アラサー転生記

@yabukagakusha

チュートリアル

#1 転生


 ーーーユニークスキル「#$&#*@+!¥」を手に入れた


 今日はついている。

 午後に入っていた会議がなくなり、めずらしく定時に退社することができた。

 とはいったものの、定時に終わったところでやることもないので、後輩を飲みに誘う。


 「山田君、この後暇?」

 「すいません。今日はちょっと・・・」

 「何か予定でもあるの?」

 「はい。妻の誕生日なので、ケーキでも買って早く帰ろうかと。」


 何だ?独身の俺をからかってるのか?

 くっそー。羨ましい。

 若くて、イケメンで、仕事が出来て、結婚している。

 まさに人生勝ち組だな。

 それに比べて俺は、アラサーで、顔も良くなくて、仕事も出来ず、出世しない。

 結婚どころか彼女がいたこともなく、女の友達すらいない。

 完全に人生負け組だ。


 あーあ。人生やり直したいなぁ。


 「先輩?どうかしたんですか?」

 「あぁ、いや、なんでもない。飲みに誘おうと思っただけだ。じゃぁ、また明日。」

 「はぁ・・・。おっ、お疲れ様です。」


 仕方ない。せっかく時間があるのだから、早く家に帰って溜まっているゲームでもやるとするか。


 「俺も結婚したいなぁ。」


 帰りの電車の中で、人生を振り返ってみる。

 学生時代、勉強はそこそこにできたはずだし、運動だって平均くらいには出来ていた・・・はずだ。

 社会人になってからは、毎日が仕事で忙しかった。

 その間に同級生の結婚式に何回か呼ばれた気がする。

 仕事ばっかで出会いがなかったしなぁ・・・

 なんだか悲しくなってきた。


 電車を降りて家に向かう。


 「あれ・・・?鍵がないな・・・・」


 そういえば今朝鍵をかけた記憶がない。 朝は急いでいたし鍵を掛け忘れたか・・・

 危ない危ない。会社まで合鍵を取りに戻る羽目になるところだった。


 ガチャッ・・・


 「よかった。鍵は開きっぱなしだ。」


 ・・・・・・・・・


 何故か嫌な予感がした。


 ーーースキル「危機感知」を手に入れた


 自分の家にも関わらず、恐る恐る中に入る。


 ・・・グサッ・・・


 「痛ってぇ!!なんだ!?」


 ーーースキル「苦痛耐性」を手に入れた。

 ーーースキル「物理耐性」を手に入れた。

 ーーースキル「恐怖耐性」を手に入れた。


 突然の強烈な痛みに思わず大声を出す。

 脈が波打つ。

 ヤバい。

 これはヤバいやつだと本能が訴えている。

 心臓の音がどんどん大きくなる。

 痛い。

 体が熱くなってきた。

 体中から汗が噴き出してくる。

 痛い。

 熱い。

 痛い。

 熱い。


 ーーースキル「火炎耐性」を手に入れた


 脳の思考回路が焼き切れそうだ。


 ーーースキル「思考補助」を手に入れた


 アドレナリンがどんどん出てくる。

 痛みのせいで現状が理解できない。

 目がうつろになってきた。


 ーーースキル「麻痺耐性」を手に入れた


 焦点が合わない目で周りを見る。


 ーーースキル「視覚補助」を手に入れた


 近くに誰かが立っている気配がするが、暗くて見えない。


 ーーースキル「暗視」を手に入れた


 床には真っ赤な水溜まりができている。

 それが自分の体から出た血で出来ていると理解した時、俺、北野優希は死んだのだ。




 ーーースキル「死亡耐性」を手に入れた




-------------------------




 ーーー魔法「平静空間(カームフィールド)」の抵抗(レジスト)に失敗した




 今、俺はどこかにいる。

 自分が存在しているという感覚はある。

 なぜなら今、こうして考えることが出来ているからだ。

 でも、ここがどこかはわからない。

 とりあえずわかっているのは、痛いという感覚はなくなったということ。

 まぁ、それ以前に自分の体の感覚がないのだが。

 とりあえず、自分の状況を整理してみる。

 俺はあの時、家にいた空き巣犯と思われる人物に殺された。

 せっかく早く帰れたのに、ついていなさすぎる。

 なぜかわからないが、自分が死んだということは簡単に受け入れることができた。

 両親は俺より先に他界し、兄弟もいない。

 結婚もしていないので、俺が死んでも悲しむ家族がいない。

 溜め込んでたゲーム、やりたかったなぁ。

