エピローグ

 こちらに寝返ったルークの命令で、占領軍は教皇都へと帰還していった。

 兵士たちも世界の果てに来てから3か月も経ち、ホームシックに掛かっているものも多かったようで、文句も言わずに皆さっさと帰還の途に就いた。

 しかし、教皇都は、また体制を立て直してやってくるかもしれない。

  

「最短3か月で戻って来れるだろうけど、冬に占領するほど馬鹿じゃないわ」

「じゃあ、それまでに戦力を拡張して……」


 僕が言葉を続けようとしたところをカルミアが唇に指を当てて止めた。

 そして、彼女は湖を望むベランダの縁に腕を預けて、沈む夕日を見ながら呟く。


「旅立ちの時が来たのよ」

「でも、カルミアさんはまだ無理でしょ?」

「船の上で産んだって構わないわ」

「ダメです。僕が許しません! 一応、僕の子でもあるんですよ」

「あら! 珍しく私にも優しくしてくれるのね?」



 結局、南方探検に行くメンバーは、僕、ニウブ、ヴァルタ、グレタ、ミュクス、セシル、ルーク、マーフィーそれにゼノン。

 超絶可愛い子たちに囲まれての船旅はうれしいけど、全員が修道女……。

 この三ヵ月は、直接的な行為が無くてもユキが慰めてくれたけど、全員ガチお堅い人たちだし、長い船旅の間、悶々とした気分をどうしたらいいのだろうか。


 僕とカルミアの話しあいから一週間後、とある場所へ帆船で物資を運ぶことに。

 そこは、教皇都がまた攻めてきても人質を捕られないように密かに作られた隠れ里。

 コハンの村は、完全に元はぐれ人のリーダーであるヒナゲシに任せることにして、追われる身のカルミアとエル、そしてユキが居ることで迷惑にならないように僕の時代には伊豆大島と呼ばれていた場所に急ピッチで造ったのだ。

 森の中に家を建て、畑も目立たないよう小さなものだけ。

 しかし、魚は豊富だし、新たな飛行艇が完成すれば、物にはさほど困らないだろう。

 僕は、帆船から小舟を出し、ゴツゴツした火山性の岩肌の岸から上陸する。

 海岸から森の中へと入って行くと、小さな一軒家が見えて来た。

 扉を開けて、中に入る。


「お邪魔します……。あれ? キキョウしかいないの?」

「あ、ああ……、みんなでキノコ狩りに行ってるよ」


 なんだかいつもと違って、キキョウはソワソワしてる気がした。

 こちらの家には、キキョウの他にクマとエル、アレクサが住んでいる。

 もう一軒の方には、カルミアとシギのカップルとユキとハルの姉妹だ。


「どうした? なんか今日は変だぞ」

「へ、変って何がだよ!」


 他の連中が気を利かせて出かけたのは分かってたけど、キキョウからお願いしてくるまでおちょくってやろうと僕は思ったのだ。


「いつも自身満々なのに、なんかオドオドしてるじゃん! でも、そうしてるといつもより可愛いな」

「な……、何言い出すんだバカ!」


 彼女は言葉とは裏腹に、顔を赤くさせながらも少し嬉しそうな表情を見せる。

 そんな彼女を見て、僕はもっと意地悪したくなってきた。


「じゃあ、さよなら!」

「え?」

「うん? どうしたの?」

「どうしたって……、来たばかりじゃんか!」

「もっと僕に居て欲しい?」

「そりゃ、だって、あの……。ゆっくり会う機会なんて3ヵ月ぶりじゃん!」

「ああ、そうだった! 3ヵ月前って僕ら何してたっけ?」

「それは、アレを……って! お前の魂胆が分ったぞ!!」

「え? 何で指先をスパークさせてるんですかキキョウさん! ぎゃっ!」


 キキョウは指先から電撃を僕に繰り出してきた。

 ちょっとイタズラが過ぎたみたい。

 ともかく、こういうときは謝り倒そう。

 僕は、土下座して平謝りする。


「すみません! すみません! ちょっと、からかっただけなんです」

「この性欲魔人が! 別にエッチな事したいから居て欲しい訳じゃ無いんだからな! しばらく会えなくなるから、一緒に二人っきりの時間を……うぅっ……」

「あー! 泣くのはズルいっすよ! そりゃないぜキキョウさん……」


 僕は慌てて、キキョウに駆け寄った。

 しかし、屈みこんでいるキキョウの顔をよく見ると、涙の跡が見えない。

 もしやこれは、ウソ泣き?!


