第7話 訓練
RX28年4月11日 11時 イレクト大阪支部訓練所 叢雲サイド
イレクト大阪支部の地下にある訓練所は白を基調とした内壁と柱があって滑り止めが施された床で構成されている。訓練所は全部で10部屋に区切られていて状況に応じ、区切りが取り払われ広いフィールドを形成する事ができるが今は10部屋となっていた。
10部屋の1室で引臣副隊長が目を細め、僕を哀れんでいる。
「誰かに与えられた力だけでどうにかできると思ってるのか?」
僕は地面にはつくばり引臣副隊長を見上げる。
何か言い返したいが言葉が出ない。
口はだらしなく開き酸素を求め呼吸を繰り返す。
睨みたい所だけど目の前が霞み意識はもうろうとしている。
脈は異常に速く、汗をぬぐってもいたる所から噴き出してくる。
EDELを使った模擬戦を引臣副隊長とする事になったが結果は散々だった。
引臣副隊長に一撃も入れられない。
攻防一体の四天霧雨流という暗殺拳を前に僕の攻撃は軽くいなされ、隙だらけとなった急所に鋭い一撃が叩き込まれる。
EDELの性能は僕の方が圧倒的に上なのにどうして……。
やっぱり才能がある人しか戦えないんだ。
僕なんかが戦った所で……。
「今、後ろめたい事を考えただろ?」
引臣副隊長が眉間にしわを寄せ、僕を睨みつける。
「そんなことはありません」
即答で返したつもりだったがバレバレであった。
「お前は弱い。でも諦めなければ強くなる」
御出隊長にも言われた。
その言葉を信じて僕なりに頑張ったつもりだ。
でも僕は一向に強くなんかならなかった。
EDELの性能によるゴリ押しで勝負を決める。
パパからもらった凄い力も僕が使えば単なるゴミだ。
気が付くと僕は床を叩いていた。
渇いた音が響く。
「僕は引臣副隊長と違って強くなんかなれません」
「お前が俺の何を知ってる?」
「EDELが無くても凄い才能に溢れてる」
引臣副隊長は僕を鼻で笑った。
「俺は四天霧雨流の継承者の3番目の末弟として生まれた。兄貴たちは俺なんかよりもはるかに才能に満ちあるれていたが才能が一番なかった俺が四天霧雨流を継いだ。どうしてだと思う?」
「……諦めなかったからですか?」
「そうだ。諦められないから強いんだ。そこには自分がある」
「自分?」
僕は首をかしげたが引臣副隊長は何も答えてくれず、急に敬礼をする。
気が付くと御出隊長が立っていたので僕も慌てて立つと敬礼をした。
御出隊長は僕に話しかけてきた
「頑張っている様だな」
「いえ、僕は……」
御出隊長は何も言わず僕の肩をポンと叩き引臣副隊長を見た。
「ああ、そう言えば引臣あの報告は本当か?」
「はい。間違いありません。4月8日23時に捨狼の戦闘員が通天閣跡地にEMETH爆雷を仕掛けたようです。証拠の映像は現地で確認してきました」
「そうか。噂は本当だったか」
イレクト大阪支部の各支援エリアでは4月9日に起きたゴーレム群のイレクト襲撃事件は捨狼が引き起こしたものだと巷では騒ぎになっていた。
「暴動にならなければいいですが……」
「そうだな」
御出隊長は複雑な表情で訓練所を出て行った。
ゴーレムという共通の敵がいるのにどうして捨狼はこんな酷いことを平気で出来るのだろうか?
僕にもっと力があれば状況を変える事ができるのだろうか?
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