 生まれ変わったら、静かな田舎でゲーム三昧の日々を送りたい。

 そう考えた時だった。


 「うっ、まぶしい。」


 真っ暗だった謎空間が一気に明るくなった。

 というか眩しすぎて、目が見えない。


 「そなたの願いは転生。そして、ずっとゲームをしていたい。それでよいかの?」


 老人のような男性の声で話しかられた。

 周りを見回しても誰もいない。

 無視は良くないので、独り言のようにつぶやく。


 「もう人に殺されたくないので、田舎でのんびりと、ゲームをしながら過ごしたいです。」


 なぜかわからないが、こんな状況なのに落ち着いて話すことができた。


 「良いだろう。そなたを異世界へ転生させてやろう。転生後に言語などで困らないようにはしておいてやろう。人生をやり直したいという希望に答え、若返りもさせておいた。それでは、邪神を倒してきておくれ。北野優希よ!さらばじゃ!!」


 「えっ!?」


 邪神とかいう危ないワードが聞こえてきた気がする。

 俺の願いは、楽しく田舎で生活する事なんですけど。

 邪神退治なんていう危なそうなことはしたく無いんですけど。

 しかし、そんな質問をする間もなく光は消えてしまった。

 なんだろう。厄介ごとを押し付けられた気がする。




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 「う〜ん。頭が痛い。えっと、ここは・・・?」


 俺は少しずつ記憶を取り戻す。


 「転生した・・・のか・・・?」


 周りの明るさに慣れて来た目で、周囲を見渡す。

 そこには・・・何も無かった。


 ーーースキル「空間把握」を手に入れた


 ただひたすらに広い草原。

 俺は絶望する。


 「ここって田舎というか、未開の地なんじゃ無いか?静かに暮らすどころか、人間に会う前に餓死しそうなんだが。言語で困らないようにとか言ってたし、人間はいる・・・よな・・・?」


 考えていても仕方が無いので、とりあえず現状把握に努める。

 まずは自分の体を見る。

 怪我はないし、若返っている。

 うん。

 説明されていたし、あんまり驚かない。

 年齢的には17〜8歳くらいだろうか。

 服がスーツなので動きづらいが、とりあえず体を起こして立ち上がろうとしたその時だった。


 ・・・ピコーン!


 「うわぁ!!」


 突然の音にビックリした。

 音が鳴った原因はすぐにわかった。

 自分の視界に、見慣れたインターフェースがある。

 RPGゲームを彷彿とさせるインターフェイスだ。

 そこには緑赤青と三本のゲージが並んでいる。


 「えーっと、これはHP(ヒットポイント)のゲージかな?」


 下のはなんだろう。


 「って、MP(マジックポイント)ゲージじゃねぇか!」


 これってあれか?

 ゲームをやりたいっていう願いのせいなのか?

 まぁ、人生そのものをゲームにしてしまえば、確かにずっとゲームはできるけど・・・

 いや、そんなことはどうでもいい。

 MP(マジックポイント)ゲージがあるということは、この世界には魔法があるってことなのか!?


 「俺、子供の頃から魔法を使うのが夢だったんだよ!!」


 俺は死んだ直後にも関わらず、新しいこの世界への期待を募らせていた。


 「おっと、まずは現状把握だった。」


 目の前に広がるインターフェイスには、小さなマップ、HP(ヒットポイント)/MP(マジックポイント)/SP(スタミナポイント)のゲージ、それとメニューボタンがある。

 まずは小さなマップを見る。


 「うわっ!」


 小さなマップに目を向けただけなのに、マップが拡大された。


 「視線で操作できるのか」


 こんなことで驚くなんて、精神年齢も若返ってるのかな。

 マップを見た限りでは、周辺には何もなく、誰もいないみたいだ。


 ーーースキル「索敵」を手に入れた


 メニューを開いてみると、自分の詳細情報が表示された。

 >名前:北野優希

 >レベル:1

 >EXP:0/100

 >種族:人族

 >職業:なし(転生者)

 >称号:なし

 >HP:100/100

 >MP:100/100

 >SP:100/100

 

 メニューには他にも、アイテム、メモ、カレンダー、電卓、チャット、設定、魔法、スキル、ログ、などの項目がある。

 チャットって誰とできるんだ?

