13
これは夢。
わたしにはそれが最初からわかっていた。
だって、夕紀さんがわたしに向かって、にっこりと笑うんだもの。もうそんなこと、あるわけがないのに。そんな奇跡が起こることなんて、ありえないのに。
明け方。二人、同じ部屋で映画を見ていた。視覚障害者用のナビ音声のついた洋画だった。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』だった。物語は中盤に差し掛かるところ。
——列車が通りかかる鉄橋の上で、覚束ない足取りで歩くセルマのその姿に、心配になった友人のジェフが、声をかける。
「目が見えないのか」
彼女は寂しそうに苦笑して。
「見るべきものがある?」
用をなさない眼鏡は、川に投げ捨ててしまう。静かに、セルマの歌声が流れ始める。ミュージカルが始まる。
最後の処刑台のシーンよりも、それはどこか切なく、朗々と響く歌声は、あまりにも寂しい。
彼女の空想の歌劇はどうにもならない現実からの逃避。そして悲劇に対する精一杯の抵抗のメタファーで、そのことにわたしたちはもう、お互いが気づいていた。
窓から差し込む真っ赤な朝日が、部屋を血のように染めている。ソファーの上で、わたしたちは手を繋ぎあっている。
悲しい場面ですね、夕紀さんが小さな声で言う。
わたしは無言で夕紀さんを抱きしめる。
いつまでも二人でそうしている。
ただ、それだけの夢だった。
6067 月庭一花 @alice02AA
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