イーポリメィ

スヴェータ

イーポリメィ

 私たちの国ではシュースラの月、マルカの日に大きなイベントがあります。国民全員参加のくじ引き大会です。と言っても、国民がくじを引くのではありません。引くのは王様です。


 くじには国民全員の名前と番号が書かれています。名前というのは、例えば私であればピキ・ナチョロヤというものがそれです。番号は生まれてからすぐに国から割り当てられるものです。


 その日、くじは2回引かれます。1回目に引き当てられた人には10万ペチコュが贈られます。それだけあれば私の生まれ育った家が5軒は買えるでしょう。


 次に引かれた人は処刑されます。私の国には美しい花を咲かせ、甘い果実を実らせるイーポリメィという樹があるのですが、それに1年に1度、人間を捧げる必要があるのです。


 昨年は1回目に47歳のエンジニアが、2回目に23歳の大学院生が引き当てられました。エンジニアは贈られたお金で会社を立ち上げ、今では10万ペチコュの何倍ものお金を稼ぎ出しています。


 一方で23歳の大学院生は、自分の罪を決めた後処刑されました。処刑ですから、何かしらの罪によらなければならないのです。


 昔は無理に窃盗などの罪を犯してもらい、その罪によって処刑をしていました。しかしその罪に殺人を選ぶ者が後を絶たなかったため、くじで選ばれた者に限り、これまでの人生で自分が「悪いことをした」と思ったことを犯罪とすることになっています。


 近年では「いかにくだらない罪で処刑されるか」に全国民が注目しています。これは一種のエンターテインメントです。23歳の大学院生は「3年前朝ごはんにアイスクリームを食べた」罪で処刑されました。これには私も笑いましたね。


 そういえば、3年前は非常に珍しい年でした。2カ月の赤ちゃんが1回目に、3カ月の赤ちゃんが2回目に引き当てられたのです。これまでの歴史において、両方とも1歳未満であった例はなかったとか。


 確か2カ月の赤ちゃんのお金はそのお母様が代理で受け取り、今もなお最高の教育を受けていると聞きます。そうそう、6歳未満の子どもにお金が贈られる場合、その子の教育のためにお金を使うことが義務付けられているのです。


 3カ月の赤ちゃんの罪はそのお父様が代理で決めていました。ただこれはここ数年で1番つまらないものでしたね。確か「この国に生まれたこと」だったと思います。


 このイベントは国が独立し、あの樹を手に入れてからもう数百年続く大変伝統のあるものです。初期はお金ではなくあの樹の果実が贈られ、処刑されるのは刑務所にいる犯罪者に限られていましたが、より楽しむためにどんどん改良され、今の形に落ち着きました。


 誰もが自分の名前を引き当ててもらえるのを期待しています。1回目が外れても2回目に、どちらも外れてしまったらまた来年に期待するのです。


 国民は願掛けのため、イベントの翌日から毎日のように教会へ祈りに行きます。そのおかげかモポロを勉強する人が増え、国民の信仰心は年々深まっているそうです。私はそれを教会で聞きました。


 私もよくよく神様のことを学びました。そのおかげか、何と今年の2回目に引き当てられたのです。私はその日のうちに両親とヴィーモ入りのクッキーを食べつつ罪を決め、そのくだらなさに笑い転げながら別れの挨拶をしました。


 シュースラの月、マルカの日から明日で1週間。いよいよ私はピキ・イーポリメィになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イーポリメィ スヴェータ @sveta_ss

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る