油揚げの魅力
諸事情から『君たちはどう生きるか』に興味を持ち三時間を掛けて読了し、私は今、ある激しい後悔の念を抱いている。
なんで今日油揚げを買って来なかった…。
私は基本的に一週間の食料を休日である土日の間に買いだめておく。これは通勤経路に買い物を出来る場所がコンビニ一軒しかなかった前職からの癖である。だから油揚げを食べようと思ったら次の休みまでお預けという事になる。
時に私は今節約に努めている。節約となればまず削るのが食費である。そんな時に心強い味方がもやしと豆腐と卵である。もやしと豆腐はどちらも数十円で買うことが出来、卵は十個で二百円くらい。これらがあれば調理次第で様々な味を楽しめる。麻婆豆腐の素のような物も豊富にある。
そんなわけで今日も食材を買い込んできたのだが、買い物ついでに立ち寄った本屋で『君たちはどう生きるか』を買って読んだところ、文中の油揚げという単語を見つけ無性に食べたくなったのである。
『君たちはどう生きるか』については書評を書くほどの気は起きなかった。抱いた感想としては昭和12年から人間の生活と本質は大して変わってはいないらしい、くらいのものだ。
それよりも油揚げである。
油揚げというのは腹にたまるような物ではない。豆腐一丁の方が満腹感は強い。なにより魅力的なのはその味だ。
元々油と醤油というのはすこぶる相性が良い。例えば、サラダ油を引いたフライパンで目玉焼きを作り、これを丼飯の上に乗せ醤油を掛ければ目玉焼き丼の完成だ(醤油を麺つゆに置き換えたり鰹節を飯と目玉焼きの間に振りかけるのも良い)。油揚げは名の通り油分が多い。ただ熱したフライパンの上で温めて醤油を掛けるだけで油揚げは立派な酒のツマミとなる。
私が好きなのは油揚げを甘辛く煮てやはり丼飯の上に乗せ真ん中に卵を落とす食べ方だ。味としては稲荷寿司っぽい物になるが飯が温かいのが嬉しい。
丼物なら衣笠丼も美味い。これは親子丼の鶏肉を、カツ丼のカツを油揚げに置き換えた物で、豆腐を揚げた物である油揚げは肉に引け劣らない旨味を出す。これは厚揚げでは美味くない。やはり油揚げの歯ごたえと香ばしさがあって実現する美味さだ。
そしてどちらも材料さえあれば簡単に作れるのである。
別に丼に掛けなくてもそのままで十分美味い。酒のツマミにもなる。
どうして買って来なかった…。
そう、『君たちはどう生きるか』で一番面白いと思ったのは主人公が悔恨の念に苛まれる所だった。
私は油揚げ一つで後悔出来る生き方をしているらしい。
(…明日コンビニで買って来るか)
食べたり、飲んだり 山村 草 @SouYamamura
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