新説ピーターラビット

Zhou

始まりの日

 昔々、あるところに、小さな4匹のウサギが住んでいました。

 名前を、フロプシー、モプシー、コトンテール、そしてピーターと言いました。


 子ウサギたちは大きなもみの木の根元に、お母さんと一緒に暮らしていました。


 ある朝、お母さんが言いました。「わたしの可愛い坊や達、野原や森の中で遊んでおいで。私は夕飯のパンを買いに行きますからね。でも、農家のマグレガーさんの畑にだけは行っちゃいけませんよ。お前達のおとうさんはあの畑で事故にあって、マグレガーの奥さんにパイめにされたんですからね。」


 お母さんが出かけると、プロプシー、モプシー、コトンテールの3匹は言いつけどおり森に遊びにいきました。

 でも、いたずらっ子のピーターはマグレガーさんの畑に忍び込んでレタスやラディッシュをかじってしまったから、さあ大変。

 たちまちマグレガーさんに見つかって、クワを持って追いかけられます。


 ピーターは必死で逃げました。


 スグリのネットに足をとられ、

 ジョウロの水でびしょ濡れになり、

 鉢植はちうえにあたってひっくり返りながら、


 なんとか家にたどり着いた時には、せっかくお母さんに作ってもらった上着もくつもなくしてしまっていました。


 ピーターはそのまま、3日も寝込んでしまいました。


 お見舞いに来てくれた長兄にピーターは言います。

「お兄ちゃん、ボク悔しいよ。どうしてウサギは人間には勝てないの?お父さんだってパイにされちゃったんだよ。」


 優しいお兄さんはピーターの頭を撫でながら言います。

「人間は身体が大きくて、ウサギより力が強いからね。さあ、バカな事は考えずにゆっくりお休み。身体が良くなったら、森で見つけたブラックベリーの実を食べに連れて行ってあげるから。」


 安心したピーターはぐっすりと眠りました。


 それでも身体が良くなると、あの時の悔しさが思い出されます。

 ある日の夕方、もみの木の根元に座って沈んでいく夕日を見ながら、ピーターは次兄のモプシーに聞いてみました。


「ねぇ、ボクがいっしょうけんめい身体をきたえたら、いつか人間に勝てるようになるかな?」


 かしこい次兄は静かに首をふります。

「それはムリだろうね。人間とは『しゅぞく』の違いがあるからね。」


 それを聞いたピーターはガッカリしてしまいました。

 自慢の耳もぺたんと折れ曲がってしまいます。


「でもね、ピーター。自分をきたえるだけが強くなる方法じゃないんだよ。一対一で勝てないなら、『ようへい』をやとって戦えばいいじゃないか。」


 これにはピーターもびっくりしてしまいました。

「でも、モプシー。僕たちウサギだよ。ウサギが『ようへい』なんてやとえるの?」


「もちろんさ。『ようへい』はお金をもらえれば誰のためにでも戦うからね。」


 ピーターはもう興奮こうふんしてしまって、もみの木の周りを飛び跳ねとびはねながら言います。


「すごいや!僕お金をうんと稼ぐよ!」


 ピーターはまず、お母さんがどうやってパンを買うお金を稼いでいるのかを聞いてみました。


 お母さんは丁寧に答えてくれました。


「私が坊や達の服を自分でっているのは知っているでしょう。よぶんに作った服は近くの服屋ふくやさんに買ってもらっているの。人間には少し小さくても、人形に着せるのにちょうどいいんですって。」


 話を聞いたピーターはさっそく次兄に相談しました。


「なるほど、『にっち』なマーケットは家族が食べていくだけなら悪くないか。けど、もう少しボリュームのある市場をせめた方が良いだろうね。それと、服屋さんに『ちゅうかいはんばい』を依頼するより、直接、商品を市場に流した方が実入みいりがいいはずだ。」


 モプシーが選んだのは、赤ちゃん向けの服でした。


 人間はウサギほどは赤ちゃんを産みませんが、生まれた赤ちゃんをとても大切にすることを知っていたからです。


 それに人間のお母さんは、いつだって赤ちゃんに新しい産着うぶぎを着させてあげたいものですからね。


 ピーターは従姉妹いとこのアンナにお願いして、人形用よりほんの少し大きい服を作ってもらいました。

 お尻のところにはウサギと同じ、まっしろなポンポンがついた産着うぶぎです。


「すごいやアンナ、すごく良くできているよ。きっとこれ、『だいひっと』するよ!」

 ピーターはまた興奮こうふんしてもみの木の周りを駆け回ります。


「あら、おばさんの教え方が上手なだけよ。」

 アンナは恥ずかしそうにヒゲをピクピクさせながら言いました。


 でも、じっさいにウサギ印のベビー服は、とてもよく売れたのです。


 頭のいいモプシーは、末っ子のコトンテールを『ぷろもーしょん』につかいました。

 コトンテールがウサギ印の着ぐるみにくるまって鼻を「すんすん」させると、人間のお母さん達はうっとりして、子供が生まれる前から服を買ってくれました。


 甘えん坊のコトンテールには、『あざとく』なりすぎずにお母さん達を落とす、とくべつな才能さいのうがあったようです。


 やがてピーターたちのベビー服は有名になり、『にほん』や『あめりか』など、海のむこうの国にまで販売されるようになりました。


 ピーターは仕事が増えるたびに、アンナの従姉妹いとこや、そのまた従姉妹いとこにどんどん声をかけていきました。

 ウサギの家族がどんなに大きいか、あなたも良くしっているでしょう?


 それから何年もたちました。


 今日はピーター達の兄弟にとって特別な日、はじめての『かぶぬしそうかい』です。


 長兄のフロプシーは朝から緊張きんちょうしてしまって、ずっとヒゲをいじっています。

 その横でピーターは、今は奥さんになったアンナにネクタイをしめてもらっていました。


「ピーター、ステキですよ。他のみんなもね。」


 兄弟は仲良く、そろいのスーツに身を包んでいます。

 これももちろん、ウサギ印のスーツで、今回の『かぶぬしそうかい』にあわせて投入する、『しんしょうひん』です。


 そんな兄弟を、すこしはなれた場所から、お母さんが幸せそうにみまもっていました。


 めでたし、めでたし。



 >>>>

 あとがき


 そうそう、マグレガーさんへの『ふくしゅう』はどうなったかって?

 どうやら、ピーター達はすっかり忘れてしまったようです。

 ウサギたちは長いこと人を恨み続けるのは得意ではないようですね。

 だって

 ウサギは平和な生き物なのですから。

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