第2話

 諦めたわけじゃないだろ。仕方なかったんだよ。いちいち指摘すんなよ。


「カサブタの蓋を剥がすと効くな」

 少女は上裸で自身の二の腕をひっかく。

「……重複」

 ガタガタと震えながら少年がぽつり言うと、棚から“憂鬱”と書かれた将棋の駒のようなモノが大量に落ちてきた。

 それを並べると、彼はおもむろに立ち上がり、「……報復。破壊を壊し、究極を極める」駒を並べ始めた。

「いくらだ……?」

 少女が尋ねると、

「……三枚」

 少年はとっさに答えた。

 パチリ、と空調があまり機能してない部屋に響く音を飲み込むように天井は様々なロールシャッハのなりぞこないを映す。

「おいおい、そいつァ禁じ手だろ」少女が膝を打つと、

「……上、着たほうがいいよ。寒いし」少年はニヤリと口角を上げる。

 部屋には蒸留酒の空き瓶が散らかっていて、苛つきを抑えられなくなった少女はそのひとつを手に取り、盤に叩きつけた。

 飛び散った破片は少女の半身に跳ね返り、少年は上着をひらりと翳してそれを避けた。

「ってェ……! ふざけんなよ。これだからボードゲームは最悪なんだ。現実と変わらないぐらいクソだね」

「……だから上は着てたほうがよかったのに」


 明日が来るなら、今日を終わらせてからにしてくれ。

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お前んちの家にいる心の闇を名付ける権利を売ってくれ 玄野睡眠 @kuronochan

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