第8話 志願者達
RX28年5月5日 15時 イレクト大阪支部訓練所 叢雲サイド
イレクト入隊テストには前年の10倍に当たる300名の人材が集まった。
これは4月9日に起きた捨狼のイレクト大阪支部襲撃事件による影響が大きい。
忘れていた悲しみが人を目覚めさせたのだろう。
だけど入隊志願者達の瞳は何というか……とても曇っていて僕は怖く感じた。
でも紛れもなくみんな戦う意志を持っている。
僕とは大違いだ。
彼らの様な強い意志を僕はもっていない。
でも……これは本当に正しい事なのだろうか?
イレクト入隊テストが始まる。
入隊志願者には訓練用EDELが配られ稼働時間をチェックされる。
チェックする人員として僕も訓練所に配備されていた。
僕がチェックするのは20代~30代の男女30人だ。
ガキの僕にチェックされるのがあからさまに嫌そうな人も多いがこれも仕事だ。
僕は訓練所を歩き回り志願者達のチェックを始めた。
志願者達はEDELを起動させ、EMETH細胞核の外皮を形成させて歓喜していたがすぐにテストの意味を理解する事になった。
EDELの起動は体に大きな負担をかけるため、連続的に使用するには才能が必要になる。
開始して50分が経った時、20代男性の前で僕は止まった。
入隊の動機は妻を殺した者達への復讐と書かれてあったが彼の復讐が果たされることはないだろう。
……現実は残酷である。
EDEL使用の安全基準は連続する24時間における使用時間を3時間としている。
これは使用者のゴーレム化を防ぐために世界基準として設けられたものだ。
言い換えれば3時間はEDELにおけるEMETH細胞核の外皮を保てなければ使い物にはならない。
彼が外皮を形成できる時間はわずか50分……。
イレクトではEDEL不適合者と言われる部類である。
どんなに強い志があったとしても戦場にすら立たせてもらえない。
努力のしようがない才能の限界。
僕は男性の肩を叩く。
彼の外皮はもうどこにも出ていない。
しかし、彼の瞳はまだやれると言っていて震える口で言葉はなんとか吐き出す。
「こ、子供が生まれるはず……だったんだ。俺と妻の……。俺が……俺が仇を……」
彼は自分を奮い立たせ、何度もEDELを起動させてはいるが……
もうEDELが起動する事は無かった。
「動けよ! 動いてくれよ……」
彼は訓練用EDELを叩き懇願するが何も起きず、バランスを崩し床に倒れ込む。
それでもまだ立とうとして足に力を入れるが疲労が襲い、立ち上がる事すらできない。
行き場のない怒りからか自分の不甲斐なさからかは分からないが、自分の足を叩き続けた。
もちろん彼だけがEDEL不適合者ではない。
僕が担当した30人の内、3時間を維持できたものは2人だけであった。
全体では27名しか合格者はいない。
世の中は理不尽である。
挑戦する事すら許されない人達がいる。
諦められないのに諦めるしかない彼らの崇高な志はどこに行くんだろうか?
ディマイズゴーレム @roshing
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