ペペ

 私が連れられたのは、西武新宿の駅ビルペペで、いやペペってダサすぎだろ。何の用だよと思いながら、だらだらとエスカレーターに乗った。

 二階のタピオカ屋の列に虎之助が並ぶ。

「は? あんたタピオカ飲むん?」

 そう言ったが、無視された。順番が来ると虎之助は、

「俺は、このピンクのやつね」

 と、メニューを指さした。

 それは、男のくせにイチゴと生クリームがたっぷりの、注文するだけで声がデブになりそうで、私なら絶対に頼まないやつだった。

「お前は?」

「え、私も頼んでいいの?」

「早くしろや」

 じゃあ私はジャスミンティで、砂糖と氷なしの。

「ありがとうございます。オプションはいかがなさいますか?」

 店員が、せっせとオプションを勧めながら、私たちの顔を一瞥する。きっと彼女は、私たちがホストとキャバ嬢だということをその目で確認したのだろう。銀髪で、年齢に見合っていないブランド物で固めている男と、不自然なバランスで生み出された、派手な顔の女。

 別にあんたなんかに、どう思われたってかまわない。

 だって悪いけど私、顔も服もあんたの何倍も金かけてるんで。

 だけどええと、すみません、店員さん。ちょっと聞きたいんですが、私、悪いこといっぱいして、全部ばれちゃったんですけど、この先どうなっちゃうか、わかります? 私は全然わかんないです。

 虎之助は店員に言われた通り、生クリームを豆乳に変え、サイズもでかいやつに変え、期間限定のブラックタピオカに変えた。

「あんた、オプションつけすぎじゃん?」

 そう言ってからかったのに、やっぱりまた無視された。

 カウンターに寄りかかり、今度は私が店員を観察する。

 店員は、私の思考回路よりも百倍は速い動きで、あっという間に二人分のタピオカドリンクを作った。

 カップに飲み物を注ぎ、数十種類もあるタッパーの中からそれぞれのタピオカをお玉ですくい、クリームを絞り、特殊な機械でふたをする。そこまで、まじで十秒以内だった。

 カップを差し出しにっこり笑う店員の笑顔を、尊敬のまなざしで受け止める。

「ジャスミンティのほうは、氷抜きでしたよね」

「たぶんね」

 そう言いながら受け取ると、ふいに肩を撫でられる感触がして、ぎょっとして振り返った。

 濡れてるよ、と虎之助が私のコートについた雨粒を手で払っていた。


「女ってさ、なんでこんなものが好きなの?」

 エスカレーターに乗り、虎之助が太いストローの先を噛んで言った。

「だっておいしいじゃん」

「これがうまいか? 意味わかんねー」

「うぜー。じゃあ飲まなきゃよくない? あんたが自分から店に並んだんでしょ」

 若干苛立ちながら答えたが、虎之助は、構わず喋り続ける。

「だってさあ、こんなの飲み物なんだかデザートなんだか、わけわかんねえよ。これで七百円とかするんだろ。だったらラーメン食ったほうがよくね?」

「いや、ラーメンとタピオカを比べる意味が、ちょっとわかんないですね」

 私は、血管から沸き立つような苛立ちを鎮めようと、深呼吸しながら空調のダクトがむき出しの天井を見上げる。


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