第五章 その鑑定、偽りあり!

第17話

 俺はのほほんっと回復を待っていた。


 「おい。そんな所で何してるんだ?」


 声がかかり顔を上げると、ガイさんが立っていた。


 「あぁ、ガイさん。休憩中。HPとMPを回復している」


 「おぉ、一〇レベルになったのか!」


 少し間があってからそう返して来た。メル友でレベルを確認したんだろう。


 「確かワープ持っていたよな?」


 「うん? 持っているけど?」


 「だったら塔に行かないか?」


 そう言えば一〇レベルから行けるんだっけ?


 「俺も一〇レベルになったんだ。テスターの時、塔に行ったことはあるか?」


 「いや、ないんだよな……」


 「ないか。まあ、さらっと言うとだな。塔は一方通行で、上の階にしか行けないんだ。五階ごとに外に出るワープもあるんだが、それ以外は、魔法のワープでしか外に出る方法がない」


 そうだったのか! ワープ選んでおいてよかった! あ、だから表ステータスなのか。塔に登る為にあったら便利な魔法だもんな。どうやって取得するかは知らないけど。


 「で、どうだ? 覗いてみないか?」


 さて、どうしよう。どんなのか見てみたい気もするけど……。


 『どう思うピピ?』


 『今のキソナ様なら問題ないと思われます。フィールドのエンカウントと同じで、そんなに大量には出現したしません。オオカミンよりは、練習に丁度いいかもしれません』


 『そうだな! じゃ、ちょっと行ってみる!』


 「あぁ。OK。行こう」


 後MP七〇ぐらいで全回復だが、MPはそんなに使わないから問題ない。


 「あれれ? キソナさん? 何しているの? そんな所に座って」


 立ち上がろうとすると、またもや声を掛けられた。そんなに目立つだろうか?


 確かに大量に回復する時は、ログアウトする人が多いかもしれない。ログアウト中の回復は、座って回復と一緒だ。しかも満腹度も減らない。

 見渡せばずっと座りっぱなしは、俺だけだったようだ。

 俺は、スクッと立ち上がった。


 「さっきはどうも。これから塔に行こうってガイさんと話していたんだ」


 「ガイです」


 俺が説明するとガイさんは、ルミさんに挨拶をする。


 「はいはい! 私も行きたい!」


 ルミさんは手を挙げ元気に言った。


 「俺は構わないが、えっと……」


 「ルミです! レベルは一一です!」


 ルミさんは、ガイさんが聞きたい事だろうと、名前とレベルを自分で紹介した。


 「一一! 早すぎないか? さっき、九になったばかりじゃ……」


 俺とオオカミンのクエストをして彼女は九になった。それなのにもう一一になっている。俺が、ダイガルと修行している間にだ!


 「あ、誘わなくてごめんね。二人でも大丈夫そうだったからさ。……っていうかさ、戦闘下手すぎて、居てもいなくても同じっていうか……」


 「う……」


 そこまでハッキリと本人の前でい言いますか……。確かにルミさん達と比べたら大人と子供というぐらい戦い方は違ったが……。


 「そうだな。あれには俺も驚いたぞ。ステータスが凄いのに勿体ないと思ったほどだ」


 「俺もそれに気付いて、修行……練習してまともに戦闘出来る様になったから!」


 頑張った! オオカミンで試したけど普通になったと思う。まあ、二人にはまだ及ばないだろうけどさ。

 俺がムキになって言うと、二人は顔を見合わせる。


 「まあ、ワープ使えるヤツがいると便利だし。期待はしてないから大丈夫だ」


 「うん。防御高いみたいだから、食らっても死なないでしょう。それにどんな感じか見に行くだけだし……」


 「ちょ……二人共酷くないか! 足手まといにはならない程度には、出来る様になったって言ってるだろうが!」


 二人は笑い出す。


 『バカにされていますよ! 見返してやりましょう!』


 『おう!』


 ピピの言葉に軽く頷いた。


 「ごめんごめん。冗談だからもう本気にしないの。ちゃんと助けてあげるから」


 「楽しみにしてるからな。存分に練習の成果を見せてくれ。じゃ、パーティーを組もうか、ルミちゃん」


 「ちゃんって! 子供じゃないんだから。まあいいけどさ」


 「どれどれ……」


 二人は気が合うようだ。俺をからかって遊んでいる……。

 俺達はパーティーを組んだ。


 「ほう。ルミちゃんは、怪力を合わせると攻撃力九〇あるのか。すごいな。って、キソナさん、おたく魔法を取りに行ったのか? どれだけHPチートなんだ?」


 早速ガイさんは、俺達のステータスチェックを始めた。俺が、魔法を覚えている事に凄く驚いた様子だ。まあ、あのへっぽこ戦闘じゃ普通死ぬわな……。

 それにしてもルミさんは、怪力のスキルで攻撃力がかなりUPしてるな。


 「一人で行ったんじゃないよ。ちょっとした便利なスキルを使える人がいて、足止めしてくれたからさ。俺でも行けたんだ!」


 「なるほどな。納得だ」


 「あ、わかった!」


 誰とは言わないけど、ルミさんはヒカルだと気づいたようだ。

 こうして和気あいあいと塔に俺達三人は向かった。


 塔は近くの森を抜け、十字路の道を右に進むとあった。ちょっとした林を抜けると大きな湖があり、その中心に島が見える。そこにデーンと建っていた。頂上は見えない。雲に隠れるほどだ!


