勉強と恋愛での葛藤

ある時、ふと誰かが問いかけた。

『学生時代で勉強と恋愛、どちらを取る?』

ある時、ふと誰が答えた。

『今、幸せになるなら恋愛、後々、幸せになるなら勉強だろー』

そう後々のことを考えると圧倒的に勉強の方を取るのだ。

学生時代の甘酸っぱい青春?そんなのナンセンス。

勉強が一番!そう勉強が一番なのだ!


「うるせぇー!!」


柴田蒼は怒号をかましながら、勉強雑誌を地面に叩きつけた。

そして怒りに身を任せながら表紙に『高校三年生から始める勉強方法』と書かれた勉強雑誌を何度も何度も踏みつけた。


「何が!そんなのナンセンスだ!恋愛こそ学生生活の醍醐味だろうが!勉強勉強うっさいなこの勉強雑誌は!洗脳教材か?これは洗脳教材なのか!?それに何だ!後々、幸せになるなら勉強だろー、だと?今を幸せに生きれない奴に、後々幸せになるとかそんなことできるわけネーダロォ!!」


柴田は冷めやまぬ怒りを壊れたロボットのように復唱していた。

最近、彼の勉強の具合が悪いことの腹いせとして、恋愛に勤しんでいる者たちをわら人形で呪いをかけようと思ったほど憎んでいたので、圧倒的に説得力が無いのだが。


「まぁ、落ち着けって」


荒れ狂っていた柴田の友人、山根が彼を止めるように肩を掴んだ。

それはただ止めるだけが目的ではなく、どこか同情心を含んでいるようだった。


「山根……」


「お前がモテないのは俺らはちゃんと・・・・知っているから」


たった一言。

たった一言を言っただけで柴田はその場に崩れるように倒れこんだ。

まるで顎にアッパーを食らったかのように彼の顔は天を仰ぎ、地面に引き込まれるようにその場に膝をついた。


「…俺はただ勉強もそこまでサボってなどいない。むしろ上位層に食い込んでいる方だ。運動だってそうだ。帰宅部という位置どりでありながら、運動部に負けないほどの運動能力はあるはずだ」


柴田は顔をうつ向けながらも自身を鼓舞するようにブツブツと呟いた。

魔法のようなものを唱えるかように見られてもおかしくはない。

ただ自分が自信を持って他人に自慢できるようなことをただ呟いているだけだった。


「つまりお前は文武両道だと言いたいんだな」


数秒ほど前に渾身の一撃と言う名の言葉の暴力を柴田に放った山根が再び同情する目線でそう言った。

しかし、先ほどとは少し違った。

山根は柴田の隣にしゃがみ込んだのだ。

これは数秒ほど前とは雲泥の差がある友人としての態様だ。

山根には柴田の言葉を真摯に受け止めようとする心がけがあるのだ。


「ああ。俺は文武両道なはずなんだ。なのに、なぜモテない!」


柴田は力強く言った。

まるで残り少ない命の火を誰かに託すかのように弱々しくとも力強く言った。

そしてその声は全体に聞こえてしまうほど大きな声だった。

勉強雑誌を地面に叩きつける後に出した声より大きく、全体に聞こえてしまうほどだ。

そう全体に。


「そういうことを自分で軽々しく教室内で叫んじゃうあたりだろ」


山根はとても冷淡に言った。

そっとつぶやくように。

柴田が教室全体に聞こえるように叫んでしまったのとは対照的に彼は柴田にしか聞こえない声で言った。







「……………………………あ、すみませんでした」

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ALWAYS〜しょうもない高校生の日常〜 @chachakotaro

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