先に言ってほしい。迷子になるなと言われて、おいてかれてどうしたらいいかわからないだろう!


 「まあ、マッパーが職業にあるみたいだからそれを取得するという、方法もあるが今はまだこの方法だろうな」


 そんな職業もあるのか。便利そうだな。


 「じゃ右に行こうか」


 ルミさんがそう言うと、ガイさんは頷き先頭を歩く。

 行き止まりかと思ったが、左側に部屋があった。そこにはなんとスライムがいた!


 プルンプルンとゼリーのような感じで、青く透き通っている。大きさはサッカーボール程で思ったほど大きくない。


 「おぉ! この世界にもスライムがいたんだ!」


 俺がスライムとの出会いに感動していると、二人は無造作に足でスライムを踏みつぶした。

 もう少し感動に浸らしてくれても……。


 「経験値にならないし、ちょっとじゃまだよね~」


 「まあ、踏むだけでいいけどな」


 「………」


 今更だが二人は手に武器を装備をしていなかった。最初からスライムしかいない事を知っていたんだ。スライムの後ろには、宝箱があった。たぶん地図が入っているに違いない。


 「どれどれ。地図だよ! 誰が持つ?」


 「別にルミちゃんでいいぜ」


 「はーい」


 無事に地図を手に入れた俺達は、この宝箱の壁の向こう側にあったもう一つの部屋に入った。そこにはワープポイントである魔法陣があり、それに乗ると次の階に行けるらしい。


 俺達は魔法陣に乗り次の階に進んだ。

 ワープで飛んだ場所は大きい部屋で四方に穴がある。

 俺達は地図を覗き込む。

 そこには、この階の地図が描かれていた。


 「あれ? この階の分だけ?」


 「上の階に進むごとに地図が勝手に書き換えられる。つまりその階しか載ってない。だが、戻れないのだから十分だろう」


 俺の疑問にガイさんが答えてくれた。

 まあ、毎回迷路が変化するようだし、その階だけで十分か。

 地図には、自分たちがいる場所は載ってないが、宝箱の場所と次の階に行くワープの場所が記載されていた。


 「宝箱を取って次の階に直行だな」


 「さて、どれが宝箱の部屋に続く通路かだけど……。一つ覗けば、わかるかな」


 四つの壁にある通路に続く道の一つを覗くと、右にしか道がなく行き止まり。はずれだ。

 地図によればこの向かい側の壁が、宝箱がある通路。そして、その左側の壁から行ける通路を道なりに進むと、次の階に行くワープポイントとの場所だ。


 俺達は宝箱を取りに向かった。

 先ほどと同じく、スライムがいるが、二人は容赦なく踏みつぶした。


 「さて、何かな?」


 ルミさんが、宝箱を開け覗き込む。


 「ナイフ……って」


 ルミさんは残念そうに宝箱から取り出した。

 そのナイフは、全体が銀色に輝いている。つまり全て銀なのだろう。


 「いる?」


 「いらないな。俺には使えない代物だ」


 ルミさんに聞かれたガイさんは断った。


 「私もいらないから、キソナさんにあげる」


 「あ、ありがとう……」


 いらないからくれるって……まあ、いいか。

 俺は受け取ると、アイテムボックスにしまった。


 「まあ、こんなもんだろう。二階だしな。宝箱があっただけマシだ」


 「ない場合もあるのか?」


 「経験値の所は、宝箱はあまり出現しない。二階に出るなんて珍しいんだぜ」


 そういうものなのか。今のところ敵もスライムだし、上の階に行かないと経験値も入らなそうだ。


 俺達は、最初の部屋に戻り、ワープポイントの場所を目指した。たどり着くとすぐにワープで移動した。

 移動した先は、通路の端だ。見た目はずっと先まで続いている。

 俺達はマップを覗き込んだ。


 俺達のいる通路は、大きな部屋の横にあった。真ん中からその部屋に行けそうだ。つまり、左右どっちかの壁の向こう側が大きな部屋だ。

 そして、その部屋の反対側がここと同じような感じで、端っこにワープポイントがあった。


 「あれだな。ここはモンスターの巣窟の階だな」


 「だね。で、倒す?」


 「敵によるが、倒しても経験値は一か二だろう……」


 弱すぎるので経験値が入らないらしい。


 「じゃ、突っ切るという事で」


 ルミさんがそう言うと二人は俺を見た。


 「な、なんだよ」


 「武器しまっておけ。とりあえず、敵の間をすり抜け進むが……」


 ガイさんが言ったように俺は武器をしまった。


 「大丈夫だ。すり抜けるぐらいできる!」