 そう思って、チャットの画面を開くと、チャット欄には「神様(返信不可)」と書いてあった。

 うん。使わなくていいことを願おう。

 設定を開くと無数の項目が並んでいた。

 これは、後で確認してみよう。

 決して読むのがめんどくさかったわけではない。

 めんどくさかったわけじゃない・・・よ?


 「よし!次はアイテムボックスを見てみよう!」


 その時だった。


 ーーースキル「危機感知」の強制有効化の抵抗(レジスト)に失敗した


 という文章がログに出てきた。

 よく見るとその上にも色々なログがある。


 ピーーーーー!!


 「!?」


 画面いっぱいに「危機接近中」と表示され、警告音が鳴る。

 マップを見ると敵を表す赤い点がこちらに向かっていた。

 その方向を見てみる。

 遠くて見えにくいが巨大なドラゴンが近づいて来ている。


 ーーースキル「遠見」を手に入れた


 「この世界には、ドラゴンもいるんだな・・・」


 転生したばかりで何もできない俺は、それを眺めることしかできない。


 「なんかこっちに敵意むき出しな気がするんだけど・・・」


 ・・・やばい、確実にここに向かってきている。

 もう死ぬのはごめんだ。

 せっかく魔法のある世界に転生したのにまだ魔法を使ってないんだよ!!


 ーーースキル「生存補助(サバイバル)」を手に入れた


 今はログに構っている暇はない。

 なんとかしてこの危機を乗り越えなければ。

 俺はアイテム欄の中に、この危機を回避できる可能性のあるアイテムを見つけた。

 スクロールだ。

 これを使えば魔法が使えるはずだ。

 スクロールを見つめると、手にスクロールが出てきた。


 「・・・これどうやって使うんだ?」


 くっそぉ!!どうすりゃいいってんだ!!

 頼む!!発動してくれ!!

 ドラゴンはどんどんと迫ってくる。


 「どうとでもなりやがれぇぇぇ〜〜!!」


 スクロールを片手に、両手をドラゴンに向かって伸ばす。


 ーーー魔法「爆裂魔法」を発動した


 ドゴォォォォォン!!!!


 俺の叫びに応えるように巨大な灼熱の塊が飛んで行き、回避行動を取ろうとしたドラゴンの横っ腹に凄まじい威力で直撃した。


 ーーー称号「狂気の魔術者」を手に入れた

 ーーー魔獣「翼竜(ワイバーン)」を倒した

 ーーーレベルアップ(Lv1→Lv2)した

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ーーーレベルアップ(Lv58→Lv59)した

 ーーーアイテム「翼竜(ワイバーン)の死骸」の回収に失敗した

 ーーー称号「魔獣殺し」を手に入れた

 ーーー称号「翼竜(ワイバーン)の敵」を手に入れた

 ーーー称号「一撃必殺」を手に入れた

 ーーー称号「英雄」を手に入れた

 ーーースキル「爆音耐性」を手に入れた


 ログに色々な文章が表示される。

 俺が魔法の威力に驚きを隠せずに硬直している間に、魔法の直撃にあったドラゴンが落下していく。


 ズッドォォォォン!!!!


 ーーー魔獣「ゴブリン・兵士」を倒した×41

 ーーー魔獣「ゴブリン・兵長」を倒した×7

 ーーー魔獣「ゴブリン・総隊長」を倒した

 ーーー魔獣「ジャイアントボア」を倒した×5

 ーーー魔獣「キラーラビット」を倒した×13

 ーーーレベルアップ(Lv58→Lv59)した

 ーーーレベルアップ(Lv59→Lv60)した

 ーーーアイテム「ゴブリンの死骸」を回収した×49

 ーーーアイテム「呪われた鎧」を回収した×12

 ーーーアイテム「ボロボロの短剣」を回収した×7

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ーーーアイテム「ジャイアントボアの死骸」を回収した×5

 ーーーアイテム「キラーラビットの死骸」を回収した×13

 ーーー称号「ゴブリン族の敵」を手に入れた

 ーーー称号「環境破壊者」を手に入れた

 ーーー称号「食物連鎖の頂点に立つもの」を手に入れた

 ーーー称号「魔獣の敵」を手に入れた

 ーーー称号「漁夫の利を得たもの」を手に入れた


 遠くに見えていた丘の下の森に落ちたようだ。 

 ここまで爆風が届いてきた。

 俺は爆風で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて気を失った。


 ーーースキル「気絶耐性」を手に入れた

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