第119話 決着
龐統率いる別働隊は後始末を終えると濮陽城付近にある本営に帰還した。
その知らせを受けた魏延は本営に向かい龐統が無事に帰還した事を祝う言葉を述べた。
そこで司馬昭の最期を知る事となった。
「葫蘆谷と同じではないか。」
龐統から話を聞いた魏延は思わず呟いた。
前世で諸葛亮の策で司馬懿を誘い込み火計を用いて絶体絶命に近い状態まで追い込んだが天候が急激に悪化したので司馬懿は九死に一生を得る事が出来た。
その際に誘導役を担っていた魏延も巻き込まれて一歩間違えれば命を落としていた。
後に諸葛亮が軍規に従わない魏延を策に乗じて始末しようと画策していた事が明らかになり、魏延と諸葛亮の対立が決定的となる出来事であった。
現世の魏延は前世の自身を反面教師としているのであのような事態に陥る事は有り得ない話だが、何が起きるか分からないので魏延は今回の件を自身に対する戒めとして心に刻む事になった。
それから数日後、濮陽からの使者が荊州軍本営を訪れて正式に降伏する事を申し入れた。
龐統が本営に帰還すると降伏兵を用いて濮陽に対して降伏勧告を行っていた事が数日も経たない内に効果を表した形になった。
◇◇◇◇◇
魏延は龐統からの要請で降伏の使者と共に濮陽城へ入城した。
使者は城内に住む長老たちの依頼で使者として龐統の元を訪れたので司馬一族の動向は全く掴めていなかった。
魏延は長老たちとの顔繋ぎが無事に済んだので龐統に報告するのと並行して本殿内部の調査を始めた。
何らかの罠が仕掛けられている可能性も捨てきれないので調査は慎重に行われ、魏延も数名の兵士を伴い自らも一員に加わった。
本殿は人の気配がなく、司馬昭が全てを持ち出していたのでもぬけの殻になっており静まり返っていた。
「将軍、あれは?」
広間に入った兵士が奥まった所に据えられている大きな椅子に誰かが座っているのを見つけた。
魏延たちが近づいても椅子に座っている人物は何の反応も見せず顔を俯けたままで動く気配すら無かった。
魏延は椅子に座っている人物の顔を見ると思わず天を仰いだ。
「司馬懿…。」
その人物は晋王司馬懿であったが既に死んでいた。
司馬懿は司馬昭が濮陽を脱出した際、病人だったので置き去りにされていた。
起き上がることすら困難な状態だったが、身体を引きずるように玉座まで歩を進めて何とか座ったところで力尽きた。
「敵とはいえ王を務めた御仁だ。丁重に葬るようにしてくれ。」
「承知致しました。」
魏延は兵士に指示を出すと本殿を離れて龐統が居る荊州軍本営に向かった。
◇◇◇◇◇
魏延は龐統と対面して本殿内部における事の顛末を説明した。
「しばらくの間は濮陽周辺の治安維持が必要になるからお前さんにも頑張って貰うよ。」
「承知致しました。」
魏延は報告を終えると河北軍本営に戻り、自分の幕舎で一人になった。
晋が事実上崩壊した事で劉備による漢王朝復興は実現した。
魏延は前世からの宿願が成されたので感慨深いものがあった。
しかし司馬一族の最期を目の当たりにして魏延は虚しくなり恐ろしくもなった。
位人臣を極めた者も一歩間違えると哀れな最期を迎える事になるのをまざまざと見せつけられた。
これからは戦のない世が始まる。
自分がどのような地位や身分になるかは分からないが、より慎重に立ち回らなければならないと自らに言い聞かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます