第16話
街に戻った俺は、冒険者ギルドで報酬を受け取る。
さて、次はどれにしようか。取りあえずまた一〇体でいいかな?
今度はダイガルだけ召喚すればいいから、さっきみたいな事は起こらないだろう。
『キソナ様。ご提案があります』
俺が悩んでいると、ピピがそう言ってきた。勿論聞くさ!
『なんだ?』
『はい。クエストを受けずにリリンの森にてダイガルに教えて頂くのはどうでしょうか? 召喚は戦闘中でもなくともできます。元の世界に戻す場合は、送還すれば宜しいのでいかがでしょう』
なるほど。そういう手もあるか。ピピだって戦闘中じゃない時に召喚してるんだし。ダイガルは見た目、人間に見える。誰かの目に触れたとしても問題はないよな。よし! そうしよう!
『それいいな! そうするよ。いつもピピはいい提案をしてくれて助かるよ! ありがとう』
『はい! では、ここを出てワープで向かいましょう!』
ピピは、少し頬を染め、嬉しそうに言った。
『ワープか。そうだな。行った事ある場所は行けるんだったな。じゃ、ギルド出るか』
俺はピピの提案通り、ワープしてリリンの森へ向かった。
リリンの森は、近くの森よりもジャングルっぽい。まだ敵には会った事がないので、どんなのがいるかわからないが、トラとか出て来そうだ。
人気がないか確認をして、俺はダイガルを呼び出す。
「いでよ! ダイガル! ダイガルを召喚!」
ちょっと格好付けて呼び出してみた。今まで通り魔法陣からダイガルが現れた。
「ダイガル師匠! 俺に剣術の稽古をつけてほしい」
「稽古とな?」
唐突に言うと驚いて復唱する。まあ、敵を倒してじゃなくて、稽古してだもんな。
俺は頷く。
「魔王殿のお願いとあれば何なりと!」
「あ、それと、俺の事は俺が一人前になるまで、キソナと呼び捨てで!」
その言葉にダイガルは驚く。いや、ピピも驚いていた。
「俺さ。攻撃も防御もダメでさ。本気で教えて欲しいから、弟子として鍛えて欲しいんだ」
ダイガルは、静かに頷いた。
『キソナ様! なんと立派なお言葉!』
ピピはハンカチを持っていないが、それで拭いている仕草をする。何となく執事のじいや的な感じだが、俺的には可愛く映る。
目がウルウルもいいな。
「わかりました。今から師匠と弟子。キソナと呼び捨てにさせて頂きます」
ダイガルは、頷いて承諾してくれた。
「はい! 宜しくお願いします!」
俺は頭を下げた。
こうして魔王の俺は、眷属に習う事になった。
×× × ××
リリンの森に、金属音が響く。
俺は右手に刀を持ち、ダイガルに切りかかる。だが、全て右手の『ぐう』で防がれた。彼の両手にはナックルが装着されていた。
『なあ、ピピ。ダイガルって剣士なんだよな? 武道家じゃないよな? なんでナックルなんだ?』
『彼は剣の達人ですが、武術も相当な腕前です。キソナ様相手ですと、剣を使うまでもないのでしょう』
『………』
うん。間違ってはいないな。でもこの頃発言が厳しいよな、ピピ。
「おい! 意識がそれているぞ!」
「え! あ、はい!」
ピピと話しているのは聞こえてないはずだけど、集中していないのはバレた。流石だ。
こうして一〇分ほどずっとさせられた。
「うむ。よし、やめ!」
俺は剣を下ろした。
「で、どれくらいになりたいのだ?」
「え?」
「例えば、相手を瞬殺できるようになりたいとか。急所をつけるようになりたいとか。そういう事だ」
どっちも難しそうだな。って、そこまで出来なくてもいいんだよな。攻撃を食らわず戦えれば……。
「そういう技術はいらないかな。俺は、相手の攻撃をかわしつつ、攻撃を与えられればいい」
「なんだ、スキルを取得したいのではなかったのか! ただのカウンターか」
今なんと……。さっき言っていたのって、スキルの技の事だったのか!
