実体験という点からこの話の深さがかなり伝わってきます。そして鬱だとかそういうのは聞いてもパッとしなかったのですが、体験者のことを聞いたり読んでみると心に何か変化が現れます。とてもその時の描写が伝わりやすかったです。
もっとじっくり長く読みたいです。出来れば文庫本で。文章の密度の良さは私の理想です。内容はノンフィクションということですので、うつ病のことなど具体的な、リアリティーには目を見張ります。文末の病気などの補足に、作者の優しさや真摯さも感じました。このお話が面白いとか、良いとか悪いとかじゃなくて、とにかくいろんな人に読んで欲しいですね。
波長が合う人間との出会いがあっても、良縁とは限らない。人間には負の側面があって、その部分に惹かれあっている可能性があるからだ。 それでも気持ちが弱っていると、人恋しくなる。そこに付け込まれるとなかなか抜け出せない。 人間関係のみならず、酒、ギャンブルなど、依存性のあるものはそこらに転がっている。他人事だと思っている人が一番危ない。
連絡が途絶えていたシゲちゃんから電話がきて、安心しつつも「ごめん、スマホなくしちゃった」と、あっけらかんとした態度で答え謝らないシゲちゃんに対し、マッチの火程度の小さな怒りが灯りました。 何故ならその紛失したというスマホというのは、僕の名義で携帯会社と契約したもの。うつ病テーマです。うつ病について、理解が深まりました。文章うまいです。
この小説は「うつ病」を描いたと銘打たれています。そのとおり、主人公はかつてうつ病状態にあった作者自身です。その主人公に人が寄り集まります。いずれも、魅力的で、気さくで、そして不誠実。世を渡る術に長けた人間達に主人公は翻弄されます。主人公の心は、食い荒らされます。平常心の人間にも辛い出来事が主人公を襲います。その人間の無慈悲さは病気のそれを超えます。これは、病気を患い薬を飲んで寝ているだけの話ではありません。苦しむに十分な仕打ちにあい運命を呪い苦悩する人間の物語です。