両津勘吉になれなかった僕たちと、愛人が12人いるらしい2丁拳銃の小堀

@akihik0810

第1話

 まったくモテない人生であった。と過去形で書くと、今から死ぬのか、あるいは今はモテているのかと思われるかもしれないが、そんなことはなく、生憎と私は死ぬ予定はなく、おまけに今もってまったくモテない人生である。

 となんでこんな書き出しで始めたかと言うと、今日を機にモテたいと思ったからで、今からモテてモテてモテまくるぞ、と宣言しようと思ったからである。しかし、モテるぞと宣言したところで、モテるわけでもなく、私は今途方に暮れている。

 子供の頃から、こち亀の両さんに憧れていた。いや、正確には、私含めた小中学生男子は皆、両さんに憧れていた。これは間違いない。仮面ライダーに憧れてライダーキックの練習をしている小学生も、ジャニーズJrに憧れダンスの練習をしている中学生も、こち亀を読んでひそかに両さんになりたいと心の底で願っていたのだ。 なぜ男子は、両さんに(典型的なダメ人間なのに)憧れるのだろう。…それは子供が初めてみる「なんかわかんねーけど、楽しそうな大人」像だからだ。朝早く会社に行ってしまう父親が何してるかなんて想像つかないし、僕たちはどうせ芸能人にはなれっこないだろうけど、好きなことを極めれば両さんみたいな大人になれるかもしれない、と思わせてくれるのが両さんなのだ。なんせ仕事は公務員(警官)で堅実だし。趣味に強くて破天荒で、人情深くて友達も多く、時間があれば遊んでる大人…それが子供たちの両津勘吉像だ。

 私は少年ジャンプを購読してなかったから、友人の小野田君からジャンプを見せてもらうときには必ずこち亀を読んで両さんの活躍に思いをはせた。バカで、ドジで、最後は必ず失敗するけど(ギャグマンガだからな)、毎日なんだか楽しそうにやってる大人像がそこにはあった。

 私も小野田君も、両津勘吉みたいな大人になりたかった。

 あれから時間はすぎ、私は大人になった。普通の大人になった。両津勘吉になるには相当のセンスがいるようで、私は両さんのような破天荒な大人にはなれなかった。なんとか多趣味な人間になったけど、それだけだ。

 小野田君も大人になった。小野田君は私と別の高校に進学し卒業後に地元で就職し、結婚し、いわゆるマイルドヤンキーになり、子供を作り父親になった。もう小野田君とは連絡をとっていないのだが、以前風の噂で聞いた。私は大人になるにはなったが、恋人ができたこともなく、人生足踏みしている。

 そして先日、知人から、小野田君は愛人を作って失踪したらしいと聞いた。シッソーなんて普通は使わない言葉が出てくるのだから、多分本当に愛人を作って失踪したのだろう。

 モテない私は、愛人まで作るなんてモテてすげぇやと思ったのだけど、実際小野田君はどんな生活をしているのだろう?失踪した先で、今もこち亀を読んでゲラゲラ笑っているのだろうか?…たぶん違う気がする。失踪ってなんか後ろ暗い。それに両さんなら借金踏み倒して逃げることはあっても、愛人と失踪はしないだろう。小野田君も、どうやら両津勘吉にはなれなかったらしい。

 みたいなことを考えていると、「愛人は12人! お笑いコンビ・2丁拳銃の小堀がモテる理由」というニュースがツイッターに流れてきた。愛人12人。

 どうせやるなら小野田君もこれくらいやってほしいと思った。できれば小野田君にも愛人が12人いてほしいなぁ。それで愛人たち12人とこち亀を読んで、ゲラゲラ笑っていてほしいなぁ。

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