「よしわかった。ではまず、攻撃をかわす訓練からだ! 相手の隙を見つけれるようになれば、自然と攻撃できるようになる!」
「え! 待って!」
「背を向けずにかわせ!」
言うが早いか、ダイガルは蹴りを入れて来た。勿論、今の俺に合わせて優しい蹴りだ。
待ってって言ったのは、スキルだったらそれも教えて欲しいと言いたかったんだが、これが出来るようになってからでもいいか。
俺は必死にダイガルの蹴りを避ける。
だがここは森の中だ。足場も悪いし木などもあるので動きづらい。後ろを確認したりすると、ダイガルの蹴りを食らう。
ふとHPを見ると三〇%近く減っている! 俺は、さっきのクエストで一〇レベルになっていた。HPは七〇〇超えているが、一撃で二〇〇ぐらい食らった事になる!
「って、ダメ入るのか!」
『仲間同士でも攻撃は受けます。勿論、武器でも魔法でも同じです。蹴りやパンチは素手攻撃になります』
そうだったのか! いや、同士討ちありって聞いていたけど、素手攻撃ってあったんだ。
ダメが入るって先に教えて欲しかった……。
いや、こういう甘えがダメなんだ!
ダイガルは、容赦なく繰り出して来る。確認しなければ、木に気づかずにぶつかり、これもまた蹴りを食らう。
HPが半分を切った!
「げ! 回復魔法!」
HPが四〇%ほど回復した。たぶん三〇〇回復しんだろう。
うん。検証も出来た!
蹴りを食らうと回復をして……。
そんな事を繰り返しているうちに要領が掴めて来た。
「よし次は、色んな攻撃を仕掛ける」
「え! 休憩なし?」
「これが出来たら休憩だ!」
スパルタだな。いや、俺が望んだ事だ。
連続で蹴りを入れてきたり、パンチも繰り出してくる。ナックルは外しているようだ。俺はさっきから地面に手をついてばかりだ。つまり食らいまくり!
回復するのが大変なぐらいだ。こんなに必死なのは、あの魔法茶イベント以来かも。
「もう、そこまでにしませんか?」
その声にダイガルは、ピタッと止まった。
「ピピか? ……そうか。これはあなたの提案か。では、休憩にしよう」
ピピって普通にも話せたんだ。従えたら話せなくなったのかと思っていた。
「ありがとうございました!」
俺がダイガルに頭を下げると、彼はうむっと頷いた。
『MP切れです』
『ありがとう、ピピ。必死過ぎてMPまで気が回らなかった』
流石に疲れた感があるな。凝視していたからか目も疲れた。
俺はダイガルを送還して少し休む事にした。
「ダイガル師匠、街に戻る事にしたので、一度送還します」
「わかった」
ダイガルは頷いた。
「ありがとうございました。では! ダイガルを送還!」
ダイガルは、スッと消えて行った。送還にはHPもMPも必要ない。
「さて、街に戻って食堂だな」
見れば、満腹度が半分を切っている。
俺はワープ分MPが戻るとそれでタード街に戻り、その足で食堂に向かいパスタを食べた。
考えてみると、ダイガルもチートだよな!
って、召喚した魔族の方が俺より強いよな。確かに凄い役に立つけど、立場的に恥ずかしいし虚しい。
よし! 頑張ってせめて、攻撃をかわせるようにならないとな!
まずはどれくらいになったか、確認してみよう!
『これ食べ終わったら、MP回復がてらオオカミンのクエスト受けて、実践してみる事にする』
『承知しました』
一〇分後、冒険者ギルドでオオカミン一二体、報酬一,二九六Tのクエストを受け、双子の丘に向かった。
エンカウントすると俺は、オオカミンに向かって行った。刀は右手だけに装備している。
向かって来るオオカミンを切り付け、攻撃をかわし切り付ける。
今までただ動かず攻撃していたが、今は攻撃をかわしつつ攻撃を入れる事が出来ている。敵の数が多いので、全てをかわす事は出来てはいながいが、ダイガルに教えて貰う前と後では、雲泥の差だ!
