第2話 冒険者ギルド加入

まだ、朝の鐘が鳴る前から目が覚めてしまった。昨日ゆっくり休息を取ったのもあるけど、興奮して目が冴えてしまった。まるで祭りの日の子供のようだ。俺は抱えて寝ていた財宝の袋の紐を解き、中をみてにんまりしてしまう。これだけできっと生涯暮らせるくらいの蓄えになるだろう。


 冷めやらぬ興奮を鎮めるために、顔でも洗いに行きたいが、さすがにこの袋を抱えて顔を洗いに行くのは不自然すぎる。鍵のかかる部屋とはいえ、万が一誰かにこの袋を取られでもしたら、と思うと部屋に置いておくというのも考え物だ。早々に宿をチェックアウトして、袋を持っていても人の目に留まらない状況を作りたい。そして、王都へ向かう道すがら、乗り合わせた人に聞いた話だと、組合、つまりギルドに加入すると、自分の資産を預けることができるらしい。俺が住んでいた村には100人程度の住人しかおらず、ギルドどころかその出張所さえもなかったから知らなかったが、手数料は取られるとしても便利なシステムだと思う。


 この財宝を捌くとして、ギルドに身分を保証してもらうことで、どうやってこのお宝を手に入れたかの背景が容易に想像できる冒険者ギルドか盗賊ギルドに所属するのがいいだろうと思う。ただし盗賊ギルドは表立って活動していない裏にある組織らしいから、まずは冒険者ギルドだな。早朝からやっているらしいから日が昇ったばかりのこの時間でもなんとかなるだろう。早速簡単に身支度をして宿をチェックアウトして、昨日夕食の給仕をしてくれた若い女性に冒険者ギルドの場所を確認する。


 冒険者ギルドへの行きがけに、朝からやっている屋台でパンに薄切りにされたハムが挟んである美味そうなものを買って、食べながら歩く。王都の商売人は朝早くから動いていて働き者だな。


 ……冒険者ギルドもものすごく繁盛していた。ここも働き者だらけだ。受付のカウンターにはそれぞれ10人ほどの行列ができている。まさかこれがずっと続くわけじゃないだろう、と考え俺は冒険者ギルドに出直すことにした。



 冒険者ギルドの近くには、まだ8時の鐘が鳴ったばかりだというのに、もう店を開けている雑貨屋や薬屋があったので、冷やかし目的で適当な雑貨屋に入ってみる。


「いらっしゃいませー」


 そう声を掛けてきたのはおそらく看板娘なんだろう年若い少女が受付をしていた。店内には数人の剣を佩いたり、金属の胸当てなどを着けている冒険者風の客がいるから、冒険者ギルドの依頼を受けて必要なものを買い込んでいるようだ。俺はひとしきり店内を見て回って、商品を手に取って悩んでいる風を装ってから受付の少女に声を掛ける。


「すまない、この辺りで両替商が空いているところはあるだろうか」


「両替ですか?今の時間だと手数料の高いところしか開いていませんよ。だいたい10時の鐘が鳴ったら普通の手数料の所も開きますけど、あと2時間くらいはかかりますから。商品の購入でしたらご覧の通り開店した手なので金貨でもお釣り出せますよ」


 古い金貨でも? と俺は訊くと、正規の両替商と同じくらいの手数料をいただいてしまいますが、と告げられたので先に手持ちの小金を手に入れるべく、冒険者がするようなポーチが一緒になったベルトを古い金貨で会計をする。ベルトが3,000フルトで両替の手数料が5,000フルト、お釣りが92,000フルトでベルトよりも手数料のほうが高くついてしまった。金貨1枚が100,000フルトだから両替の手数料の相場は1割の半分だとすると、背中に背負った袋の中にある金貨の総量からするとかなり目減りすることになってしまう。これは何か考えないとまずいなと思いつつ、お釣りの小金貨と銀貨と銅貨を受け取り、購入したばかりのベルトを装着して店を出る。なんでポーチ付きのベルトを買ったかというと後で宝石を入れようと思っているからだ。窃盗などのリスクに備える為にも、背負い袋とは別にしておいたほうがいい。


