最終話 その後の魏延
龐統から晋崩壊の知らせを聞いた劉備は参内して劉協に報告、漢王朝再興を共に喜んだ。
その後劉備は諸葛亮と協議を行い洛陽に遷都する方向で動き始めた。
濮陽に集結していた四軍はそれぞれの根拠地に戻り軍を解散させた。
魏延は河北に戻ると公孫淵も交えて各人の暫定的な担当地域を定めた後、晋陽に向かい河北西部の復興と治安維持回復に努めた。
翌年遷都の準備が整ったので劉協が洛陽に入り、正式に漢王朝再興を宣言した事で長く続いた戦乱の世が終わりを告げた。
劉備は劉協の要請を受けて漢中王のまま摂政的な地位に就き、丞相諸葛亮の補佐を受けつつ全土に善政を施いた。
劉協は遷都の翌年早々譲位を宣言して劉備を後継に立てた。
帝位を譲った劉協は洛陽を離れて再び成都に戻り、夫人の伏寿と共に民との交流を楽しみながら平穏な余生を送っている。
劉備は帝位に就いた後も驕ることなく昔と変わらない態度で周囲に接しており、また民を思いやる政治姿勢もあって名君としての地位を揺るぎないものにしている。
皇后になった孫尚香は劉備との関係は大変良好で仲睦まじく劉禅以外に数名の男女を儲けている。
また太傅に抜擢された韓玄の協力を得て、嫡子劉禅を甘やかすことなく次期皇帝として相応しい人物に育てるべく日々奮闘している。
荊州牧の劉封は引き続きその地位に留まり、その一族は荊州劉家として本家の血筋が途絶えた時に帝位に就く事を定められた。
劉封は子孫に対して自ら帝位を望まず本家を支える事のみに全力を尽くせという家訓を定めている。
孫権は帝位に就いた劉備に対して再度臣従する姿勢を取り、洛陽に上洛して劉備の眼前において王位を返上、呉公の地位を授けられた。
その後は大都督陸遜と共に水軍の整備に着手、漢水軍に発展させ海岸部に睨みを効かせる存在となり王朝内で枢要な地位を築いている。
諸葛亮・龐統・法正・諸葛誕の四人は引き続き重要な地位に就いて劉備を支えた(諸葛亮→丞相、龐統→大尉、法正→軍師中郎将、諸葛誕→御史大夫)。
関羽を始めとする歴戦の猛将たちも新しい任務を与えられ、必要とされる場所に向かった。
魏延もその中の一人であり、出立前に洛陽で友人たちと別れの盃を交わしていた。
「兄弟なら希望すればどこでも与えられただろうに。勿体ないぞ。」
「私は陛下から厚遇を得ている。これ以上望めば罰が当たるというものだ。」
「胡車児の言う通りお前は欲が無さすぎる。どうせなら俺の補佐役に引っ張れば良かったな。」
「将軍の補佐役なら喜んで同行していましたよ。」
「本当か?そこに居る酒飲み大尉に捩じ込めば良かったな。」
「酒飲み大尉で悪かったね。お前さんも補佐役無しで差配する良い機会だよ。何時までも人に頼っていちゃ駄目だよ。」
「酔っぱらいに正論言われると虚しくなるな。」
「まあまあそのくらいにして今は酒を楽しみましょう。」
張飛の部下として襄陽で暮らしていた時代に幾度となく酒を酌み交わしていた四人である。
この日も普段と変わらず、真面目な話に馬鹿話を交えるなど和やかな雰囲気であった。
◇◇◇◇◇
魏延は洛陽での所要を済ませると一軍と家族を伴い任地へ向かった。
魏延が任されたのは楽浪郡(現在の朝鮮半島一帯)である。
その一帯は小国が乱立しており民も貧しい暮らしを強いられていた。
前任者である公孫淵も対応に手を焼くほどである。
公孫淵から北方の蛮族対応に追われて楽浪郡に手が回らないと知らせが入ったので諸葛亮と龐統が話し合いを行い、魏延に白羽の矢を立てた。
魏延は楽浪郡に入ると間髪入れず行動を起こした。
率いてきた一軍を率いて小国群に攻め込み、次々と潰して一年程で半島全域を制圧した。
その後返す刀で襄平に向かい、公孫淵と合同で北方蛮族の本拠地を攻め落として従属させる事に成功した。
楽浪郡に戻った魏延は洛陽の許可を得た上で半島全域を一年間無税にするなど人心の掌握に努めた。
劉備は情勢が落ち着いたのを見計らって半島南部を帯方郡として分割、魏延を帯方郡太守として南端にある伽耶を本拠地とさせた。
魏延は帯方郡太守をしばらく務めた後、後進に役目を譲り表舞台から姿を消した。
その後も伽耶に居を構え晩年まで太守らの助言役を務めるなど最期まで国の為に尽くしたと記録に残っている。
◇◇◇◇◇
これで「魏延が行く」は終了となります。
最後までご覧頂きましてありがとうございました。
読者の皆様には感謝の言葉しかありません。
次の機会をお待ち頂ければ幸いです。
魏延が行く(完結) あひるさん @GE-AHIRU
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