「やーい! 騙されてやんの!」

「クッソ……。単純バカのキキョウに騙されるなんて、我が人生一生の不覚!!」

「お前、また電撃喰らわすぞ……」

「すみません、お許しを」

「おい、その手はなんだ?」


 僕は謝りながら、彼女を抱きしめて、手を体に這わせて行き……。


「すみません! すみません!」

「こら! あん! バカバカ!」


 なし崩しに的な方向へ持っていこうとした。

 だって僕に抱き着かれながら、彼女は電撃を繰り出してこないし。

 そのまま、服を脱がそうと紐に手を掛けた時。


「ここじゃイヤ……。部屋まで連れてって」

「分かった……」


 お姫様抱っこして、彼女を運び入れた僕は、3か月ぶりの情事を心ゆくまで楽しんだ。

 気がつくと、窓の外が真っ暗に、ヤリ疲れて知らない間に寝てしまったようだ。

 僕は慌てて服を着こむ。

 何故なら、ユキに会いに行かないといけないからだ。


「ううぅん……。あれ? もうこんな時間?」

「じゃあ、また明日なキキョウ!」


 寝ぼけ眼のキキョウを置いて、部屋から飛び出した。

 

「ゲゲッ!!!」


 なんと、飛び出した先の広間には開拓団のメンバー全員と船に乗っていたナインシスターズ、それにユキとハルの姉妹が勢ぞろいしていたのだ。


「み、みなさんなんでここに?」

「何を言ってるのタスクくん? 明日の出港を祝してパーティーをここでするって聞いてなかったの?」


 カルミアが言った事は、もちろん聞いていた。

 でも、すっかり忘れていたのだ。

 僕は恐る恐るユキの方を見る。

 彼女はニコニコしている。

 これは大丈夫そうだと思い、彼女の傍へ。


「早く行けなくて御免!」

「ここにいらしたのですねタスクさん。来てくれなくてユキは寂しかったです」

「僕も寂しかったよ………って、イタタ!」

「多少のおいたは良いですけど……、嘘はダメですよ」


 表情を変えずにツネってこられるのは逆に怖いということを僕は初めて理解した。

 そんな感じで肝を冷やしていると、ゼノンがスパークリングワインの入ったグラスを配ってきた。

 最後まで抵抗していた彼女も敗北後すぐに寝返ったのだが、順番が最後だったので一番下っ端の扱いを受けているのだ。

 

「お、ありがとう」


 と、グラスを取ろうとしたら、ユキに止められた。


「酔って寝ちゃうのはダメです」

「はい……」


 最後なので、居残りの女の子たちと話しておきたかったけど、彼女の傍を離れずずっとご機嫌を伺わないといけなかったので、そんな余裕など無かった。

 パーティーが終わってから、一緒にユキの部屋へ。

 いつものように一緒の布団に入る。


「もう、明日出発かぁー」

「なんだか変なこと言いますけど。この三か月間が一番、タスクさんが私を大切にしてくれたように思います」

「そうだったかなぁ? 生きるのに精いっぱいで、何もしてあげれなかったような気がするよ」

「そんなことないです。そんなこと……」


 そのまま、いつもと変わらない夜が過ぎ、朝を迎える。


 帆船に向かう小舟に乗り込む前に、見送りにきたみんなに別れの挨拶をする。


「それじゃあ、行ってきます」

「期待してるわ」

「早く帰ってきてくださいね」

「土産待ってるでー!」


 最後に、ユキを抱きしめ別れを惜しむ。


「なるべく早く資源を集めて、帰って来るよ」

「あまり焦らずゆっくり探してください。そんなにすぐ赤ちゃんは大きくなりませんよ」

「うん……」


 僕は小舟に乗り込み、沖に停泊する帆船を目指す。

 僕の様子を心配して、隣に座るニウブが声を掛けてくる。


「大丈夫ですかタスクさん?」

「あー! クソッ……。僕がしっかりしなくちゃ!」


 僕は両頬を自分で叩き気合を入れ直した。

 風魔法の力を借りれば、1か月掛からずに目指す東南アジアへたどり着くはずだ。

 天然ゴムを手に入れれば、タイヤやシーリング、そして圧力容器が出来る。

 圧力容器が出来れば、ハーバーボッシュ法でアンモニアの大量生産が出来るのみならず、あらゆる物質を新たに作ったり、高純度の物質を作る元となるはず。

 残ったメンバーも新潟の石油探索をしてくれる。

 これらの素材から、いよいよ再発明も20世紀の技術へと到達するだろう。

 僕は、この先の未来を夢見て大海を進む。

 それが、世界の謎を解明し答えを出すことを目指して……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法と知識で科学チート! ~ 開拓村の奴隷発明家 めがねびより @meganebiyori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