 現実では見れない光景に俺は感動を覚えた。

 あれを近くで早く見てみたい! そう思う程だ。


 「あそこに見える塔に登る。まずは、そこにいる兵士に認定書を提示して、そこの小さな建物に入る。あそこには、塔が建つ島に行けるワープがあって、それで渡れるってワケだ」


 ガイさんが簡単に説明をしてくれた。

 俺達は兵士に認定書を提示し、建物にあるワープを使って塔が建つ島に降り立った。

 塔から少し離れた場所に、同じような建物があり、そこにワープが設置されていた。その建物から出ると、数人の冒険者が居た。その他にNPCだと思われる人物もいる。

 どんな役割があるのか気になるな。


 「今日はあの人だよね?」


 「そうだな」


 ルミさんがそう言うと、ガイさんは頷き答えた。

 二人が言う人物は、一番近くにいる女性だ。見た目はエルフだが、冒険者ではないのは確かだ。


 木で作ったハープが横にあり、その横に座っている。エメラルドグリーンの長いウェーブした髪が腰まであって、それより少し濃い目のドレスを着ている。神秘的だ。


 「おーい。戻ってこーい」


 ガイさんが俺に話しかけていた。彼女に目を奪われ放心していたようだ。


 「またトリップしていたな? それ戦闘ではするなよ!」


 「なになに。キソナさんってこのお姉さんがタイプなの?」


 「あのな! ちょっと見惚れていただけだろう!」


 『ムムム! 見惚れたのですか!』


 ピピまで何で怒るんだ。別に現実世界にいない人だからちょっと見入っていただけだろう……。


 「いや……だから、神秘的で……」


 「はいはい。別に構わないよ~」


 「口説くなら塔から戻ってからな!」


 ピピにまで言われ、しどろもどろになりながら弁解をするも、二人に適当にあしらわれる。

 俺も別に動揺しなくてもいいよな。相手はNPCだろう……。

 小さくため息をつくと、ガイさんが話始めた説明に耳を傾けた。


 「塔には、いくつかの扉があって目的に応じて違う。で、今回は経験値を取得する扉に入ろうと思う。と、言ってもそこしか入れないけどな」


 「だよねぇ。お金いくらかかるかな?」


 「そんなにかからないだろう。テスターと一緒じゃないか?」


 「え! お金かかるのか!」


 二人が俺の驚いた顔を見て、やっぱり何も知らないんだという顔をした。


 「今更だがそうだ。前回は一,〇〇〇Tだった」


 「同じだといいねぇ」


 二人は頷きあう。


 今一,五〇〇Tぐらいしかないんだが……。


 「あのさ、それ挑戦する度に必要なのか?」


 たぶんそうだと思うけどが払ってまでやる価値があるかどうかだな。


 「毎回だな。このエルフの女性の扉の番人にお金を支払うと、扉を通り抜けられる魔法を掛けてくれて、塔の中に入れる」


 「そうそう。でも扉によって必要な物が違うんだよね。だから今は、経験値の扉にしか入れないの」


 毎回必要な上に、扉によって支払う物が違うのか……。


 「で、扉によって何が違うんだ? それに、お金払うほどの価値があるのか?」


 フィールドでも経験値が稼げる。それにワープがないと塔がから出れないようだし、簡単に挑むものでもないよな。


 「あるから来てるんだろうが。まず塔には宝箱がある! それに、ボスが五階ごとに居て、倒せば経験値ががっぽりだ。貴重なアイテムもドロップする事がある。毎回一階からスタートになるが、敵は別に倒さなくてもいい。まあ経験値の扉から入れば、そこにいる敵の経験値は一.五倍だからある程度になったら倒した方がいいだろうけどな」


 ガイさんの説明にルミさんはうんうんと頷いている。

 なるほど。宝箱があるのか。そしてボスもいるのか。


 「で、経験値を稼ぐ扉、お金を稼ぐ扉、スキルを獲得する扉、魔法を獲得する扉、試練を受ける扉などがあるんだ。それぞれの扉によって用意しなくてはいけない物が違う。なので今はお金で行ける経験値の扉からしか入れないってワケだ」


 この塔でスキルや魔法も獲得できるのか! あぁ、前回挑戦しておけば、どんな感じかわかったんだな。


 「じゃ、話しかけて取りあえず中に入るか。後は中で聞かせてやる」


 「そうだね」


 二人は時間がもったいないと、早速お姉さんに声をかけた。


 「俺達、塔に入りたいんだけど」


 「はい。一人一,〇〇〇Tです」


 テスターの時と同じようだ。俺達は、彼女にお金を渡した。そうすると彼女は、ハープを奏で始める。

 短い曲が終わると、彼女はニッコリ微笑んだ。


 「あの緑の扉からどうぞ」


 俺達は言われた通り、緑の扉も前に来た。


 「うんじゃ、そこのタイルに登録してくれ」


 「登録?」


 見れば扉の横の壁の前に一メートル四方の白いタイルがあった。


 「ワープ先の登録をすると、ここにワープしてくる」


 『キソナ様。ここにワープ先の登録を致しますと、塔の中からはここにしかワープ出来なくなる仕組みになっております。登録し忘れますと、塔の中でワープをする事が出来なくなりますので必ず必要です。タイルの上に乗って登録すれば完了です』


 「わかった」


 ガイさんの言葉に、ピピが補足して説明をしてくれた。俺はそれに頷き、タイルの上に乗っかった。


 ポン。

 《ワープ先に登録致しますか?》


 ポン。

 《登録を完了致しました》


 メッセージが出て来たので、はいを選び設定を完了させる。


 「設定した」


 「じゃ、行くか」


 「楽しみだね」


 俺達三人は、扉を開けるのではなく、扉を通り抜けて塔の中に入って行った!

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