ナイツ ~騎士道物語~
荒木阪場
序章
どうして。
どうしてこうなったのだろう。
「逃げろ!レン!」
「もうこの国はだめだ。早く非難しないと」
「騎士様はまだ来ないのか!」
燃え盛り、崩れていく建物を避け、少年レン・クレアスは息を切らして走り続ける。
大丈夫。きっと彼女は無事のはずだ。
崩れかけた低い城門をくぐり抜けて彼女がいるはずの玉座を目指す。
「メリア……無事でいてくれ」
階段を駆け上がり、見慣れた長い廊下を走り続ける。肺が焼けそうだ。足ももう限界だ。
それでも、彼には走らなければならない理由があった。
彼女を守るために。
彼女を失わないために。
「----メリア!」
ドアを蹴破り、玉座に入る。
「……レンさん。来てくださったのですね」
「しっかしろ。今すぐここから逃げよう」
レンはメリアという名の少女に駆け寄る。彼女はこの小さな国を統べる王女だ。そして数少ないレンの大切な人だった。
メリアの来ているドレスは灰により所々、黒く染められ。美しい肌にはいくつも切り傷があった。
レンは彼女の手を握り、立ち上がろうとする。
その時だった。
「…………」
肌に感じる風圧。耳に聞こえる荒い鼻息。そして存在感。
顔を上げるとそこには、本でしか見たことのない飛竜……ドラゴンがこちらを睨んでいた。
飛竜はこちらを睨むと大きな声で奇声を響かせ、こちらに向けて口を開く。
「まずい、確か飛竜は口から火をーーーー!」
レンはメリアをかばう体制で瞳を閉じる。
『……クリスタリア……ウォール!』
聞きなれない言葉と、音が響き、目を開く。気が付くとレンの体には透明な薄い壁が出来上がっていた。
「おい、なんだこれは! メリア。いったい何を!」
「これは母が私に教えてくれた唯一の魔法です。あなたは魔法が使えないから、できれば見せたくなかったんですけど」
メリアは苦笑しながらゆっくりと立ちあがる。
「ふざけるな! メリア! 早くお前もここに!」
「私の技術では一人が入るので精一杯です。それに、多分私はもう助かりません」
「何言ってるんだ! ここから出せ! 今すぐ俺がそいつをぶっ倒してーー!」
メリアは壁に立て掛けてある剣を握る。彼女の細腕では持つので精一杯なのに。彼女は懸命に剣を構えて飛竜を睨み返す。
ここまで勇敢な女王が果たしてこの世界にいるだろうか。
「メリアーーーーーー!」
涙を流しながら透明な壁を何度も叩く。殴る。
目には見えるのに。守るべき者は分るのに。
この拳は無情にも届くことはなかった。
「……レン。いつかきっと……」
メリアは笑う。
荒野に咲く一凛の花のように。地に降り立った女神のように。
「全てを守れる騎士になって。誰かを助けてあげて」
それがメリアの最後の言葉だった。
目の前は紅の炎と真っ黒な煙に覆われ、目の前にあった透明な壁がなくなった時には、飛竜もメリアもおらず、彼女の握っていた剣だけが彼女の生き様を示すように突き刺さっていた。
その後。
レンは何時間も泣き、喚き、世界に、そして何も守れなかった自分に絶望していた。
そして一つの答えにたどり着く。
「メリア。俺、騎士になるよ。全てを守れる騎士に」
そう言い、地面に突き刺さった彼女の握っていた剣を引き抜いた。
ナイツ ~騎士道物語~ 荒木阪場 @sakakibara
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