最終話『約束』



 


 はじめに言っておこう。


 俺は異世界からの帰還者だ。


 そして今は世界各国を飛び回る旅人、


 旅をする理由は、ただ一つ、






 いつか交わした、約束を果たす為だ。






 確信がある訳じゃない。それでも俺は、旅をする。たった一つの約束を守る為に。



 俺の乗った飛行機は、スイスの空港に到着した。日本語ではない言葉が飛び交っていて実感する。ここは日本ではない。

 数ヶ国、この一年で回った。貯めていた貯金も底を尽きかけている。でも、この国に降りてから、やけにポケットの中があたたかい。



 街に出てみた。

 スイスの首都まで来た俺は、何となく懐かしいと感じた。あっち側に良く似た建物が並んでいるからか。向こうにいた時間なんて、ほんの数ヶ月だってのに……とても長かったように感じる。


「……あ……ここ、は……」


 確か、社員旅行で来たな。ベンル旧市街の目抜き通り。そうだ、この先に時計塔が……


 ……時計塔……


 ポケットが熱い。俺の歩く速度が自然に上がっていく。確信なんてない……だが……この先に……



 ……あった。ツィットグロッゲ、時計塔だ。



 声が聞こえる。懐かしい声。



 振り返ると数人の男に言い寄られた、背の低い、それでいて胸の大きな少女がいた。


 覗けば人が映るのではないかと思わせる、綺麗な銀色の髪は腰の辺りまで伸びていて、先の方はリボンで結っている。桜色の瞳をしたその少女は、俺を見ると、助けを求めるようにアイコンタクトを送ってきた。


 俺は群がる男達を散らせると、少女の顔をじっと見つめてみた。……あぁ、懐かしい。


 少女は垂れ目がちな瞳をパチクリさせながら、俺を見上げている。

 俺は少女の前で低く屈み、ポケットから小さな小箱を取り出した。とてもあたたかい、小さな箱。

 そしてそれを開けて、中から少女の髪の色に似た綺麗な銀色の指輪を取り出した。



 少女は驚いている。

 それも無理はないだろう。彼女の記憶は、心の奥、深いところに沈んでしまっているのだから。

 いきなり、この人は何をする気だろう? と警戒している。


 彼女は、この世界で人生をやり直した。


 この世界に『転生』してきた、ミアの生まれ変わり。


 恐らく、十五、六年、いや、少しばかり背が伸びているのを見ると、もう少し前か。俺の知ってる彼女より、少しばかり大人になった姿。


 憶えてはいないだろう。それこそ、赤子からやり直した訳だから。



 それでも、俺は信じている。……彼女は……



 ミアは……俺を思い出してくれるって。だから俺は、もう目は背けない。


 言わないといけない……約束の言葉。





「……俺と、結婚してください。」





 少女……いや、ミアは、何かを思い出したかのような、そんな表情で俺を見ている。


 俺は、彼女の細い指に、約束の指輪をはめた。




 ミアは、ポロポロと大粒の涙を流した。そして、震える唇で、確かに言った。








「……はい!」









 俺はもう、これ以上、何もいらない。










           完






 なんと、『魔王の娘』がなかまになりたそうにこちらをみている!

 〜約束、プロポーズは『異世界』で!〜


 present by 語りぬこ


 

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なんと『魔王の娘』がなかまになりたそうにこちらをみている。〜約束、プロポーズは『異世界』で!〜 カピバラ @kappivara

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