わたしねタピオカから生まれたの

アヤワスカ

新宿アルタ前

「助けてくれるわけ?」

 そう聞くと、虎之助は「いや、ありえないっしょ」と笑った。

 そっかあ、そうだよね。私って考えが甘いんだよなと、苦笑してうつむくと、虎之助のシュプリームの赤く巨大なスニーカーが、雨粒をはじくのが見えた。

「私今から、東京湾に沈められるの?」

「バカかよ。ウシジマくんの世界じゃねえんだからさ」

「じゃあどうするの? 殺される?」

「殺さねえよ。お前ごときで犯罪とか、無駄にリスク背負ったりしねえから」

「嘘、そんなの信用できないんですけど。だいたいあんた、掲示板で『虎はうそつきだ』ってめちゃくちゃ叩かれてるじゃん。知ってる?」

「そうなん? まあ俺、掲示板なんて見る暇ねえし」

 ビニール傘の隙間から見えるアルタの電光掲示板が、灰色の空にぽかんと浮かんでいる。

 信号待ちで立ち止まった人たちは一斉に、神様からのお告げのように、その安っぽい映像を見入っている。

 サラリーマンも外国人も、ホストも、私みたいなクズ女も、一人残らずみんな。

 突然空から、ぱあんと大量の紙ふぶきが降ってくればいいのに。

 ふいに、そんな想像をしてみる。結婚式のライスシャワーみたいに、二十四時間テレビのエンディングみたいに。

 そうしたら、めちゃくちゃ気分あがって、笑えるのにね。

 隣にいる派手なTシャツを着た外国人の手を取り合って、紙ふぶきにまみれて、イエーイとか言って飛び跳ねながら、騒ぎたい。

 そんなことを考えながらじっとしていると、足先が痛いほど冷たくて、それだけの理由で私は死にたくなる。

 あーあ、さっさと死んで、クリーンになりたい。だってどうせこの先、私の人生悪いことしか起こらないわけだし。

「死にたい」は私の口癖だけどまあ、本当に死んじゃっても、それはそれで仕方がないかな。

「私なんて、死んだほうがいいよね」

 自虐的に言うと、

「うるせえうるせえ。どうでもいい。お前にはもう発言権ねーから。黙ってついて来いよ」

 と、虎之助にウザがられた。 

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