 「うん。じゃ行こう!」


 俺達は大きな部屋の前まで来て中を覗き込んだ。

 スライム、コボルト、ラビーがそれぞれ五体ずついた。そこらへんをウロウロしている。


 「行くぞ!」


 ガイさんの合図で俺達は、向こう側の壁に向かって部屋の中を突っ切った。無事三人共壁までたどり着き、そのままワープポイントまで走り次の階に進んだ。

 次の階に行った俺達は早速、地図を覗き込む。


 地図には小さな部屋がいくつもある。そのうちの一つにワープポイントの部屋があるようだが、同じような感じの通路に部屋だった。

 自分たちのいる部屋がどこなのかをまず把握しなければならない。


 「うわぁ何、この迷路」


 「仕方がない。またキソナさんに立ってもらって見て回ろう!」


 そのやり方で構わないが、なぜ目印になるのが俺なんだ……。


 文句を言いたいが、誰かがやらなくてはいけないし、大人しく引き受けた。

 その際、ルミさんから地図を渡された。

 この作戦で自分達が最初にいた部屋がど真ん中だとわかり、地図を頼りにワープポイントを目指した。途中でコボルトとラビーに出会うも、蹴りで一撃だった。

 そうして、無事魔法陣の前にたどり着いた。


 「次はボスの部屋だ。武器を装備してからワープする」


 ガイさんはそう言うと武器を装備した。俺も装備する。


 「じゃーん!」


 ルミさんは、自慢げに斧を装備した。


 「おぉ! 凄いな!」


 流石に武器が斧で、ガイさんも驚く。ルミさんは得意げだ。


 「じゃ、行くぞ!」


 俺達三人は、魔法陣に乗り次の階へ移動した。

 次の階に着いたら、目の前にドラゴンがいた!


 「うお!」


 俺は驚いて声をだしてしまった……。


 三メートルほどの緑色のドラゴンだ。足の指は三本で鋭い爪がある。踏みつけられても引っかかれても、凄くダメージを食らいそうだ。

 そして、トカゲの様な緑色した皮膚は固そうだ。


 「俺ら左右から攻撃するから、キソナさん前宜しく」


 「はぁ!? ちょっと俺を囮にするつもりかよ!」


 「防御力あるし、上手になったんだろう? 無理そうなら変わるから」


 くっそう。やってやる! あっと、驚かしてやるからな!

 皆が位置に着くと三人一斉にドラゴンを攻撃した!


 ポン。

 《ミス》


 「はぁ?」


 「え!」


 俺とルミさんの声が重なった!

 攻撃した相手が自分の攻撃より防御が上か同じだった場合、ミスになり表示される。ルミさんの様子だと彼女もミスと表示されたに違いない。


 ルミさんは、ドラゴンから離れ、かなり間合いを取っている。彼女の防御は俺達の半分だ。攻撃が効かないので、攻撃を受けない様に下がったんだ。

 全く。どれだけチートのドラゴンなんだよ!


 「俺達、攻撃が与えられようだ……」


 俺の言葉に、ルミさんは頷いた。


 「おかしいな。テスターの時は三人も居れば簡単に倒せる強さだったんだが、これだけ強いと流石にバランスが悪いだろう。すぐに修正が入るだろうが……」


 「ワープで戻るか?」


 「え~~! 経験値だって何も手にいれてないよ! アイテムだってナイフ一個じゃない!」


 俺の提案を聞き、ルミさんは抗議する。

 気持ちはわかるが、これだけ硬くてガイさんしかダメを入れられないとなると倒すのが大変だ。いや、倒せるかさえわからない!

 しかも相手の攻撃が未知数だ。受けて検証もできるが、もし万が一、一撃で死亡なら大変だ!


 「そうだが、死ねばレベル下がるぞ? それにお金は後日戻って来るだろう。だが、経験値は戻らないと思われる」


 『キソナ様! 後五秒でブレス攻撃がきます!』


 ガイさんの説明と被るようにピピの忠告が耳に届いた!


 「ブレス!!」


 俺は驚いてドラゴンを見上げた。大人しいと思ったらブレスを吐く準備をしていたらしい。顔を上げほほを膨らませている。

 教えてくれるのならもっと早くしてほしい!


 「離れろ! ブレス攻撃がくる!」


 俺達は、ドラゴンに背を向け走り出した。だがブレスは俺達に放たれた!


 「「うわー!」」


 「きゃー!」


 辺りが炎に包まれた! 全体攻撃で部屋中に行き届いた感じだ。端まで逃げていても隠れる場所がないので食らっていただろう。


 HPを見ると、八九%になっている。八〇ちょっと食らった事になる。ブレスは魔法攻撃になるから俺の耐性は二五。二人は一〇〇ぐらい食らってる?