こんなに効果が出るなんて! ピピの言う通りダイガルに指導してもらってよかった! 二人に感謝だな!
今までの半分ほどの時間でオオカミンを倒す事が出来た。
俺、凄い成長したよな!
これなら防御チートを誤魔化せる。勇者だと思わせる程のチートはやばいからな。
それにやっぱり、回避して食わらずに戦闘する方が、嬉しいというかストレスがないよな。カッコいいし……。
俺はオオカミン全て倒し、ルンルンでタード街に戻って報酬を受け取った。
そして、まだHPもMPも回復しきっていなかったので、回復魔法をかけた後、座ってMPを回復させる為、一五分ほど休憩する事にした。
休憩後、ワープでリリンの森に向かう。周りに人気がないのを確認して召喚する。
「ダイガルを召喚!」
目の前にダイガルが召喚された。
「もう休憩はいいのか?」
「はい! またお願いします」
俺は、右手に刀を装備する。
「その武器以外持っているか? ナイフぐらいの長さがいいんだが」
「あ、はい。イベントで手に入れた最初のやつなら」
俺は冒険者になる時に手に入れたナイフを左手に出した。
「ではそのままそれは左手に装備し、その刀は私に貸して頂こう」
そう言うと、ダイガルは右手を出した。
俺がナイフでダイガルが刀でやり合うのか?
取りあえず言われた通り、刀をダイガルに渡す。
「これからこの刀で攻撃をするから、そのナイフで受け止めろ」
「左手で?」
「そうだ」
ダイガルは頷く。
マジか。こんな短いので受け止めるのかよ!
「行くぞ!」
「え! あ、はい!」
最初に振り下ろした攻撃は受け止められたものの、次の攻撃はもろに食らった!
HPはなんと、四〇%近く削られている!
刀の補正があったとしても一五だ! おかしいだろう!
「なんでこんなに増えるんだ!」
『ダイガルには、剣と刀を装備した時に補正が入ります。その為攻撃力が上がります! 気を抜かない様に!』
それはちょっとズル過ぎはしませんか! 俺は心の中で叫んだ!
「回復魔法!」
HPは全回復する。
これ連続で受けたらやばいだろう。
俺は必死に受け止めるも体がダイガルのスピードについて行かない為、次の攻撃を受けてしまう。
攻撃を受け、回復を繰り返す。もう攻撃を受けたら無意識のうちに回復と口にしているぐらいだ。
「これぐらいか」
ダイガルはそう言って、攻撃をやめた。
「MPが回復したらまた修行だ」
「はい……。ありがとうございました」
俺は頭を下げた。
いつの間にかMP切れになっていた。回復と言っても回復していなかったようだ。
俺はダイガルを送還して、タード街に戻った。そして、噴水の前に座って回復を待つ。
『だいぶ防げるようになっておりますよ。最初の頃からみたら別人です!』
『ありがとう、ピピ。二人のお蔭だよ。レベルがただ上がるより嬉しい』
それが俺の素直な気持ちだ。レベルが上がっていけば、普通の戦闘では、攻撃を受けてもダメは入らないだろう。きっとそれぐらい、
けど俺は、かわす方を選ぶ。その方が楽しいさ! って本当の理由は、カッコいいからさ。そうだ、もっと上達してみんなを驚かそう。今まで下手過ぎたから凄く驚くだろうな。
こんな事で胸を躍らせるなんて、始めた事からは想像もつかなかった。戦闘で瀕死にならないように、チート過ぎてバレるんじゃないか。戦闘する度に不安だったのに……。
早く回復しないかな。
戦闘するのが、待ち遠しくなるなんてな! 本当に修行前には考えられなかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます