第14話
車が小林に着いた。
厩務員さんに降ろしてもらう。
頬を撫でる風が懐かしい。
あー、帰って来たんだなあ……。
厩舎の入り口まで来ると、馬たちのおしゃべりが聞こえてくる。
「ただいま帰りました!」
大きな声で言ってみた。
すると厩舎のあちこちから「おかえりー!」って返事がする。
うん、やっぱりここがわたしの居場所。
帰って来て良かった。
馬房に入ると、真っ先にお向かいから声が掛かる。
「ファニーちゃんよく帰って来たねぇー。会いたかったよー!!」
……ヤンチャさんだ。
てか、ヤンチャさんも帰って来てたのね。
あれ?あの栗毛の仔はどこ行ったんだろう。
「おお、ファニー帰って来たんだな。おかえり」
隣の馬房からグレイシーさんの声がする。
「ただいま帰りました。向かいにいた仔はどこに?」
グレイシーさんに聞いてみる。
「ファニーが放牧に出てすぐだったかな。どっかに行ったよ」
え!?
「どこに行ったか、わかります?」
「さぁなぁ……。放牧じゃなさそうだったが、どこに行ったかなんて知りようもないよ。最後まで飯の心配はしてたがな」
「そうでしたか……」
「みんないつどうなるかなんてわからない。俺やヤンチャだってそうだ。だから今を一生懸命走るしかないんだよ」
「はい……」
今を一生懸命走るしかない。
そうだよね。それしか出来ないんならそうするしかない。
ここに長くいたいもん。
そう思いながら窓の外を見る。
前と一緒で、センタクモノがぶら下がってる。
ああ、戻って来たんだなぁ……。
「ファニーちゃん、ボクも帰って来たんだよー。なんかないの~?」
向かいでヤンチャさんがなにか言ってるけど、気にしないことにする。
今までだって一生懸命走ったけど、これからはもっと一生懸命に走らないとダメなのかな。
そうしたら、勝てるのかな。
勝ちたいもん。
あのいけ好かない奴にも勝ちたいし、他の馬にだって勝ちたい。
わたしが一番速いんだってちゃんと見せたいもん。
「次こそ絶対負けてやんねぇ……」
「はは、その意気だ。次のレースまでにきっちり鍛えておかんとだな」
隣の馬房でグレイシーさんが言う。
やば、声に出ちゃってた?
「それでいいんだよ。負けた悔しさが強くしてくれるんだ」
「グレイシーさんもそうなんですか?」
聞いてみる。
「俺はあんまり言わない方だな。でも胸にはしっかり悔しさはしまってあるんだ」
……言わない方がいいのかな。
「その代わりヤンチャは良く言ってるよな。負けて帰ってくると悔しい悔しいってずーっと」
……やっぱ言わないでおこうっと。
「明日からまた稽古だな。今日は移動で疲れたろうから早く休むんだぞ」
「はい、そうします」
そっか。また明日から走れるんだもんね。
明日からまた一生懸命走ろう。
今度はきちんと勝てるように。
もう悔しいのは嫌だもん……。
今日のファニー @nozeki
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★54 エッセイ・ノンフィクション 連載中 24話
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