 「うっそ! 信じられない!」


 「一〇〇も食らった!」


 二人は驚愕の声を上げた!


 取りあえず、ガイさんは回復魔法を持っているので、ルミさんを回復しておこう!


 「ルミさんに回復魔法!」


 「あ、どっちかわからないけど、ありがとう」


 小さく唱えると、ルミさんがお礼を言った。……と、重なるようにガイさんが叫んだ!


 「キソナさん! あんた、どんなけHPあるんだ? 八九%って!」


 「本当だ!」


 流石ガイさんだ。俺のステータスを確認したらしい。彼に言われルミさんも確認して驚いている。

 やばいバレた! 回復するならまず自分が先だったか!


 「HP一,〇〇〇ぐらいあるのか?」


 「……そんな事より回復しないのか?」


 ガイさんが質問してくるも俺はそう言って誤魔化した。


 魔法防御があるのを知らないので一〇〇食らったと換算すると、一,〇〇〇という事になるが、まぁ、どっちにしてもチートだよな。


 「そうだった。回復!」


 ガイさんが魔法をかけるもすぐには回復しない。五秒ほど後に回復する。


 「これなら魔法クエスト受けれるな! ……魔法! おい、キソナさん! ドラゴンに魔法攻撃してみてくれ!」


 ガイさんは、ドラゴンを指差し言った。

 武器攻撃が効かないのなら魔法が弱点の可能性はあるが……。


 「俺、実はノーコンで……」


 「なら、近くまで行けばいいじゃん。的デカいし当たると思うよ?」


 すまなそうに返事を返すと、ルミさんがそう言ってきた。

 俺が攻撃を一回ぐらい食らっても死なないとわかって言っているのだろうけど、もう少し労わろうよ!

 はぁ。仕方がない。


 「わかった。やってみる」


 仕方がないので引き受ける。これがダメそうならもうワープで逃げるしかない!

 俺はドラゴンの前に立った。

 五……四……三……二……一……。


 「火の玉!」


 俺は左手を振るった!

 無詠唱を隠す為に、あえて立ちはだかってから五秒数えて、小さく唱え放った。


 火の玉の威力は二〇。魔法攻撃補正で六〇になる。

 見事? 火の玉は無事ヒットしたが倒れない。


  ……二……一……。


 「火の玉!」


 俺はもう一度左手を振り、火の玉を繰り出した! まだ倒れない。


 「火の玉」


 三回目でも倒れない!


 「火の玉!」


 四回目でも……って、ブレスの用意している!

 次で無理だったらワープで逃げるしかないな!


 「火の玉!」


 俺は左手を向け放った!

 ――ドラゴンは消滅した!!


 え? マジで倒したちゃった俺!?


 俺の足元がほのかに光った!

 レベルUPした!


 「やったー!!」


 レベルUPした事で、倒した事を実感し、やや間を置いて叫んだ!


 「やったな、おい!!」


 「キャー! すごーい!」


 二人は飛び上がって喜んでいる。


 「もしかして魔法攻撃もチートなのか?」


 「まさか! ドラゴンが魔法に弱くてHPが少なかったんだ!」


 俺は、ガイさんの言葉にそう否定する。

 ドラゴンがもし魔法耐性がなければ、300ダメが入った事になる。本来なら一五回攻撃しないと倒せないがどうせ、訂正が入ればうやむやになる。


 「まあ、いいか! ありがとうな!」


 「見直しただろう!」


 「うんうん。戦闘が上手になっていたかは、定かではないけどね!」


 「いやぁ、お見事!」


 そうだった。上手になったか見せれていない!

 ……まあ、いっか! 勝てたし。


 ドラゴンが倒れると、宝箱が出現していた。

 ルミさんが嬉々として開けた。

 そこにはペンダントが三つ入っていた。


 「わあ、ペンダントだ!」


 「よし塔から出たら鑑定だな!」


 「鑑定?」


 「ここで手に入れた物は、鑑定しないと効果が発揮されない。まあ、ただのペンダントかもしれないがな」


 そうなんだ。じゃ、さっきのナイフも鑑定しなくちゃいけないのか。

 こうして俺達は、未鑑定のペンダントを手に入れた。


 「で、奥に進むのか?」


 「いや、戻った方がいいだろうな」


 「だね。お金戻って来るといいなぁ」


 戻る事に決まり、俺達はワープを使い塔の外に出た。

 初めての塔の探索は、無事? 終了した――。

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