 雑貨屋から出て、また冒険者ギルドを覗くと、冒険者の列は随分と解消されていて、一番短い列に並ぶ。前にいるのは2人だからすぐに順番が回ってくるだろう。なんとはなしに周りを見ながら列の消化を待つ。ギルドで一番人が固まっているのは受付から少し離れたボードに板が複数掛けられていて、【ゴブリン討伐・証明部位両耳】【エリア 王都周辺】【討伐条件 5体以上】【】【受領資格 Dランク以上】【報酬 30000フルト】【期日 受領から2日以内】など条件が示されていて、一列で一つの依頼だろう。受領された依頼はボードから外されるらしく、職員は手元の資料を片手に忙しそうに板を付けたり外したりしている。


「次の方どうぞ」と呼ばれたので、カウンターの前まで進む。


「この町で冒険者として登録したいのですが、どうすればいいでしょう」


「はい、新規の登録ですね。他の街での冒険者として活動はされていますか?」


「いや、ここでの登録が初めてです。必要なものなども何もわかっていなくて教えていただけると助かります」


「かしこまりました。まず冒険者ギルドに登録するために、ギルド登録手数料が必要になります。これには仮登録と本登録があり、仮登録は10,000フルト、本登録は50,000フルトになります。仮登録の場合は1週間限定の登録となり、一時的に冒険者ギルドに加盟する形です。資金に余裕があれば本登録をおすすめしています。あとはギルドが発行するギルド員である証明プレートに個人の登録が必要なので、その場で血をごく少量いただきます。このプレートがあれば街の出入りや関所で通行税を取られることがなくなります。冒険者はランク制度で管理されていて、貢献度に応じてランクが上下します。A・B・C・D・E・Fランクとあり、最初はFランクからのスタートです。ここまででわからないことは? 」


 いえ、大丈夫です、とだけ答えて先を促す。


「依頼を受けるにはあちらに掲示されている依頼ボードをご覧ください。ランクに応じた依頼しか受けることができませんのでご注意を。Fランクの場合、王都内での依頼しか受けることができません。数回依頼を完了することでEランクに上がりますので、依頼状況によっては今日中にEランクに昇格することが可能です。Eランクからさらに昇格するには、ギルド内で昇格試験を行い、合格するとランクを上げることができます。依頼は失敗すると依頼料の3割が罰金として支払っていただく必要があるので、無理ないように依頼を決めてください。概要は以上ですが聞いておきたいことはありますか? 」


「資産の保管をしてもらえると聞いたんですが、どのようなものなんですか? 」


「資産の保管ですね。これはEランク以上で街の外へ出る必要がある依頼の時に、預けられる物の容量に応じて手数料と保管料をいただき、依頼の最中お預かりするものです。例えば別の街へ行く商隊の護衛や物品輸送の依頼の場合とかです。保管専属の職員が管理を行っていて厳重なセキュリティの下、管理されているのでご安心ください。そして、前払いの保管料日数分から10日以上経過しても取りに戻られない場合、預けられた物がギルドに差し押さえられてしまうのでご注意ください。これを避ける場合は物品の転送手続きをしていただき、日数が経過した時点で、登録された場所に預けられている品物をお届けするサービスがあります。ご家族などに転送される方がほとんどですね。これの手数料は転送先までの距離や条件などで費用が変わってきて、これも前払いです」


 思いのほか条件があって費用もそれなりにかかるみたいだ。ひとまずFランクは使用できないみたいだから、ギルドの登録だけ済ますことにしよう。本登録用の50,000フルトを先ほどお釣りで貰った小金貨でちょうど分支払い、職員に促されるまま、紙に記入をしていく。ギルドプレートは金属でできていて情報を刻むのに時間がかかるということで、俺は壁にかかっている依頼ボードを見に行く。Fランク依頼の内容は【庭の草むしり】【屋根の修理】【下水道のドブさらい】【3歳児の世話】などが並んでいる。【3歳児の世話】は本登録した冒険者のみだという条件があるのと今日3時間くらい面倒を見ればいいということなのでこれを受けることにした。なんだか当初の財宝換金から随分ズレてしまうが、資産の保管をできれば早く使いたい。ギルドプレートが出来上がると、【3歳児の世話】を受けることを受付に告げる。村でも時折子供の世話をすることがあったから問題ないだろう。


「早速ですね。子供の世話は大変ですけど頑張ってください」とエールを贈られた。


 【3歳児の世話】は昼過ぎから冒険者ギルドから少し歩いた住宅街の家で待ち合わせだということなので、先に場所の確認をする。場所は簡単に見つけることができたので、次はギルドプレートをもって、魔道具と豪華な装飾品を換金だ!

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